第41話 一筆啓上、厚かましさが見えた

「例え貴方が拳銃の引き金を引いたとしても、こうとしか言い様がない!

 我が身可愛さにここで嘘を付くとしても、嘘の付き様が無いことをどうすればいいの⁉︎」


 ペヤングは顔面蒼白にして捲し立てる。額には大量の脂汗を滲ませていた。


「風間、彼女は嘘を付いていない」


 榎本が呟いた。


「信じられないけど、ある日突然出来ていて、それが自分たちの物なら使うでしょ」


 予期していなかった榎本の擁護に、ペヤングは気をよくしたかのようだ。しかしだな…


「それで納得がいくものかっ!

 そうだ!お前らが企んでいた、人類半減化計画はどうなんだ⁉︎」


「そんなものあるわけないでしょ。

 狂人の誇大妄想よ。

 だいたい、私腹を肥やす為の営利団体なら、何故人類を半減化させる必要があるのかしら?

 言葉は悪いけど、養分が多ければ多いほど私腹を肥やせるんじゃなくって?」


 糞平の誇大妄想だと言うのか…

 ペヤングの野郎、遂に言ってやったとばかりに鼻の穴を膨らませてやがる。

 それなら一番、大事なことをペヤングの野郎へぶつけてやろう。


「それなら何故、俺たちを処刑したんだ?

 何故!俺たちを処刑したんだ⁉︎」


 俺は知らず知らずのうちに叫んでいた。

 俺の叫びを受け、ペヤングは目を大きく見開き、


「あの時、私たちはそれだけの権力を持っていたから。

 貴方達が私たちの活動の邪魔になるような事、私たちを陥れるような事を、マスコミやネットで拡散していたからよ。

 早い話が邪魔だったのよ!」


「それだけの理由で」


「そうよ」


「たったそれだけの理由で俺たちを…

 この外道共がっ」


「それこそ、人の本質じゃなくって」


 ペヤングは急に落ち着いたかのような表情を浮かべ、さらに口元に笑みを浮かべた。


「お前と一緒にするな」


「風間さん、貴方も結局は自分のことを善意ある一市民みたいな風に思っているでしょ?

 でも、そうじゃない。貴方は自分のことを俯瞰で見れていないのよ。

 いいかしら?人の行動や考えは立場によって変わる。

 貴方も私と同じ俗物。富と権力を手に入れ、あの時の私と同じ状況になったら、貴方も私と同じ事をする」


「決めつけるな!」


「決めつける?決めつけは貴方の十八番みたいなものでしょう?

 政夫さんが大学デビューで見た目を変えたことに気付かず、ちょっと変なキャラだから変人か何かと決めつけ、彼のことを“奴”とか言って嘲笑い、茶化していたでしょうよ」


 何も言い返せない。ペヤングの言う通りだ…


「さらに言わせてもらうけど、風間さんって高校時代にグループで飲食した時、全て政夫さんに支払わせていたでしょう」


 ペヤングのその一言に腋から嫌な汗が吹き出すのを感じた。

 何を言い出すのかと思えば、高校の時代の話か…


「すっ、全てではない、自分でも払っていた!」


「嘘を言わないで」


「嘘ではない!」


「ごめんなさい、ちょっと間違えていた。そこにいる、パリスさんにも払わせていたでしょ」


 ペヤングのその一言に、ふとパリスを見ると、顔を少々紅潮させ、照れ臭そうに頭を掻いていた。


「風間さんは“全て”他人に会計させていたのよ。

 そんな下衆な人が人の行いを野蛮だとか云々するだなんて、図々し過ぎる」


「黙れ、ペヤング!お前だけは!お前だけはーーっ!」


 銃の引き金に触れようとした時、榎本が俺とペヤングの間に割り込んできた。

 しかも榎本の拳銃は俺の方へ向けられている。


「風間、落ち着いてくれ」


「どけ!榎本!」


「この世界の変化が受け入れられないのは私も同じって言ったでしょ!

 私は手に入れたもの、全て奪われたのよ!こんな酷い事ってある⁉︎

 最初から何も持っていない、貴方みたいな底辺には、私の気持ちなんてわかるわけがない!」


 ペヤングは榎本の背後から、顔を覗かせ捲し立てた。その顔は茹蛸のようだ。


「安子もこの世界に翻弄されている一人だ。

 納得がいかないのはわかるが、彼女も被害者なのだよ」


「黙れ若本。そんなことはもうどうでもいい!

 そこをどけ!

 どかぬなら、お前ごと撃つ!」


「待ってくれ。それは後にしてくれ。

 ジェフとの決着だけは付けさせてくれ」


「ジェフだと?」


「あぁ」


 榎本はペヤングの方へ振り返り、


「ジェフを呼んでくれ。奴一人でここへ来るように言ってくれ」


 ペヤングは榎本のその一言を受け、ベッドの横にある電話機の受話器を手に取り、お伺いを立ててくるような眼差しを俺と森本へ投げ掛けてくる。


「シロタン、どうするよ?」


 森本の一言に俺は頷き、


「やらせてみよう。

 ペヤング、余計な事は言うなよ」


 ペヤングは俺の一言に頷き、電話機の内線ボタンらしきものを押す。


「ジェフ?今すぐ貴方一人で来て」



 ペヤングの寝室の戸が開くとタキシード姿のジェフが姿を現した。

 すぐさま、ジェフは身構えるが時は既に遅し、戸の死角に隠れていた森本がジェフの背後を取り、ジェフの後頭部に自動小銃を突きつけた。


「これが何かわかっているな?俺が引き金を弾けば、お前のイケてる顔は台無しだぜ」


「お前ら、何が目的だ」


 ジェフは両手を上げた。


「榎本と一対一で戦ってもらう」


 俺のその一言にジェフは鼻で笑った。


「こいつと?私の圧勝に決まっているじゃないか。それでもいいのか?」


「勝負はやってみないとわからないものだろう」


 得意げなジェフの前で榎本はサングラスを外した。


「私の本気を見せてやろう」


 榎本はその一言の後、厚底靴を脱ぎ捨てる。

 改めて見ると、榎本の厚底靴のソールの厚さは圧倒的だ。

 さらにズボンの裾でソールを隠していたものだから、時代劇の「殿中でござる!」の長袴のようだ。

 榎本はその長大なズボンの裾を破り捨てた。


 榎本…、こいつは本気だ…

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