第1章 タリムの村編
第2話 金髪美少年に転生する
(ここはどこ? 私は……死んじゃったはずじゃ?)
背中に柔らかい感触を感じながら、記憶も意識もはっきりしないまま目を開ける。途端に目に入り込む太陽? の光。まぶしさに目を細めながら上半身を起こす。辺りを見回すと、どうやら私は照りつける日差しを浴びながら、少し乾燥した草の上に寝そべっていたようだ。
(えーと、どういうことかな?)
研究所で倒れたところまでは覚えているのだが、周りを見回しても研究所らしき建物は見つからない。それどころか、あの日は秋の終わりでとても寒い日だったはず。断じて、こんな心地よい暖かさではなかった。
だんだん意識がはっきりしてくるにつれ、何かおかしなことが起こっているとに気づき始める。そして、立ち上がろうと草の上についた手を見て驚きの声を上げた。
「何ですかこれは!?」
その手は、いつも見ている『薬品で肌荒れしたガサガサの手』ではなく、みずみずしい肌に細いすらっとした指が付いていた。慌てて身体を見てみると、白衣の中にセーターと下はジーンズという服装は変わらないが、その身体は30歳の女性のそれではなく、明らかに少年と思われるものに変わっていた。
急いでポケットからコンパクトを取り出し顔を確認すると――
そこには金髪で、スッとした切れ長の目が美しい、顔立ちのすごーく整った10歳くらいの少年が映っていた。
「あら、イケメン! ――じゃなくて、これはどうなっちゃってるのかな?」
まず最初に思いつくのは、これが"夢"ではないのかということ。この現状も、毒ガスで倒れたのも、実は夢で本当はまだ家のベットで寝ているのではないのだろうか。
「夢にしてはちょっとリアルだな~」
そんなことを呟きつつ、もう少し周辺を調べてみる。
どうやらここは森の中で、その中でも木が生えていない、ぽっかり開けたところに私は寝ていたようだ。夢か現実かを確かめるために、とりあえず森の中を一人で歩いてみるが、"草木を踏みしめる音"、"何かの動物の鳴き声"、"自然のにおい"など色々なものが五感で感じられる。
『何だか夢ではなさそうだ』と思いながらしばらく歩き続けると、強い日差しのせいか、だんだんと喉が渇いてきた。
「あー、喉が渇いたな。どこかに水が飲めるところはないのかしら? 研究所の器具があれば水素分子と酸素分子から水を作れちゃうんだけどな」
とは言え、あれは無駄に爆発するし飲めるほどの量はできないか。
周りには誰もいないが、学者らしい冗談を言ってみる。すると――
あの死ぬ直前に聞いたキーボードを叩くような音と、目の前の何もない空間に白い文字が浮かび上がる。
【"
途端に何もない空間から湧き出る水。私は何が起こったのか理解できずに、湧き出る水を眺めている。リアルな五感から、『夢ではないかもしれない』と思い始めていたが、この状況を見て『やっぱり夢なのかな』と思い直す自分がいる。
「夢なら飲んでも大丈夫かな?」
そう思い、空中から湧き出る水を手ですくって飲んでみると――
「うっ、まずい。次はミネラルも一緒に作ろう…………って言ってる場合じゃなーい!」
味はともかく、今飲んだ水の冷たさで頭がはっきり冴え渡ってきた。色々理解できないことが起こっているようだが、どうもこの五感で感じているものは現実だろうと学者の勘が告げている。
「これが現実だと仮定すると、これは俗に言う"転生"なのかな?」
生物オタクは、異世界や転生には興味がないので、詳しい知識は持っていないが、この状況を分析するに『自分が一度死に別の世界で別の人物に生まれ変わった』というのが一番しっくりくる答えだった。
「となると、この水は私が出したことになるのかな?」
転生したことを驚くよりも、目の前の現象の答えがほしい。それが学者の性なのだ。
「水よ、止まれ!」
我ながら陳腐なかけ声だとは思ったが、予想したとおり湧き出していた水は止まり、目の前は何もない空間に戻る。
「では、もう一度、水よ出ろ!」
【"
「えーい、鬱陶しい! この文字は毎回出るのか!」
【……】
(消えるんか―い!)
どうやらあの白い文字はこの能力のヘルプ機能のようだ。文字がでなくても水は出ているので、とりあえず必要な時以外は出ないように念じてみた。
(これって、エク○ルで言えばイルカさんね……って、今のエ○セルにはイルカさんはいなかった? いつからいなくなったんだったかな?)
さて、どうでもいい疑問は置いておいて、自分の能力について考えてみましょう。
確か、死ぬ間際にギフト"
"
実際、何もないところから水素分子と酸素分子を作り出し水を生み出したところから考えると、構成する物質さえわかれば何でも作ったり、逆に分解できたりするのかもしれない。
もっとも、ここがどのような世界かわからないので、この能力が本当に凄いのかどうかはわからないが。ひょっとしたら万人の標準装備かもしれないしね。それはそれで怖い気もするけど……
「これは、どこかで落ちついて研究してみる必要がありそうね」
そう考えて、まずは人間が住んでいることを期待して集落を探すことにした。
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