何もない土地

 Y君が大学入学を果たし、アパートへの引っ越しを終えた日のこと。昼食を買おうとすぐ近くのコンビニまで歩いていると、ふと目についた看板がひとつ。

 家と家の間に細い隙間、そこには低めの鉄柵と鉄扉が設置され、そして「国有地」の看板。スマホの地図アプリを開いて上空から確認してみると、四方を四軒の家に囲まれた空き地が写っている。

 Y君は何となく気になり、鉄柵をひょいと登って、そこに侵入した。結局そこは手入れされていない、なんの変哲もないただの空き地だった。ただ、四方の家々の、空き地を囲む壁面に一つも窓が無いのが少し不気味だったそうだ。

 外に戻ってくると、空き地を囲んだ家の一軒、鉄柵の横にある家の玄関口に住人らしき女性が立ってこちらをじっと見ていた。

 Y君はすぐに「すみませでした」と頭を下げた。女性はひらひらと手を振りながら微笑み、

「いえいえ、いいのよ。それより、何か面白いものはあったかしら?」

 と訊ねてきた。何もありませんでしたと答えると、少し怒ったような不機嫌そうな表情になり、

「そんなはずないわよね。あったわよねぇ?」

 Y君はすっかり怖くなってしまい、もう一度謝って、すぐにその場から走って逃げてしまったそうだ。

 数日後、その家の前を通ると、空き家になっていた。不動産屋の看板にはそこのホームページのアドレスと思われるQRコードが載っていたので、読み込んでみると、やはり不動産屋のサイトに飛んだ。

 そこには、だいたい以下のような内容が載っていたそうだ。


□□□□不動産


○○市●●区△△△一丁目16-1


○○駅徒歩5分、最寄りのコンビニまで徒歩2分。

中古一戸建て。築20年。6LDK

家賃 月75000円

駐車場一台分あり。

間取り:2階建 全居室6畳以上 

室内設備:和室 風呂場に窓


※心理的瑕疵物件です。

※建物内には異常はありません。

※裏の空き地には何もありません。

※もしも裏の空き地に何かが置いてあった場合には、□□□□不動産の担当山本の携帯(○○○-○○○○-○○○○)へご連絡ください。

※裏の空き地に立ち入る人を目撃した場合にも、山本までご連絡ください。



 結局、Y君は何も見てないのだが、何もないはずの空き地に何が見えるんだろうと、今でも少し気になっているらしい。

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