第8話 崇め経つ月 ―プロローグ―


【やめろ!】

【俺たちは仲間だろ!!!】

【助けてくれ!!!!!!】

【そんなことはするな!!】


悲鳴が聞こえる。

うるさい虫だ。人の形をした肉塊は、斬られ、捻じられ、死ぬ。

そこに、例外はない。女子供関係ない。彼に立ち向かう者、逃げる者、祈る者。

そのすべてが、赤い風に斬られ、死んだ。

その惨状の中心に、一人の青年がいた。


【く、来るなぁぁぁぁぁぁ!!!】

【死にたくない!! 死にたくない!!】

【ふざけるな!!!!!】


青年が纏う赤い風。それは彼を中心として半径50メートルの範囲で円を描いて吹き荒れていた。風は内側のものを砕き、圧し、切り裂く。持ち主マスターには返り血一切ない。


罵声と殺戮の渦は、ただ東へと進む。

災厄の台風はすべてを薙ぎ払い、残るは憎しみのみ。


「『ルーガの心音ル・アニマ・ディア』は祝福によってその力を増す。『摂理の肺音ゼロ・マストアウト』は、憎しみによってその力を増す」


青年は、誰に向けたのかわからない言葉を吐き捨て、立ち止まった。

その目に宿るは怨讐。復讐の化身は強く拳を握り、視線を上げる。


「貴様を殺すためにな」




ほうわたしを、おまえごときに倒セルとでも?」


言われたソレは、人と呼ぶべきだろうか。

血塗られた赤い月を背中に、崖から青年を見下ろす、モノ。

ヒトをベースとしたそれは、仮面をつけ、両手がドラゴンのように鋭い爪へと変化していた。異形のそれは、青年とは対照的で、笑っていた。


「倒すさ。この世界をメチャクチャにしやがった、ウェザームーン!」

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カルメリア 讃岐うどん @avocado77

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