第2話 そんなもんよ、男なんて

 ただの娘としてではなく、一人の女として、あなたに尋ねたいことがあります。


 なぜ、あなたは母をあんなにも苦しめてきたのですか。

 金、女、酒と、絵に描いたような失敗を、なぜ繰り返してきたのですか。


 これまで、母からいろいろな話を聞いてきました。どれも、反吐が出るほど最低で、筆舌に尽くし難いものばかりでした。

 ただ、私ももう三十を過ぎています。だから、自分の親のこととはいえ、一組の夫婦の問題に部外者が口を出すのは、愚かなことだという自覚もあります。


 二十歳の頃は、ただ怒りや悲しみに任せて打ちひしがれていました。

 けれども年齢を重ねるにつれて、私は、男女のあれこれについて少しずつ冷静な目を持つようになってきたと思っています。


 それでも、私が二十八の時に、あなたに三十一歳の彼女がいると聞いた時は、さすがに耳を疑いました。

 しかもその日、あなたは珍しく私と食事に行く約束をしていたはずなのに、その女とのデートが急に入ったからと、平然とそちらを優先しましたね。


 私は、迎えのためにわざわざあなたの家まで足を運びました。けれど、あなたは私に謝ることすらせず、まるで悪びれる様子もなく、

 ばかみたいに優しい声で、「部屋の掃除、やっといてくれないか」と言って、汚れの溜まった部屋を残し、そそくさと出て行った。


 あの時は、本当に呆れて言葉も出ませんでした。


 後日、この話を母にすると「そんなもんよ、男なんて」と母はさらりと言ってのけました。

 この時、ずっと引きずっていたあなたたちの離婚に対する悲しみが、すっと静かに消え失せたのを覚えています。


 でもまあ、あなたのお相手の女も最低でしたけどね。貢がせるだけ貢がせて、金が切れたらばっさりとあなたのことを切り捨てた。大して美人でもないのによくやります。


 なぜ、あんな女に引っかかったのですか。

 なぜ、金目当てだと見抜けなかったのですか。

 なぜ、娘の私よりあっちの女を優先したのですか。


 その日暮らし同然のあなたから金をたかるなんて、そんな女と遊んで何が楽しかったのですか。


  本当に情けない。娘からこんなこと言われたくないかもしれませんが、あなたは女というものが全然わかっていない。美しく純朴で魅力溢れる猫の仮面を被った悪女はそこら中にいます。


 あなたはもっと深く知るべきでした。女という生き物のことを、もっと。


 でも私の目には、あなたはいつだって満足気で、陽気で、つつがなく過ごしているように映っていました。


 周りのことなど何も考えていないことが良くわかる程に。

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