Round 1 ヘリオドールの蜂起
第1話 ヘリオドールの街
貧困民層が集う、政府から見放された街、ヘリオドール。
役所や公衆施設もなければ、学校もなく、働き口も限られている。
飢饉を乗り越えられなかった百姓をはじめ、文明の波に飲まれ落ちぶれていった古い武器鍛冶や、手作業を売りにしていた仕立て屋などの商人、かつて人気を博した軽業師やマジシャンなどの大衆娯楽師、鉄筋コンクリートのモダン建築にとって代わられた木造建築家、鍛え抜かれた若い機動隊に追いやられるように引退し、行き場を失くした傭兵など、ここは既に未来への希望を失くし、日々を満足に生きることもままならない人々で溢れかえっていた。
そんな人々の心に安らぎと活力を与えてくれるのが、街に住む子どもたちだった。年齢も性別も境遇も関係なく、ただ皆で無邪気に遊び、皆で協力して大人たちの手伝いをする。そんな健気で愛らしい子どもたちの姿には、街の者皆を笑顔にする特別な力があった。
子どもたちの遊び場は、西端からヘリオドールの街の四分の一程を占める巨大な森だった。整備の一つもされておらず、多種多様な木がうっそうと生い茂るこの森で、子どもたちは木から木へ、岩から岩へ、縦横無尽に駆け回っていた。
そんな子どもたちの中に、「置き子」と呼ばれる身寄りのない者たちが存在した。上の街に住む者が夜中にこっそりとヘリオドールへやって来て、どうしても育てられなくなったり不必要になったりした我が子を、街の中央にある集会所の前に置いていくのだそうだ。
集会所にはエルヴィス・ラリマーという初老の男が住んでおり、彼は置き子たちを引き取って、集会所が彼らの家になるようにした。エルヴィスは置き子たちだけでなく、街の子どもたちみんなに、読み書きや計算を教えたり、国に伝わる古い伝説を語って聞かせたりした。
そして子どもたちはみんな、エルヴィスが大好きだった。
ある月の見えない夜、集会所の前に三つの影が落ちた。
一つは周囲を絶え間なく見回し、一つは手に大きな武器を持ち、そしてもう一つは、赤子を抱いていた。
影は赤子を起こさぬようそっと地面に置くと、なにやら紙切れのような物を二枚、赤子をくるむ毛布に忍ばせた。
そのまま、三つの影は見向きもせず、光の方へ帰って行った。
残された紙切れにはこう書かれていた。
“ジェシー・アイドクレース 罪人の子” と。
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