ランドリー
あの男なら随分前に死にましたよ
いや、死んだと云ふのは不正確で
噂では
死んだやうな
靴磨き職人になったとのことです
ケバブ屋の斜向かい
テロメアの対角線上に
位置していて
人目につかず
さみしい商売ださうです
なぜそのようにしているのか
私は問うたが、
カシオペイヤのはらわたに宙吊りになった
その老爺は
それ以上の対話を拒んだのか
補色のみの油絵になったのち消えた
あとには
かすかな采配蘭の香り
私は蹄を鳴らし、ナイフを回し
腿より下につくすべての脂肪を削ぎ
諦めが巣食うのにも劣らぬ速さで
秋雨の大路を駆けていった
老爺のいう場所には
無限のコインランドリーがあった
私は安堵した
ランドリーを包む無謬のアルミニウム
鏡像が生み出した疑似的な永遠
彼はそこにいるのですね
私もそこに行けるのですね
信頼とはかくなるもの
親愛とはかくなるものですね
私は時計を、櫛を、
入れ墨を、乳房を
ほかの二、三のものを取り落としたが
構わず進み続けた
誰かがこれを拾うだろうか
我がものとするだろうか
云うだろうか
あの女なら随分前に死にましたよ
いや、死んだと云ふのは不正確で
噂では
死にかけの躰を脱ぎ去って
閑古鳥になったやうです
アラビアの地層の底に
男とともに暮らしていて
カラカラのおかしい声で
よく鳴くのださうです
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