第30話 痴話喧嘩

 扇木さんから適宜邪魔が入りながらも今日の出来事を一通り話終わる。


「ふむふむ。映画撮影は学級委員長の美里ちゃんだっけ? がフォローしてくれるのね。いい人見つけたわね」


「はい、そうなんですよ。美里さんはいつも虚弱を心配して率先して行動してくれるんです。学校に不慣れな私に合わせてくれるし、何か困ったときにはいつも近くにいて守ってくれるんですよ。わかります? 女の子っておしゃべりが好きなんですよ。その中に混じる男の私がどういう状況か。そんな時さりげなく美里さんが輪に入ってきてくてれフォローしてくれるんですよ。さすが学級委員長だと言わざるを得ませんね。もうヒーローですよ。異性だったら惚れちゃいますよ。マジで」


「……沙月ちゃん、自分が言っていること理解してる?」


「もちろんですよ、まったく何言ってんですか。美里さんいい人すぎて虚弱とか嘘ついてるのが心苦しいくらいです」


「自覚ないのね。まぁ沙月ちゃんがそれでいいなら別にいいけど……ふぅん、長瀬美里ねぇ」


 珍しく真顔になる扇木さん。だけどすぐにいつもの顔に戻る。


「ではでは映画出演頑張ってくれたまえ! これは完成が楽しみだわ」


「これも契約内容の範囲内ってわかってても嫌なものは嫌ですからね。そのあたりは理解して下さいよ」


 はいはい、了解〜。って全然わかってない返事をする扇木さん。


「あっそう言えば、この高校には芸能科ってあるんですね。二年生から選択できるみたいで、新湖先輩は芸能科ですって」


 あるわよ。言ってなかった? ってニヤつきながら言う扇木さんの顔がとても悪い顔になっている、だと!? この流れはもしや……はっ!


「い、行きませんからね。ぜっっったいに行きませんから!」


「えーどうしよっかなぁ。沙月ちゃん美人だから芸能科でも通用するだろうし、んー、迷うなぁ」


 あの顔腹立つ〜! たしかに雇われてる身の私には決定権がない。だけど、相手の気持ちを考慮してもいいじゃんか!


「あのね、上司の立場を利用した優位性で一方的な決めつけは横暴ですからね! 今の状況はパワハラですから! 訴えますから!」


「あらあら、私がいつパワハラしたのかしら? 沙月ちゃんには楽しく愉快で愉悦な学苦園がくえん生活を送ってほしいから迷ってるのに。心外だわ〜、芸能科に行けばもっと癖、じゃなくて個性溢れる生徒と仲良くなれるのよ」


 なんだよ愉快で愉悦って。しかも癖が強い生徒って言いかけてるし。普通に楽しくだけでいいんだよ! そうでなくても女装というハンデを背負っているのに。


「私の事を考えてくれてるなら芸能科は外してください。さっきだってロリ子に捕まって大変だったんですから」


 芸能科フロアにいた僅かな時間に絡まれたんだから、その内側に入るなんて猛獣の檻の中に飛び込むようなものだ。ほぼ間違いなく私にとって不利益になるに違いない。ガチで嫌だ。


 ロリ子って誰? って聞いてきたので、帰り際に拉致られそうになった話しをする。


「そ、それは災難だったねぇ。ト、トイレからの脱出作戦ってわけ? ぷはっ、だめ、笑わせないで〜。あははは〜、しかも幼女に絡まれるなんて、やっぱり類は友を呼ぶんだね〜」


「好きで絡まれてるわけじゃないし! それに同類でもないから! 同類で言えばあのキラキラ文房具とか買ってくる扇木さんのほうが近いと思いますけど!」


「あれは沙月ちゃんに合わせて買ったんだよ。ぷっ、そのロリ子ちゃんもキラキラグッズ持ってるかもよ! よかったね〜、一緒じゃん」


「あ、そういう言い方しちゃう? カチンときちゃうなぁ。そもそも扇木さんが揃えた物でしょ! どれだけ私が恥ずかしい思いしてるか知らないからそういう事言えるんだよ!」


 その後、売り言葉に買い言葉が重なり、稚拙な口喧嘩へと発展したが、語彙力のない沙月の敗北によってすぐに幕を閉じる。


「ばーか、ばーか、扇木さんのばーか!」


「ふふん。負け犬の遠吠えが聞こえるわねぇ。室内まで聞こえるなんて余程大きな声で騒いでいるのね」


 くっ、かてねぇ。この人頭おかしいくせに頭が回るんだよ。もう俺には抵抗する口撃がねぇ。ちくしょー!


「いつも仲良いわね、あなた達」


 そんな言い争いをしていたらいつの間にかリビングに入ってきた人物が会話に混ざってきた。


「この罵り合いを見て仲良いって思うのはどうかと思いますよ」


「そうよ、沙月ちゃんと私は仲良しなのよ」


 二人の意見が食い違う。


「内容はともかく楽しんでるように見えるわよ貴女達の会話は」


 なんと、この言い争いが痴話喧嘩のように思われてるってこと? なんてこった。


「いやいや、井草さん。頭の回路がおかしい扇木さんが私のことをおちょくって、その姿を見てニヤけるサディスト的思考の会話が楽しいとかありえませんから!」


「むふっ、沙月ちゃんてばそんなに私の事が好きなのね。いいわよ、もっとイジ、じゃなくて楽しませてあげるわ〜」


「ほらほら、聞きまたした? 今の流れでどうして好きって事になるのか理解できます? そしてイジメって言いかけましたよ! こんな事言う人と仲良く見えるなんておかしいですよ!」


 そしてまた言い合いを始める扇木さんと私。その光景をみてやっぱり仲が良いわね。って言って顔を綻ばせた井草であった。



--------------


お読みいただきありがとうございます。

作品のフォロー励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る