第二話 大洋渡り ~おおわだわたり~ 其之一
それに最初に気づいたものは。
夜闇の
その
しるべといえば夜の星しか見当たらず、よるべなき波の旅路に嵐の
そんな青い奈落の
そんな
されどもその重き
旅のあいだは、酒や
この
その眼が、
しばし焦点も定まらぬまま闇を
震える右手は傍らにころがっていた
三回目を打とうかと鐘木が迷っているうちに、どたどたという足音が
「何事だ」
「前方に、
「障りだと」
その脳裏には、
嵐の気配はおろか大波すらもない、月の歌に静まる海のありさまが。
「ただちに船を引き返させて、先に泊まった
「船を返せと?」
いまや
どすどす、と、
その
月の歌が朗々とひびく夜空には雲ひとつないのが、たやすく見て取れ。
その歌に聞き入るように、海のおもては銀の小波をゆらせています。
―― いまさら船を返せだと。
きしむほどに、
これまた
南方の陽光と豪雨のはぐくむ密林に
同じ重さの
南国に生ず
おなじく
そして、それらすべての値をたばねてもまだ及ばぬ、火噴きの峰のさらに彼方にあるという黄金の森にしか棲まぬと伝えられる
いずれも
けれどそれゆえに、船旅に遅れあらば、その褒賞もがたりと損なわれる懸念なしではありません。
―― 嵐に
―― この上、今すぐに船を返せだと。
―― 影も匂いもありはせぬ
あの若い
一度なら
――
けれども、その手間、さらなる旅の遅れについて苛立ちもみせず怒りもせぬということはあり得ぬと、たやすく予想がつきました。
―― その責めをぶつけられるのは
―― この
怪しいほどに穏やかな海。
潮と風とはゆるやかに、されど確かに船を北へと運んでおり。
水夫どもは、帆柱のうえの見張り一人を残したうえで、しばし休めと言いつけたばかり。
普段とは打って変わって静まりかえった船のうえ、舞うものはただ、月の光。
背後から誘うように投げかけられるその妖しの歌に抱かれて、どれだけ
「
「なんだと」
《第二話 了》
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