違和感

 「今回こそは貴様を殺す!!」


 俺の前で高笑いをかまして息巻いている魔人・老婆ローバ

 どうやら俺に復讐するため、新しい力を手に入れたようであった

 執念が気色悪すぎる。そんなに復讐がしたいのか

 人間の考える事は分からないが魔人の考える事も分からない



 「キッショ」


 「言いたいだけ言えばいい。どうせ貴様は死ぬのだからな!」


 「いちいちキショいな。そういうのは俺を殺してから言えよ」


 生理的に無理になってきたぞ、こいつ

 言動がいちいち気色悪い。とっとと終わらせたいので一撃で葬りたい。だが、一撃で葬ろうと出力を上げるため後片付けが極上に面倒くさい

 出力を押さえて一撃で葬るしか無いのだが、出力を押さえた結果葬れないなんて事があっては本末転倒だ

 確実に一撃で葬れる……その隙が生まれるまで待つか



 「ならばお望み通り殺してやる!!」


 ローバは自信満々に右拳で地面を殴る。吸い込まれるほどに黒いトゲがアルベルを刺そうと、前後から伸びてくる

 アルベルはジャンプでトゲを躱すと空中でバク宙して後ろに下がる。アルベルが先程いた場所はトゲで埋め尽くされ、躱せていなかったら串刺しになっていただろう

 後ろに下がったのも束の間、また後ろからトゲが伸びてくる。アルベルは咄嗟に手で受け止める

 手がトゲに触れた瞬間、またしても何かが自身の体に流れ込んでくる不快な感覚に陥った

 2度、同じ体験をしてこのの正体に気付いた

 手をどけ、体をひねり、後ろ回し蹴りで漆黒のトゲを破壊する。破壊されたトゲは粉々に砕け散り、消滅した

 トゲを破壊されたローバは口をあんぐりと開け、呆然としていた



 「なるほど。闇か」


 この黒いトゲに強大な闇の力が込められている

 前戦った時はここまでの闇の力は無かった

 何をした?これほどまでの力をどうやって手に入れた?

 手段は不明だが、碌な手段では無いだろうな

 老婆ローバとの付き合いが長い訳では無いが、こいつがどういうやつなのかは分かる。復讐のために何でもするだろう。手段を選ばずにここまでの力を手に入れたんだろうな

 


 「はぁ……ほんっと……その執念深さには反吐が出る……!!」


 「……!!」


 アルベルはため息を1つすると冷酷な視線をローバに送る

 ローバはヘビに睨まれたカエルのように固まり唾を飲んだ

 ローバの額には早くも冷や汗が浮かんでいた

 


 「龍骨碎拳ドラコスストレート


 ローバがいつまで経っても攻撃してこないので待ちくたびれたアルベルは自分から殴りに行く

 この技は以前、アルベルを襲ってきた冒険者が使っていた技(模倣スキルを持っているため人の技だろうと使いこなせる)

 未だにヘビに睨まれたカエルのように固まっているローバにアルベルの攻撃を防ぐ術など存在せず、右拳がみぞおちを一寸の狂い無く捉えた

 ローバは反射で口から大量の唾を吐き出す。が、その口元は笑っていた

 強打された勢いのまま硬球の如く吹き飛ばされ、木に直撃してその場に伏す



 「チッ……体にも闇を巡らしてやがるのか。ウッザ」


 老婆ローバを殴った時に闇が流れ込んで来る感覚があった

 トゲだけでなく体にも闇を流すとはな。コイツはマジで救いようが無いな。気色が悪すぎる

 さっき笑っていたのはそういう事か。じゃあ突っ立てたのもわざとか……?

 殴られるためにわざと隙を作った……?

 あー考えるだけでウザいな。めちゃくちゃ腹が立ってきた

 そんなに殴られたいならハッキリ言えばいいだろ。ドM豚野郎が



 「アイツはバケモノか……!?」

 

 ローバは何度も闇が体に流れているアルベルが未だに平気な顔で立っている事に驚きを隠せない

 だが、何回かはアルベルの体に闇が流れたのだ。あともう少しで限界が来るとローバは考えていた



 「おい、何ボサッとしてんだ?」


 「?」


 ローバが寝そべったまま思考にふけていると人型の影が自身を覆った

 恐る恐る顔を上げていき眼の前にそびえ立つ生物を視認する

 そこには冷酷な目線で自身を見下ろす人間・アルベルがいた



 「ブハッ!!」


 「とっととくたばれ」


 アルベルはサッカーボールを蹴るようにローバの腹部に向かって右足を振り抜く

 メキッという音が聞こえそうな程の威力の蹴りであった。この蹴りでローバを触った瞬間にもアルベルの体には闇が流れている

 ローバは蹴られたサッカーボールのように吹き飛び、ボールのように地面をコロコロと転がる

 生まれたての子鹿のようにガクガクと震えながら立ち上がり、自身を見つめる人間と視線を交叉させる

 


 「ハァ……ハァ……」


 「お前は生かしておいてもろくな事が無さそうだし、ここで殺す」


 「なぜ……!!なぜお前は倒れない……!?」


 「は?」


 「貴様の体に闇が何度も流れたはずだ!!それなのに、なぜそんなに平然としてられる!!!?」


 「……そのレベルの話か。それすら分からない癖に復讐とか言ってたのか、呆れるな」


 「なんだと……!!?」


 アルベルは自身を殺すと息巻いていた刺客のレベルの低さに軽蔑すら覚える

 なぜアルベルに闇が効かないのか、それは至ってシンプル。闇に対する抵抗があるためである(闇抵抗のスキルを会得している)

 少量の闇しか流れていないため全くと言っていいほど影響が無いのだ

 ローバは自身の武器が効かず、その上レベルが低いとバカにされた

 怒りが全身を包み我を忘れそうになった時であった



 「この辺じゃないかなぁー?」


 「確かに!この辺ですごい強くなってるよ!!」


 背後から人の声が聞こえ、足音と共にこちらに近づいてきている

 気配は感じ取っていたがこの奥深くまで来るとはな、油断した……

 背後にいる人間は2人、どちらも女。ここまで来るということは冒険者だろうか?

 手に金属探知機のようなものを持っているが、あれは魔法探知機か?(魔法探知機とはその名の通り魔法を探知出来る代物。魔法は放つと痕跡が残る、その痕跡の近くになると音が鳴る。ほぼ金属探知機。規模の大きい魔法や出力の大きい魔法、強い魔法は痕跡が強く残るため遠い場所からでも探知が出来る。アルベルの魔法は強すぎたため簡単に魔法探知機で探知された)



 「おーい!こっちこっち!!」


 幸いまだ俺達には気付いていないようだ。この辺は人の手がつかないため木々が生い茂って視界が悪い

 どうやら人を呼んでいるみたいだ。人が多くなってくると面倒が過ぎるな

 だが、気付かれるのは時間の問題だろう。早いところ老婆ローバを始末しなければ

 正面に直ると気味悪い薄ら笑いを浮かべた老婆ローバがいた

 心霊映像でも見てるのか俺は?気味悪すぎてキモいんだが……



 「クックック……!!俺にも運が向いてきたなァー!!!!」


 「は?寝言は死んでから言え」


 アルベルが魔法の準備をした時にはローバは消えていた。そして、冒険者たちの元へ急接近して行く

 ローバの目的が分かったアルベルは誰にも聞こえない程の音量で舌打ちをした



 「死ね」

 

 「ウゥ、ア"ア"ァァァァァ!!!!!」


 ローバは戦闘が繰り広げられてるとも知らずに近づいてきた冒険者の間近に現れ首を掴み持ち上げる

 首を締め呻き声が漏れたのも束の間、闇を全身が駆け巡り雄叫びとも取れる悲鳴が森中にこだました

 段々と声が小さくなり何も言わなくなるとローバは手を離す。解放された冒険者は亡き骸のようにピクリとも動く気配がしない


 

 「ヒッ……!!」


 仲間が倒される様を間近で見ていた他の冒険者は腰を抜かし、表情は恐怖で引きつっている

 のそのそと後退しローバと距離を取ろうとするが、狩人は獲物を逃しはしない



 「貴様も死ね」


 「イヤ!!ギャァァァァー!!!!」

 

 尻もちをついている冒険者のこちらも首を片手で掴むと軽々と持ち上げる

 首を締め上げると苦しみから逃れるように藻掻いてじたばたする。抵抗する女に腹が立ったローバは加減などお構いなしに闇を流す

 またしても鼓膜が破れそうになるほどの悲鳴が森中を包んだ。あまりの悲鳴の大きさにローバは空いている手で片耳を塞ぐ

 それでも聞こえる大きさは変わらなかったため顔を歪め悲鳴にかき消されながら舌打ちをして、さらに闇を流す

 アルベルは悲鳴の大きさを予測して静寂サイレントを自身の周りにかけていた。片耳しか塞がないローバを見て「何がしたいんだこいつ」と心の中で思っていた



 「なんだ!?今の声は!!」


 遠くではあるがこちらに気付いたものがいるようだ

 ぞろぞろとやってくると面倒だ。とっとと老婆ローバを始末しなければ



 「クックックッ、どうだ?」


 「は?何がだよ?」

 

 「目の前で同族を殺されてどんな気分だと聞いているんだ」


 「……」


 「辛いか?苦しいか?俺は人間を殺し続けるぞ。やめて欲しくば頭を下げて命乞いをしろ」


 「同族が殺されるのは嫌だろぉー?早くしろ」


 この程度でゆさぶりをかけているつもりか?そうだとするなら勘違いも甚だしいな

 勝手な偏見を押し付けやがって腹が立つな……!!



 「別に他の人間が死のうと俺には知ったこっちゃ無い。ただお前の勘違いには反吐が出る……!!!」


 俺は老婆ローバの元へと歩み寄り、両手で拳を握りしめる

 老婆ローバはまたしても蛇に睨まれた蛙のように1歩も動かない

 ローバには自分がどんなに多種多様な攻撃をしても多種多様に返されると分かっているのだ

 超能力者じゃなくても自身の未来が分かるのだ。それゆえに何も出来ず、受け身になってしまう

 


 「なんだと?」


 「同族が死ぬのは嫌?知ったような口を聞きやがって……!!お前は俺の何を知っている……!!!!」


 十分近づいたところで歩みを止めて握り拳を解き、魔法の準備を整える

 この一撃でこいつは葬り去る。今の問題はこいつをどう始末するかでは無く、この後どう立ち回るかだ

 冒険者たちがわらわらとここにやってくる。ここにいては面倒事に巻き込まれる(既に巻き込まれている)

 一刻も早くここを立ち去らなければならない。立ち去るにしても手ぶらでは証拠を残す……

 いや、いいのか

 老婆ローバ程度の闇であれば容易いな

 


 「……ゴクン」


 「暗黒舞踏会ダンスインザダーク


 奴が唾を飲んだと同時に両の手のひらに闇を発生させる。水晶玉程の大きさになったところで地面に落とす

 落ちた箇所から瞬く間に闇が広がり辺り一帯を覆う。そして無差別に物を沈めていく、木々に冒険者たちの身体、そして我が家も

 もちろん闇使いも例外では無い



 「何!?俺が沈んでいるだと!?」


 「お前程度の闇くらいのみこむのは容易い事だ」


 「ふざけるな!!!!この程度で……!!!!やられるわけが無いだろォォ!!!!!!」


 闇使いであるローバが闇にのまれる、アルベルでなければ出来ない代物だろう

 ローバも必死に闇を巡らして対抗するのだが、何の効果も無く自身の身体は闇に沈んでいく



 「動け!!!!動けよォォ!!!!クソがァァァ!!!!!!」


 「貴様は絶対に殺してやるからなァァァ!!!!!!」

 

 ローバは屈辱を受けながら沈んでいき、最後に目に写った光景は自分を冷酷に見つめるアルベルの姿だった

 アルベルの闇はローバの渦巻く様々な感情を全てのみこみ、無に帰した


 

 「最後までうるさい奴だな」


 老婆ローバが完全に沈んだのを見て闇を収束させる。ハンちゃんは闇を落とす前に防護壁で全身を包んでおいたため無事だ。家族を巻き込むなんて考えられない

 これで厄介な奴は片付いた。だが、本当に厄介なのはこれからだろう。我が家は無くなりもうじき冒険者たちがわらわらとここにやってくる

 見つかる前に移動しなければならない

 どこに行こうか?ここ以上に住みやすい場所があるだろうか??…………考えるのは後だな

 とにかくハンちゃんを連れてどこか遠くへ行こう

 じゃあな。我が家

 アルベルは寂しそうな目を我が家の跡地に向ける。言葉通り跡形も無くなった跡地に背中を向けて歩き出す。その後ろ姿には哀愁が漂っていた

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冒険者ランク1位になったけど掌返ししてくる奴らのせいで人間不信になったので冒険者辞めて隠居します in鬱 @kauzma

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