群集
「ヴォヴォヴォヴォ!!!!」
「また魔物か……最近多いなぁ」
畑の手入れをしていると俺の背後から魔物の鳴き声が迫ってきていた
最近魔物が増えた。これで今日5体目。前までは一体とも会わなかったのにな
だが、この程度の魔物ならすぐに片が付く
この調子ならいつかは大型の魔物も来るだろう。めんどくさいなぁ
なんでいきなり増えたのかねぇ。調べる気は無いけども
平穏の生活を邪魔するなら処すけど
「光子熱線」
アルベルが気だるそうに人差し指を魔物に向け魔法を唱える
指先から光線が魔物に向かっていく。光線の速さに対応できなかった魔物の体を容易に貫いた
人差し指を上に持ち上げていき、光線が連動して魔物の体を2つに分断していく
脳天まで2つに分断された魔物は力無く膝をついて倒れる。断面は熱で溶けておりドロドロとしている
魔物の死体は余熱で溶けていき全体がスープのようになった
「これはさすがに食べ……られないな。見るのもキツい」
「クゥーン!」
ハンちゃんが魔物のスープを見ると目を輝かせて一直線に向かっていく
おいおいおいおい、マジか?嘘だろ?
「ペロペロ」
「よし、分かった。俺は見ない。絶っ対に見ないぞ」
俺の予想通りにハンちゃんは魔物のスープを満足そうな顔で舐め始めた
俺はなるべく見ないようにして畑の手入れを再開した
その後も背後でペロペロと舐める音が聞こえてきて、食事シーンを想像してしまうため
「クゥーン!!」
「ん?どうした?」
ハンちゃんが近くに寄ってきたのを気配で感じ取り、振り返ると案の定ハンちゃんがいた
その後ろに目をやってみると先ほどまであった魔物のスープは綺麗さっぱり消えていた
中途半端に残してない。よかったぁ
俺はハンちゃんの頭を撫でてあげた。目を細めて嬉しそうだ
ハンちゃんが顔を一層俺の顔に近づけてきた
あ、これマズい
「ベロベロ」
「……アリガトウ」
ハンちゃんが俺の顔全体をなめてきた。ずっと一緒にいるから愛情表現なのは分かっている
だが、あのシーンを見た後だとちょっと素直に喜べない。ハンちゃんは俺の気持ちなどお構いなしにどんどん舐めてくる
うんうんアリガトウ。あとで顔洗おう
――――――――――――
「よう、ポリエス」
「リーマンさん!来たんですか!?」
「電話じゃ伝えきれてないと思ってな」
「この後ろにいる人たちは?」
ポリエスが率いる治安部隊の駐屯所にリーマンとその他大勢の人がやってきた
治安部隊は自国の治安を守るために国内外を問わず活動する
治安維持のためなら際どいことはやる。グレーな組織でもある
保安部隊が警察の表なら治安部隊は警察の裏
「こいつらが集まった冒険者たちだ」
「へぇー結構いますね」
リーマンの後ろにいる冒険者の数は100はゆうに超えている
冒険者たちは剣、杖、盾などなど様々な武器を持っていた
「被害者の証言だと魔物の森で迷って森奥に行ったところで不審者と出くわし戦闘になりパーティーは壊滅。その後の記憶が無いそうだ」
「迷ったなら経路も分からないっすね。とりあえず奥ですか」
「被害者も経路は全く覚えていない。森奥しか当たる場所が無いな」
「奥って言ったってこの森めちゃ広いですよ」
「そのためにこんだけの人数がいるんだろ」
「僕が自由に使ってもいいですよね?」
「あぁ。だが、無茶はさせるなよ」
「分かってますよ」
「じゃあな」
「リーマンさんは一緒じゃないんですか?」
「俺はこいつらの案内とお前にちょっとした詳細を伝えるために来ただけだ。現場で何かできるほど暇じゃないからな」
リーマンの言葉にポリエスはため息をついた
リーマンはそんなポリエスを横目に集めた冒険者たちの方を向く
「こいつが隊長のポリエスだ。現場の指揮はこいつが執る。言う事は聞くようにな!」
リーマンは大きく息を吸い込んで全員に聞こえるよう大声で言った
リーマンの言葉を聞いた冒険者たちは十人十色に首を縦に振った
「あとは頼んだ」
「はい。後でご飯行きましょう」
「予定が空いてたらな」
「今なら僕、明日と明後日とその次の日も空いてるんですけど」
「お前、暇だろ」
「これくらいがいいんですよ。リーマンさんが働きすぎなんです」
リーマンは眉をひそめて首を縦に何度も振って分かったと言っている
ポリエスはこの仕草を見て何も分かってないなと確信した
「もう帰るぞ」
「うぃーす」
リーマンは今度こそ背中を向けて職務へと戻る
ポリエスの言葉に背中越しに右手を挙げて応えた
「さてと……」
「集まってくれた冒険者諸君、僕は厳しいよ?」
ポリエスはにんまりとした笑顔で集まった冒険者に言った
その笑顔を見てしまったポリエスの部下は顔が青ざめていた
――――――――――――
「……人が多い」
いつもはこんなに人来ないはずだが……
冒険者か?いや……にしては多すぎるな
じゃあ一体何なんだ?
森が騒がしくなるのは困るなぁ(←騒がしくしてる原因)
「まぁこんな奥まで来るわけないか」
「……なんか嫌な予感がするんだよなぁ」
「気のせいだよね。きっと。きっとね」
畑仕事を一区切りつけ家で休憩しようと立ち上がる
と、背後から魔物の気配を感じた(ハンちゃんが吠えないのは就寝中)
だよねぇー嫌な予感がすると思ったんだ
「お前……!?」
「よう……」
「……誰だっけ?」
「ぶち殺すぞ貴様」
アルベルが振り返ると魔物の群れと共に魔人の男が立っていた
アルベルはその魔人の顔に見覚えがあったのだが全く思い出せなかった
あれ?こいつ誰だっけ?見たことはあるんだよなぁ
「魔将軍・8軍隊長のローバだ」
「あー思い出した。老婆だ」
「ババアじゃねぇ。ローバだ」
思い出した。魔将軍にこんな奴いたな
俺が倒したはずだがなんでこんなところにいるんだ?
(魔将軍とは魔将と呼ばれる魔物共の親玉の軍勢の事。アルベルが冒険者をやっていた時に魔将軍は壊滅し、その親玉は行方が分からなくなっている。このローバはアルベルが1位の時に戦った魔人。その際、半殺しの状態で倒した報告をしたため生き延びてしまい今に至る)
「生きてたのか」
「貴様を殺すために戻ってきた」
「はぁ……めんどくさ」
人間もめんどくさいが魔人もめんどくさいな
ようするに俺に復讐をしたいがために戻ってきたというわけか
そのまま死んでくれればよかったのに……
「貴様から受けた屈辱を全て晴らす」
「屈辱……それが復讐する理由か。理由を聞いてもめんどくさいな」
「侮辱するのもいい加減にしろよ……!!」
「やれ!!!」
「ヴォウヴォウヴォウ!!!!!!」
ローバは後ろに控えている魔物に命令を下す
魔物たちはいきり立ちアルベルに向かっていく
その光景を見たアルベルは頭を抱えてため息をついた
「
アルベルは気だるそうに魔法を唱える
眩い光の球体が魔物の軍勢にゆったりと向かっていく
向かってくる魔物の軍勢とぶつかる直前、眩い光の球体が煌びやかに爆発四散した。ローバは眩い光に思わず目を閉じる
光が収まり、ローバが目を開けると光が爆発した空間に存在していた地面、木々そして連れてきた魔物の軍勢が消滅していた
視線の先に立っていたのは冷酷な目をしたアルベルただ1人
ローバはアルベルの突き刺すような鋭利な視線に冷や汗が流れてくるのを感じていた
「はぁ……直すのめんどくさいんだよ」
「嘘だろ……?あれだけの出力の魔法を撃っても疲れてないのか?次元が違い過ぎる……」
「復讐するって言っておいて自分はやらないんだな」
「は?」
「お前の屈辱ってそんなもんなんだ」
「貴様……!!」
アルベルは呆れた顔・声で言った(本人曰く煽っているわけでは無く、思ったことを正直に言っただけ)
ローバはアルベルの言葉にいきり立って一直線に向かっていく
ことはしなかった。というより出来なかった
「X光熱線」
ローバの顔のすぐ隣をアルベルの指先から放たれた熱線が通り去った
少量の髪が消滅し、その部分から焼け焦げた臭いが漂う
ローバは向かって行っていたら直撃していたと確信した
アルベルは熱線がローバの髪をかすめたのを見て人差し指を凝視した
(アルベルはローバが動きそうだったので牽制するつもりで適当に撃ったらかすめていたので自分でも驚いている)
「どうした?」
「クソが……!仕方無い」
ローバはいきなり拳を地面に叩きつけた
なんだあいつ?一旦、距離を取るか
すると先ほどまでいた場所に漆黒のトゲが突き出ていた
こいつは黒い色のトゲを操る攻撃をしてくる奇妙な奴だった
だが、こんなにトゲの色黒かったか?
ここまで漆黒では無かったと思うんだが……
「目線を逸らしたな!!」
ローバが再び拳を地面に叩きつけた
後ろで気配を感じ振り返ると地面から漆黒のトゲがこちらに伸びてきていた
トゲの側面を掴んで止めようと手を差し伸べる
俺の手がトゲに触れた瞬間、違和感を感じ思わず眉をひそめる
咄嗟に手を離し、トゲからも距離を取る
「?」
なんだ今の感覚?一瞬だったから分からないな
でも、何か得体の知れないものが流れ込んでくる感覚だった
不気味だ。元から奇妙な奴だったがさらに奇妙になってやがる
復讐したいがためにこんな事までするのか
ここまで来ると気色悪いぞ
「フッフッフ」
「……めんどくさい」
すぐに片を付ける事は出来るがそうしたら後が面倒くさい
それにここでやったら家が無くなる可能性もある
出力はなるべく抑えて戦うか
――――――――――
「あーあ始めちゃったよ」
「あれだけやめろと言ったのにねぇ」
ここはとある廃墟。集まっているのは魔人の男女
ローバが戦闘を始めたのを確認し童顔の男と質素な髪飾りをした女が呆れていた
(魔人は同族の気配に敏感。魔人がどこで何をしているのかがだいたい分かる)
「いいじゃないか。あいつは復讐にしか興味が無いようだし、やりたいようにやらせればいいだろ」
眼鏡を掛けた魔人の男が呆れている2人に言った
「ただでさえ人員不足なのに……」
「また1人減るなぁ」
幼女のみための魔人と目を閉じた男の魔人は人員が減る事を憂いていた
「勝てると思う?」
「「「無理」」」
金髪が目立つショートヘアの女の魔人が集まっている皆に問いかけるように言った
全員が同じタイミングで同じことを言った
これを聞いた金髪の魔人は分かっていたように首を縦に何度も振った
「ローバの実力、そして消えた冒険者の実力を知るいい機会だ」
モデルような体形に整った顔をした男の魔人が立ち上がり皆に言った
この魔人の言葉を聞いた皆は納得したように首を縦に振った
「お手並み拝見といこうじゃないか」
先ほどの魔人はニコッと笑った
だが、視線は冷たく感情が失せた目をしていた
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