始まりの日 - ショートショート

神野 浩正

始まりの日

 あるところに男がいた。彼はいつも不平不満を口にしていた。仕事でも家庭でも、何かと他人のせいにしていた。仕事が遅れれば上司や同僚のせい、家での問題があれば妻や子供のせい。しかし、自分から解決策を提案することは一度もなかった。


「どうせ俺がやっても無駄だからさ」と、彼はよく言っていた。そのくせ、自分にはもっと良い待遇が当然だと考えていた。彼は「人は死んだら転生するかもしれない」という話を耳にしたが、「そんなバカな話、あるわけがない」と一笑に付していた。それでも心の中では、「神になって人々を思うがままに操りたい」と密かに思っていた。


 突然の出来事が彼の人生を変えた。急いで横断歩道を渡っていると、運悪く一台の車が突っ込んできた。はね飛ばされ、地面に叩きつけられた彼は、意識が遠のくのを感じた。その瞬間、彼は「神がいるって言うのなら、俺を神に生まれ変わらせろ!」と心の中で叫んだ。


 気がつくと、男は暗闇の中にいた。何も見えない、何も聞こえない。しかし、彼は「何だよこれ、真っ暗闇じゃないか! なんで真っ暗なんだよ!」と叫び、誰か何とかしてくれるのをただ待つばかりだった。


 そして、男は永遠の暗闇の中で不平不満をこぼすばかり。彼はその願い通りに神になったのだが、その力を使うことはなかった。自分の世界を明るくする最初の一言、その重要な「光あれ」という言葉を口にすることすらしなかった。

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