第17話 アップルパイ

朝食用にひとつ残していたリンゴを食べた後、まずは庭師のところへ向かった。


アップルパイを差し入れすると、年配の庭師は喜んでくれた。その場にいた弟子の方ももらってくれた。

続いて図書館に向かう。

コンラッドの他にも、数人司書の人がいたのには驚いたが、みんなアップルパイを受け取ってくれた。

時々別館に様子を見に来てくれていた侍女の方にもお会いできたので、アップルパイとジャムを渡すことができた。


そんなふうに、お話したことのある方々に配っていたら、残りは1つになった。


エルランド王子が召し上がることはないだろうから、後はサイラスにあげたいと思い、庭を歩き回ったが、今朝に限って見当たらない。




あきらめて帰ろうとしたところで、サイラスの声が聞こえた。


「女子供に暴力をふるおうとしたのは許せない。きっちり責任をとらせろ」


誰に話しているんだろう?


盗み聞きはよくないと思いながらも、庭園の生垣の隙間から向こう側を覗いた。


エルランド王子とサイラス、その前には昨日会った兵士の上官と、更に上の位らしき人がいた。


「お前如きに言われる筋合いはない」


男が文句を言った。

位の高そうな男が、そんな男を睨んで言った。


「エルランド王子の前でなんと無礼な! 決して許されることではないぞ!」


そして深々と頭を下げた。


「エルランド王子、数々の非礼をお許しください。こたびのことは私が責任をもって対応いたします」

「これが昨夜のような正式な呼び出しでなく、このような場所での話であることをありがたく思うんだな」


サイラスの怒った声が響いた。



昨日の男のこと、エルランド王子に言ったんだ……



そっとその場を立ち去ろうとした時、サイラスに見つかってしまった


「盗み聞きはよくないなぁ」

「ごめんなさい。サイラスに昨日のリンゴで作ったアップルパイをあげたくて、探してたんです」

「サイ……サイラスに?」


少し後ろに立っていたエルランド王子が言った。

サイラスが、わたしが持っているアップルパイをただ見ていると、後ろからひょいとエルランド王子がアップルパイを手にとって、パクパクと食べてしまった。


わたしが驚いていると、


「ごめんね、あまりにもおいしそうだったから。」


エルランド王子が申し訳なさそうに言った。

サイラスはそんなエルランド王子を黙って見ていた。


そんなことがあるだろうか?

王子が毒見役も介さずに食べ物を口にするなんて。

もちろん毒など入れてはいないけれど。

唖然としているわたしにサイラスが言った。


「あいつ、見た目通り甘いものに目がないから」

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