第10話 「招待」
エルランド王子は、舞踏会で妃を選ぶことなくレオドル王国を後にしたということだった。
ミナベルはお茶会の後も、ザカリー王子から何度も城に招待された。どうやらいい雰囲気のようで、ミラベルが幸せそうにしているのを見てるとこっちまで嬉しくなってしまう。
そんな日が続いていたある日、いつものように、出かける用意をしていると、ミナベルが言った。
「ねぇ、セシリア、ザカリー様がね、今度オルグレン王国に訪問されるんだけど、どうやらお付きの侍女が足らないらしいの。怪我しちゃったりとか、ちょうど子供が産まれたりとか……それでね、セシリア、ザカリー様の侍女として、オルグレン王国に行ってもらえないかしら?」
どうう考えてもおかしな話だった。
一国の王子の侍女が足らないなんて事があるだろうか? ましてや他の家の侍女を借りるなんてあり得ない。
わたしのそんな様子を見て、ミナベルが再び口を開いた。
「と言うのは表向きの話でね、ザカリー様が、なんとかセシリアをオルグレン王国に連れて行けるようにしたいって。私にお願いされたの」
「それは、どういう意味なんでしょう?」
「ふふっ」
ミナベルは意味深な笑みを浮かべた。
「エルランド様から、内内にセシリアを連れて来て欲しい、って言ってこられたんですって。きっと、あの舞踏会でセシリアのことを知ったのよ!」
「ミナベル様、色々わからないことがいっぱいなんですけど?」
「なあに?」
ミラベルが無邪気に答えた。
「まず、どうしてザカリー様のそんなご予定を、ミラベル様がご存知なんですか?」
その質問にミラベルの頬がぱっと赤くなった。
それでミナベルの返事を待つまでもなく、一つ目の疑問の答えはわかってしまった。
「まだ正式なお申し込みをいただいたわけではないから……」
ミラベルは、はっきりとは言わなかったけれど、その様子から、近いうちに良い知らせが来ることは想像できた。
「良かったですね、ミラベル様」
幸せそうなミラベルを見ると、やっぱり自分のことのように嬉しい。
けれどもまだ疑問が残っている。
「それで、どうしてエルランド様がわたしを連れて来て欲しいだなんて……」
そこまで言って、あの男の言ったことを思い出した。
「セシリア、君をオルグレン王国に招待すると約束するよ」
「招待」と言うのとは少し違うけれど、公爵家の侍女にすぎない自分が他国に行くには、一番最もな理由かもしれない。
あの男は、エルランド王子と兄弟のように仲がいいと言っていた。
きっと、彼がエルランド王子に頼んだんだ。
わたしの顔をずっと見ていたミラベルは微笑んでいた。
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