第4話 イングリッシュローズ

まずい。

非常にまずい状況に陥ってしまった……

相手が一国の王子となれば、ますます嘘をつく事ができない。ましてや、本当の名前を言うことなど絶対にできなくなってしまった。


「どうか、失礼をお許しください」


わたしは深々と頭を下げると、そのまま逃げようとした。


「行かないで。もう名前を聞いたりしませんから。少しだけお話しませんか?」


その言葉に、恐る恐る振り返ると、最初に会った時と変わらぬ様子で、エルランド王子と紹介された男はにこにことしていた。


「……お話だけなら」

「お名前がないのは不便なので、そうですね……」


エルランド王子は庭を見渡し、咲き誇るイングリッシュローズに目を止めると言った。


「あなたのことを、この場ではローズと呼ばせてください」

「どうぞ、お好きにお呼びください」


そう答えたものの、この偶然に驚くばかりだった。


わたしの「セシリア」という名前は、「イングリッシュローズ」のことをさし示す。




最近読んだ書物のことや、好きなものなど、聞かれるがまま答えた。

エルランド王子もオルグレン王国のいろんな話を聞かせてくれた。

その間、後ろにいる男は一言も言葉を発することなく、ただ黙って会話を聞いていた。



どのくらい時間が経っただろうか?

とても楽しくてつい話し込んでしまった。


「わたし、そろそろ失礼いたします。『友人』も探しているかもしれませんから」

「ああ、そうですね。お引き止めしてしまって失礼しました」

「素敵な方とお会いできることをお祈りしています」


そうして、その場を後にした。

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