第134話 素顔のままで③

 ——— 準備が終わり、店長のゴーサインが出た。

 私は宗介と事務室を出た。あの笑顔の前に立ちたい。

 私の目の前を店員の一人が歩き誘導してくれる。そして私の後ろを宗介が歩く。背中が守られてるようで心強い。

 すると、店内にいたお客さんが、私達に気付く。

 私達を見たお客さんは「え?」と言う顔をした。


 ——— ん? なんか私が求めた表情と違うな……。


 向けられた視線は笑顔では無かった。さっきまでの私であれば、確実に発作が起きる視線の数だが、不快感は全く感じなかった。


 ——— うーん……なんだろ? 突然現れてビックリしたのかな? だったらこっちから笑顔を振り撒けばいいか?


 笑ってる人を見ると笑いたくなる。そんな心理を突くように、私は笑顔で視線を送ってくれる人達に手を振った。

 するとみんな恍惚とした笑みを浮かべ、温かい眼差しに変わった。中には小さく手を振ってくれる人もいた。


 ———う〜ん、コレコレ♪ さっきパネルに向けられてた視線だ。今はその視線が直に私に向けられてる。 ……これだ! これが私が欲しかった笑顔だ。皆、笑顔になってる。


 皆の温かい笑顔を見て、私自身も笑顔になってしまう。

 この温かい視線を何故今まで怖いと思っていたのか? 


 私はそのまま店の外へ出た。

 店から出ると、私達の姿を見た外のギャラリーは一瞬で静まり返った。

 そして、私達が何者なのか気付いたのか、パネルと私達を見比べている。

 

 ——— まただ。これは私が求めた表情じゃない。


 私は、さっきと同じように笑顔で手を振った。

 すると、突然「キャー♡」っと歓声が上がった。皆凄い笑顔だ。そして恍惚とした表情で私と宗介を見る。温かい……そんな眼差しだ。

 暫くすると、口々に賛美の声が上がり始めた。


「綺麗……」

「可愛い……」

「肌も透き通ってるみたいに綺麗……」

「男の人もカッコいい……っていうか綺麗……」

「この二人……凄い……」


 私は周りを見渡した。

 すると人の合間から見知った顔が見えた。

 来羅だ。ちゃっかりお客さんに紛れて立っていた。

 私は来羅の元へ一歩進んだ。すると、目の前の人達が私が進む方に道を空けてくれた。宗介も後ろを付いてきてる。

 私は避けてくれた人達に「ありがとう」って笑顔でお礼を言うと、皆、恍惚な表情で笑顔になった。その笑顔に私は更に笑顔になる。

 来羅の前に来た。お客さんは私達を中心に一定の距離を保って、丸い空間が出来ていた。

 来羅は、キョトンとした顔をしている。


「来羅?」


 来羅は私の呼び掛けに我に返った。私の姿に固まっていた訳じゃ無く、私の様子に驚いていたようだ。


「翠……全然大丈夫じゃん」

「なんか一気に治っちゃった」

「キッカケってホント何処に転がってるか分かんないね」

「うん、私自身ビックリだよ」

「もう、変装する必要ないじゃん」

「そうだけど……まぁ、そこはちょっと相談かな?」

「だね。いきなりはちょっと無理か」

「それに宗介の女性恐怖症もあるし」

「そうだったね。それはこれとはまた別だもんね」

「此処で込み入った話もなんだから、中入ろ?」


 私達は店内に戻った。

 店内に入る時、外のギャラリーに向かって手を振りながら入って行った。

 店に入った瞬間、外から「きゃぁぁぁ———♪」と言う歓声が聞こえた。

 窓越しに笑顔が見えた。私に向かって手を振ってる人もいる。その笑顔が凄く嬉しかった。


「おかえりー、気分はどう? ……って、聞くまでも無いようね」

「はい。お陰様で病気も克服出来たみたいです。あのパネル……店長が言ってた『皆、私を見ているのに、私じゃ無い私を見ている』って言うのが分かりました。そのお陰で客観的に自分への視線の意味って言うか、中身を知る事が出来ました」

「良かったわ。これからもモデル、お願いしたいけど……モデル事務所、紹介する?」

「えーっと……進学出来なかった時はお願いします」

「ふふふ、是非、落第して欲しいわね」



 ※  ※  ※



 私達は店を後にした。因みに服は着替えていないし、帽子は一応被っているが、深く被ってないから顔は結構見えている。ついでに化粧はそのままだ。

 手にはケ・ベッロのロゴが入った紙袋を持っている。歩く広告塔って感じかな? 袋の中には元着てきた服を入れている。


「間も無くお昼だし、なんか食べない?」

「私はいいよ。宗介どうする!」

「俺もいいぞ」


 私達は来羅が御用達の喫茶店に案内された。

 道中、皆が私達を見る。なんか見られる事……と言うよりは「わぁ♡」って感じの笑顔を向けられるのが凄く嬉しい。そして楽しいって感じだ。


 喫茶店に入り、席に着く。お昼時間にはまだ少し早いせいか、店内は閑散としていた。

 そして、お水を持ってきたウェイターさんが危なく水を溢しそうになったけど、芹葉のお手伝いさんへのフォローを思い出してか、来羅がすかさずトレーを押さえた。

 そして其々に注文をして、料理を待つ。


「私からもこの事パパにも話しとくよ。後日病院来て。一応、撮影もしといたから話も早いと思う」

「うん分かった。ありがと」

「で、学校ではどうするの?」


 来羅が確認してきた。確かに病気は治ったと言ってもいい。視線は本当に今迄がなんだったの? ってくらい、向けられても何も感じない。寧ろ気持ち良くさえある。

 ただ、学園ではまた話は別だ。


「私は、前の姿でいようと思う」

「その心は?」

「学校って、一応、一つの社会が出来上がってて私達もその中に組み込まれているわけじゃない?」

「まぁ、確かに」

「最初は物珍しがられると思うけど、日が経てば状況は変わってくると思うのね。前、芹葉にも言ったけど、カーストランクでマウント取りたがる子は、必ず言い寄ってくる」

「確かに、取り込もうとするだろうね。うちのクラスは幸い、それ程グループ抗争みたいなのは感じない……って言うか、新学期初っ端から柳生君がそういう女の子に対して『ウゼェ!』って一蹴してから大人しくなったんだけどね」

「何それ? なんか柳生君らしいね」

「けど、そっちのクラスはちょっとクセがある子ばっかりだもんね」

「うん。なんであんな子ばっかり集まったかな……私はあの取り込もうとっていう視線と空気にやられて、恐怖症になって行ったの。あれだけは……あの空気だけは二度と御免。だから暫くは陰キャの形で行くよ」


 ——— 私達は、食事をしてそのまま家に帰った。

 家に着いたら、藍と奈々菜ちゃんと其々の彼氏が真壁家にいて、妹達は私の顔見て写真撮りまくってた。

 病気も治った事も家族に報告して、来週は病院だ。

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