第51話 お盆だから爺ちゃんちに来た③

 ——— 海から家に戻るとどこかで見た女の子と男の子が縁側に腰掛けてとうもろこしを食べていた。そして客間からは笑い声が聞こえる。


「あれ、あの子達さっきの……」


 お墓で声を掛けられた『塩田』の子供達だ。ついでに言っとくが『塩田』は苗字じゃ無いので悪しからず。


「こんにちは」

「こんにちは」


 俺と奈々菜は二人に挨拶をする。当然向こうも挨拶を返す。

 女の子は中学生くらいだ。奈々菜と同じかな? 男の子は明らかに小学生だ。三、四年生位か?

 客間からは笑い声が聞こえた。中を覗き込むと親父と武尊さん、そしてお墓で会った透さんが酒を酌み交わして酔っ払っていた。

 

「お? 帰ってきたな? お邪魔してたよ」

「こんにちは。結局こっちに来たんですね」

「んだ。酒屋行ったら武ちゃんと奥さん仲良く買い物してるとこに出くわしてな。んで、俺んちせめぇ狭いだろって、んじゃ春ちゃんち広いがらっつって春ちゃんちでやんべやろうってなったんだ」


 元々なのか酔ってるせいなのか所々軽くだが方言が入る。この程度であれば通訳は不要だ。

 奈々菜は既にシャワーを浴びにこの場に居ない。

 俺は、縁側に座る子達とこの後数時間一緒にいる事になるのに会話も無いのは気不味かろうと、一応コミュニケーションを……と思ったが、お姉ちゃんは俺の顔に見惚れて、とうもろこしを食べる手が止まっていた。お姉ちゃんは暫く会話にならなさそうなので、俺は少年に話しかけた。


「何年生?」

「小学四年」

「四年生か……」


 さて、会話をどう繋げる? ご存知のとおり俺は口下手だ。こっから先、何を話せばいいか分からない。


「兄ちゃん大っきいけど、身長何センチあんの?」


 ナイス少年! 


「俺か? 多分……180㎝かな?」


 実際は176㎝だ。ちょっとサバを読んだ。


「でけぇ! 何年生なの? 大学生?」

「まだ高校生だよ」

「彼女いんの?」


 マセたガキだ。ま、この年頃の常套句に近いものがあるな。


「残念ながら居ないんだなぁ」

「おい、姉ちゃん、彼女居ないってよ。ね、兄ちゃんうちの姉ちゃんダメか?」

 

 単純だがこの質問の答えは非常に困る。『ダメ』だと棘が立つ。

 社交辞令で『いいよ』なんて返して本気に取られたら面倒だ。

 しかも相手は思春期真っ盛りの中学生だ。

 変な事言って拗れてトラウマになられても後味が悪い。

 そう思っていたら、


 ——— バチン!


「イッテェー、姉ちゃん何すんだよ!」

「あんた何言ってんの! そんなの無理に決まってるでしょ!」


 どうやらお姉ちゃんは正気に戻ったようだ。


「えー、だってお墓で『カッコいい』って目が『♡』になってたじゃねぇかよ!」

「それとこれとは別よ! 御免なさい。えーっと、私『ひいろ』って言います。漢字で描くと『緋色』

です。コイツは『ふうた』。字は『風太』です」


 自己紹介された。自己紹介されたからにはこっちも自己紹介しないと失礼だ。


「俺は『宗介』。さっきまでここにいたのは妹だ。名前は『奈々菜』。海で遊んで来たから砂まみれなんだ。今シャワー浴びてっからちょっと待っててくれ」

「妹さんも可愛いですよね。そう言えばお墓にいた子は双子じゃ無いみたいな事言ってたけどそうなんですか?」

「あぁ。ま、そのうちここに来るだろ。詳しい事はあいつら来てからだな」

「お墓で見て思ったんですけど宗介さん、メチャクチャカッコいい……カッコいい? うーん……あのお姉さんもメチャクチャ……ん? なんか言葉に出来ないな……」

「まぁ、その辺はあんまり触れないでくれ。俺も彼女もこの容姿でちょっとトラウマ抱えてっから。普通に接してくれ」

「そうなの? ……うん、分かりました」


 緋色ちゃんは、俺に対する反応から『普通の女の子』って感じだ。

 彼女の反応がごく一般的な態度だ。藍ちゃんの態度が特異だったせいか、普通の反応を目にしてなんかホッとしている自分がいた。

 

「あ! そっか。さっきのお姉ちゃんがお兄ちゃんの彼女なんだ!」


 突然風太君が声を張り上げた。すると、その声を聞いた武尊さんが。


「風太ぁ。彼女じゃ無いぞ。許嫁だ。分かっか、許嫁? 彼女の一歩先な。あのお姉ちゃんとこのお兄ちゃんは結婚すんの。これ絶対な」

「おじさん、何言ってんすか! 俺らそんな仲じゃないですよ」

「バーロー! お前、毎晩うちの娘が部屋に上がり込んでんのに、まだ手も出してねぇのか! うちの娘の何処が気に入らねぇってんだ! 表出ろこるぁ!」

「おじさんまだ明るいうちから飲み過ぎだって。それに俺、表出てるし、親父止めろよ」

「馬鹿野郎! 時に男は拳を上げなきゃならねぇ時があるんだよ! お前、翠ちゃんの事何とも思ってねーってのか!」

「あー! 親父まで何そっち側に立ってんだよ! 何とも思ってねえわけねぇだろ! ったくいい加減にしろよ! 風呂入ってくる!」


 俺は居た堪れなくなり、足早にその場を立ち去った。



 ※  ※  ※



 家に帰ったら、両親は真壁家に行った聞き、私と藍は急いでシャワーを浴び、そして真壁家に足を運んだ。

 すると、何やら大声で喧嘩でもない言い合い? お父さんを始めとする男達が大きな声でワーワー言い合っていた。


「——— お前、翠ちゃんの事何とも思ってねーってのか!」

「あー! 親父まで何そっち側に立ってんだよ! 何とも思ってねえわけねぇだろ! ったくいい加減にしろよ! 風呂入ってくる!」


 何かとんでもない事聞いたような……『何とも思ってないわけない』? 宗介、確かにそう言ったよね? えっと……取り敢えず目の前にいた女の子と男の子に挨拶をした。


「こんにちは」

「こんにちは」


 女の子は私の顔を見てフリーズした。

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