第22話 桜木翠①
「桜木翠さん、僕と付き合って下さい」
小学五年生位からかな? 周りの子達は色恋沙汰が気になり始めたのか、よく告白されるようになった。
——— 私は可愛い。
自意識過剰とかではない。
周りの声、態度、そしてあれだけ言い寄られれば嫌でも気付く。
この頃の私は髪は腰まである亜麻色のストレートヘアーで、肌は白く少し日本人離れした感じの顔を隠す事なく普通に晒して生活していた。
私の周りには常に誰かが居た。他愛も無い話をして来て、私は愛想良く笑って頷いてるだけ。皆んなはそれで満足らしい。
——— 友達って何だろう?
小学生の頃は、同級生からの告白だけだったのに、中学生になると、先輩、後輩からの告白もあって、回数は一気に増えた。告白された回数も十四迄は数えていたような気がする。
中学二年の時、十人の男子から同じ日に別々に呼び出された。実際の数はもっといた気がするけど、十から先は数えるのをやめた。
別々に呼び出されたのに指定した場所と時間は十人全員同じだった。その場所に行ったら、男子が十人集まっていた。十人の男子は何やら揉めていた。彼らは私に気付くと、全員横に並んで端から順に一人づつ告白してきた。
「好きです」
「付き合ってください」
「お付き合いお願いします」
同じような言葉に、四人目からは聞いていなかった。
「ごめんなさい」
私はそれだけ言ってその場を去った。
この頃には道ですれ違う人は、必ず私を見るようになった。人が集まる場所に出れば、一斉に視線を浴びる。
——— なんかやだな。
最初はただそれだけだった。人の視線を遮る物が欲しいと思った。
成績も良く愛想が良かった私は周りからは何かと頼られ、学級委員や生徒会役員とかもやっていた。いや、『やらされていた』と言う表現が正しいのかな?
中学二年も終わる頃。ある日の放課後、忘れ物を取りに教室に戻って来たところ、誰もいない教室で PM私の事を話している女の子達の声が聞こえた。
「翠ちゃんの近くに居れば、男子も私を見てくれるでしょ?」
「翠ちゃん可愛いし、一緒に居れば私の事も可愛いって見てくれるじゃない?」
私は最初から彼女達を友達とは思っていなかった。心から信頼できる友達にはなれないと思っていた。そして聞こえた彼女達の私の期待に応えた発言。
人の裏の顔を見た気がした。
——— ちょっと怖いな。
女の子達の発言がキッカケかはわからないけど、この頃から人の視線に『裏』を感じ始め、視線そのものが怖いと感じ始めた。そして人前に出るのを躊躇い始める。
中学三年の秋。文化祭で行われた弁論大会。一人ステージに立った私に異変が起きた。
ステージに上がった瞬間、体が震え硬直し、そして呼吸が出来なくなったのだ。
その日以来、私は完全に人前に立てなくなった。
救急車で運ばれ、病院で診察を受けたが、初めは原因不明とされるも、精神科での診断の結果で『社交不安症』と診断された。色々な症例を総称して言う病名らしいのだが、細分化すると私のはそのまんま『視線恐怖症』だった。
周りからの視線を遮るため、帽子を被るようになった。少しは楽になったが、やはり皆私を見る。
全校生徒が集まるイベントは全て不参加になる。
中学三年の二月、父から引っ越す話が出た。私はその話を聞き、全てをリセットするチャンスだと思った。新しい土地で私を知る人はいない。だったらこの顔は最初から無かった事にしよう。そう思った。
兎に角視線を集めなければいい。『普通』になりたい。『普通』になろう。単純にそう考えた。そして春休みになり、意を決して実行する。
最初に今までの自分と決別する意味で、腰まであった髪を思い切って切った。ショートカットにした頭はすごく軽くてシャンプーも楽だ。正直、一生この長さでいいやと思った。
私の髪は地毛が亜麻色だ。地毛が金髪風……実際にはアッシュっぽい?
これって日本人としてどうなの?
そして自分でも驚く程の艶光りを放っている。コンディショナーとの相性がいいのだろうか?
髪を切ったけどこのままでは人目に付く。黒く染めるか?
多分伸びると逆プリンになってくる。手入れとか大変そうだ。
色々考えた結果、ウィッグをつける事にした。黒髪のロング。
——— 結構いい感じだ。
だけど、まだ足りない。自分で言うのも何だけど、何処か「貴賓」が滲み出ている。
鏡で自分の顔をじっくりと観察した。
——— 肌だ。
圧倒的に肌が綺麗なんだ。思い返すとニキビ一つ出た事がない。
色も白いが、そこは『インドア系女子』でなんとか誤魔化せると思うけど……そう言えば、ちょっと前にどっかの国で『
——— ちょっと濃く仕上がったがいい感じに『鈍臭い感じ』の顔に仕上がったと思う。
だけど、隠れた目が見えるとハッキリクッキリお目々で、色素が少ない瞳に
そう言えば妹がダサ伊達眼鏡(黒縁)持ってたな……それを借りた。借りた眼鏡は私の顔の輪郭には合わない形で非常にいい感じになった。私は普段からメガネを掛けていたが、そのメガネは顔に合っているのでお洒落感が出る。度も少し合わなくなったし、これを機にメガネを買い替えた。
目元も分かり難くなって、これなら何とか大丈夫だろう。
イメチェンと思って色々やったが、これはイメチェンと言うより『変装』だ。ま、視線が集まらなければ何でもいいんだけどね。
この姿で一度街を歩いてみた。誰も見て来ない。見ても一瞬だけだ。こんな快適な世界は初めてだった。
私は卒業式も出ないまま、そして誰にもさよならを言わずにこの地に引っ越して来た。
そしてこの春から、この姿で高校生活が始まった。
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