第14話 砦
圭介が戻ってからしばらくして、あたしは都古の元へ向かった。
「…あ、今日は結鶴なんだね~」
「…おう」
都古がここに残る理由、本当の気持ち、全て圭介から聞いていた。
それでも、ここにずっと置いておくわけにはいかない。
これで3回目。あたしにとっての、ラストチャンスだ。
「……結鶴はさぁ~…あと何回?」
「…え?」
予想外の質問に、思わず聞き返す。
「回数制限みたいなのがあるんでしょ?結鶴達には」
なぜバレた?なぜ知っている?
そんな話をしたとは、圭介から一言も聞いていない。
「…圭介と、何を話したんだ?」
「ふふ、やっぱり」
都古は笑う。
「ごめんね、カマをかけるようなことして。でも、いつもの結鶴なら、間違った情報はすぐに正してくれる。それをしないってことは、そういうことなんだよね」
しくじった。ここに来て。
心拍が上がるのを感じる。
「回数を聞いたのは何となく。圭介が凄く焦ってるように見えたから、何かしらの期限みたいなものがあるのかなぁって、思っただけ。まぁ、未完成の薬だから、単純に不安になってただけなのかもしれないけど」
そうだ、こいつは頭の回る奴だった。
こんなところで、隙をつかれてしまった。
「結鶴はあと何回来れるの?」
「これで最後だって言ったら、帰る気になるのか?」
「いじわるだなぁ結鶴は」
額から汗が溢れる。
「でも、ここで私が帰らなくても、これで最後ってことにはならないと思うよ。圭介にも言ったけど、私は…」
「気が済んだら戻る、だろ?それはいつなんだ?」
「あはは、情報が早い」
少し考えて、都古は答える。
「どうだろう、私も分からないなぁ」
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※ここからは圭介視点です。
島津の近くで、静かに眠る結鶴。
「結鶴、頑張れよ」
俺はぽつりと呟く。
夢から覚めるのを待っているこの時間は、ただただ無力で、何度やっても慣れない。
「…サガミさんの様子も見てくるか」
もしかしたら、意識を取り戻しているかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら、俺は部屋を出る。
廊下を歩き、サガミさんの部屋の前まで来た、その時。
「本当に、健気なものだねぇ」
「っ?!」
声のする方を見ると、そこには久藤の姿があった。
「お前っ…!!」
「作戦の方は、順調かな?」
久藤は不気味な笑みを浮かべる。
「赤髪の彼があんなことになり、その上肝心の彼女も未だ帰ろうとしない…。かなり手こずっているようだね」
「どの口が言ってんだよ…元はといえば、お前らが島津を唆したんだろ?!」
怒りが一気に込み上げてくる。
「選んだのは彼女だよ。私達は手段を与えただけに過ぎない」
「……お前っ……!!」
「赤髪の彼がああなった原因は、君達が盗み出したデータにも書いてあったと思うが?」
久遠は不気味な笑みを浮かべる。
「なぜ、それを……!!」
「バレてないとでも思っていたのかい?まぁ、管理を任せていた彼等は相当焦っていたようだけど」
あの夜、部屋の外から聞こえてきた大きな物音。
慌ただしい足音。
「っ…!まさかあの時……!!」
とっくにバレていたんだ。全部。
全て知っていた上で、久遠は俺達を泳がせていた。
「彼が倒れた原因を知らないことから察するに、データを完全に抜き取る前に、何らかの理由でそれを中断させたのだろう?」
「……。」
「まぁどのみち、この計画を知った君達にはここで消えてもらう必要がある。望みだった彼が動けなくなった今、作戦の続行に意味はない。死ぬ前に、あの原因を教えてやってもいいがどうするかね?」
「どこまで自分勝手なんだ、お前らは…」
よく見ると、俺の周りを幾つもの黒い影が囲んでいる。
久遠はここで、皆殺しにするつもりらしい。
「さぁ選べ青年よ。全てを知ってから死ぬか、何も知らないまま静かに死ぬか。君はどうしたい?」
考える時間なんていらない。答えは一つだ。
「もちろん全部話してもらうぜ。そんで、皆で生きて帰る。全滅させたいなら、まずは俺を倒すことだな!!」
俺は一人、結鶴達が眠る部屋の前に立ちはだかるのだった。
あの日の君へ @k_motoharu
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