第22話 ドゥームとリナ

 リナが訓練を始めてから20日が経過した。


 最初の頃は全く変化なかったものが今はまがりなりにもグリマーに熱を伝えれるようになってきたようだ。


 だが、ぶっ通しでの魔法の訓練はかなり消耗するみたいだ。


 「リナ、明日は休みなさい。」


 ヤムも気にはなっていたようで気遣いを見せた。


 「魔法の力は体力が物を言う。


 疲労していれば魔法も弱くなる。


 魔法の訓練がきどうにのったら運動もしなさい。」


 最初のつっけんどんな態度からえらく変わったなとリナはほくそ笑んだ。


 まあ、せっかく休みになったのでその日は捕らえられたドゥームを見に行く事に決めていた。


 ドゥームの檻のある小屋にはゼムが見張りをしていた。


 「ゼム、お疲れ様。様子はどう。」


 彼はぶっきらぼうに応えた。


 「まあ、檻に居る限りは危険はないな。


 草なら何でも食べるから餌集めも楽だし。」


 そう言って草を備蓄している箱から両手で持てるだけの草を抱えて檻に投げ入れた。


 檻の中で寝そべっていたドゥームは草が入れられた途端素早く草の束を抱え込み顔のほとんどを占める大きな口で食べ始めた。


 リナはソロリソロリ檻に近づいて行った。


 リナが近づいた時のドゥームの動きは今までにない動きをした。


 そう、それは怯える姿だ。


 「ギーギーギー」


 何とも奇妙な声をあげている。


 「何をしたんだ。」


 ゼムはリナに聞いたがリナは何もしていない。


 「何もしてないわ。檻に近づいてドゥームを見ようとしただけよ。」


 すると、しばらくしてドゥームが何か話し始めた。


 ドゥームが人の言葉を発することは聞いていた。


 ただ、一度もっとくれと発した後は理解できる言葉は誰も聞いていないという。


 「ゼム、何か言ってるわ。」


 「静かに。」


 「魔の女王・・・」


 そう、何度もつぶやいた。


 それを聞いた二人はお互いの顔を見合わせた。


 「お前さんの事か。」


 「失礼しちゃうわね。」


 その言葉を発したドゥームはひざまづいているように見えた。


 「おい、お前何者なんだ。」


 そう、問いかけられたリナだったが彼女には身に覚えのないことであり答えも見つからなかった。


 「話ができるのね。」


 リナが檻に近付き過ぎてると感じたゼナが彼女を制するようにそして迷惑そうに言った。


 「話ができると言っても片言だけだし会話にはならない。


 それよりあまり近づいて怪我されたら俺が責められる。


 あまりヤツに近づくなよ。」


 だが、リナはかまわずドゥームをもっと近くで見たいと思い檻のすぐそばまで歩み寄り話しかけてみた。


 「お前はどこから来たの。」


 話しかけられたのは理解しているようだった。


 しばらく間があってドゥームは答えた。


 「ダンドンの森から来た。」


 ダンドンの森というのは聞いたことがない。


 「ダンドンの森って知ってる?」

 

 ゼムにたずねたが彼も知らないらしく首を横に振った。


 「それはどこにあるの?」


 リナの質問にドゥームはどう答えたら良いのか分からないようだ。


 「こいつらがそんな漠然とした質問に答えられるとは思えないな。


 もっと答えやすい質問をしたらどうか。」


 うなずくとリナはさらに檻に近づいた。


 「おい。近づき過ぎだ。」


 リナはゼムがリナを檻から引き離そうとしようとしたがリナはそれを制した。


 「大丈夫。下がってて。」


 ゼムにしたら気が気じゃなかったがリナはドゥームは自分には何もしないだろうとなんとなく感じていた。


 「お前は私が命令したらそれを守りますか?」


 今度は首を縦に振った。


 「では、人を殺してはなりません。


  いいですね。」


ドゥームは再び首を縦に振った。

 

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