第18話 何故か腹を立てている

大阪のキャバンはコロナ前の2019年に閉店した。

その後コロナ突入でライヴハウス系は軒並み大変な目にあった。

それを思うとベストタイミングであったとしか思えない。

しかし、キャバンで演奏し続けてきた面々にとっては複雑だろう。

またそれを楽しみにしていた人にとっても失ったものは大きい。


私の友人の双子は無類のビートルズ狂いで有名だった。

アラフォーで再会した時、学生時代の同級生のTくんのことを聞いた。

Tくんはたまにキャヴァンでビートルズナンバーを演奏する人になっていた。

当時うちのクラスのハッチャケ男子たちはバンドを結成していた。

ショッキングブルーのヴィーナスなんかを演っていたのを覚えている。

それとは柄行きが違うような気がして意外だった。

そんなにずっと音楽を続けていたのにも驚いた。


ところで、双子に誘われるままキャヴァンに出向いた私は大変なことに気づいた。

音楽が聴けないのだ。

もう身体中に振動となって、耳を塞いでも追いつかず苦痛でしか無い。

キャヴァンの音響効果が良すぎるせいもあり、それは耐え難かった。

私のついていけない世界だった。

幼い頃から、読む、読む!読む!!のタイプで生きてきた弊害か。

頼むからもう誘わないでくれと言うお粗末な顛末となった。


その後クラシックを聴きに行くまで、自分は音楽嫌いなの?と疑問を感じた。

クラシックは大丈夫だった。涙が出るほど良いと思った。


Tくんとはそれから同窓会でも一緒になった。

この同窓会がされた顛末も、私的には事件だったのだが、それはまたの機会に。

Tくんは学生時代もそうだったが、近すぎず離れすぎずの位置にいる。

感情的にも、物理的にも。

そしてびっくりすることに、娘の保育所時代、3年間一緒だった男の子の父だった。

またの機会にした顛末で、彼の家族がテレビ放送されて、どひゃーと驚いた。

ご近所さんだった。 


Tくんは背は低めだがハンサムな男子だった。

たとえば、二宮和也をもっとビートルズテイストのハンサムにした感じ。

若者を見守るような引いた眼をしているのも魅力の一つだった。

しかし学生時代、私は同じクラスの件のボーカリストに全力片想いしていた。

Tくんとは、本当に近からず遠からずの関係のまま最近まで来てしまった。

心のどこかで、もっと親しい友人になれそうな気すらしていた。


彼の訃報は、やはり友人の双子からもたらされた。

近所甲斐のない話である。

コロナ真っ盛りの頃、彼は亡くなっていた。


そして私といえば、痛みとともに思わぬ腹立ちにとらわれた。

なんだよ!そんな早死にしちゃって!

何でこんなに、理不尽に何かとられでもしたかのように腹が立つのだろう。

ほぼ関わり無く生きてきたのに、これはどうしたことだろう。 

ひょっとして将来、昔語りをする茶飲み友達候補に据えてでもいたのか。


この腹立ちの正体が掴めぬまま、そろそろ1年が経とうとしている。

私はいつか彼を純粋に弔う気持ちになれるのだろうか…




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る