第8話 最強伝説
ギルドの出入り口と全く同じ木材で作られたであろう扉を、今度は力を込めずに開ける。二度同じ過ちは繰り返さないぞ。ギギギと軋む音がして数秒だけ制止し、大きく息を吸って一気に扉を開けた。
刹那、ボーリングの球を床に叩きつけたような音がした。
勢いよく開けた扉が何かに当たって、加速度が突然ゼロになったのだ。扉の裏に物がおいてあり、それにぶつかってしまったと思ったがどうやら違う。耳を良く澄ましてみると誰かしらの声がする。それも、悶絶し苦しむ声…
「イテテテ…イテーよぉ…」
急いで室内に入り、扉の裏へ目を向けた。
座り込んだ状態の子供…少女―――?
銀色のボブヘアが特徴的な後頭部に、真っ白で華奢な細い指を使って撫でている。撫でている、というよりは擦っている様子に見える。真っ白なミニスカートを履いた少女は座り込み、ただ
俺は全てを理解した。
扉の裏にいた少女の頭に、勢いよく開けた扉が直撃した。俺が悪いのは重々承知であるが、なぜそこに君はいたんだい、と問い質したくなる。
本能的に少女に寄り添って謝罪の言葉を口にすると彼女は、いや私が悪いんだよ、と屈んだまま左の掌を左右に振った。
推定10歳くらいだろうか。彼女の後ろ姿が、妹である
「うぅ…君は稀に見る、優しい男なのだなぁ…うぅ…」
少女は頭を抱えながら、籠った声で言った。悪いことしてしまったら謝罪するのは当たり前だし、頭を撫でてしまったのは俺に妹がいたからで、優しいとは大げさな話である。
すると、場の空気の異変を感じ取ったヘスティアさんが、部屋の外から覗き込みに来て、大声を上げた。
「ギルマス様ぁ! どうかなさりましたかぁ!」
女性の甲高い声とは、何故にこんなにも不快なのだろう。お蔭で左耳に鉄琴の高い一音が響いて取れないぞ。トラックに轢かれた時を思い出してしまい、咄嗟に口を押えた。酸っぱい液体が食道を駆け上がってくるのが分かる。視界が一瞬真っ赤になった気がしたが、幻覚だった。涙目を直ぐに拭い、一呼吸置く。
屈んだ少女の後ろに自らも屈み、そして自分が少女の頭を撫でている状況に至った経緯をヘスティアさんに説明した。
話が終わっても尚、甲高い不快な声を上げて、ギルマス様!と連呼している。初めてヘスティアさんの短所を見た。本当にうるさい。黙ってほしい…。
「私は大丈夫だ、ヘスティア。イテテテ…心配する暇があったら、誰か回復魔法を使える奴を呼んでほしいぞ、ヘスティアよ」
「か、かしこまりましたぁ!」
踵を返して廊下へ走り抜けていっ金髪キンキン声バカの後ろ姿は、あっという間に見えなくなった。血は出ていないし、勢いよく扉を開けたって言っても高が知れてる。なにもそんな大袈裟な―――
「えぇ!? ギルマスゥ!?」
銀髪を撫でいてた手を離し、尻餅をついた。
こんな小さい少女がギルドのトップとは冗談であろう?
「ごほん! 自己紹介をしよう。私はここのギルドマスターをやっている―――」
「ははは、ご冗談をー!」
「ん、冗談ではないぞ」
「こんなちっちゃい女の子がギルマスだなんt―」
今の今まで銀髪少女が視界にあったのに、いつの間にか、天井、壁、床、壁、天井…を物凄いスピードで繰り返している。はて、私は豚の丸焼き高速回転バージョンでもさせられているのだろうか。いや、もちろん違う。左頬に熱い鈍痛の感覚がある。顎を引いてみると、拳を前に突き出した少女の姿が激しく回転しているではないか。
後頭部から床に着地した俺は、軽く首の骨は逝ってると思った。しかし思いの外、体は無事なようで、ノソノソと起き上がれた。
「イテテテ…なにするんだよ!」
「ふん! 私を小さいだの幼いだの胸が無いだの言う奴に利く口はないぞ!」
「いや、俺は小さいしか言ってないけど。ってか本当にギルドマスターなんですか、あなた」
「だから、そうだと言っているぞ!」
えっへん!とばかりに腕を組もうとするも、右腕が上なのか、左腕が上なのか分からない様子だ。10秒ほど格闘した末に右腕を上にして、えっへん、と小声で言った。頬は赤らんでいる。
「ああ、まぁ、あなたがギルマスであることは認めますよ」
「最初から言ってるぞ、新人」
「新人? まぁ呼び方はんでもいいっすけど…イテテテ…あ―――」
骨や神経に異常はないとはいえ、首と左頬に鈍痛が走る。銀髪少女、改めギルマスとの無意味な会話のせいで忘れていたが、俺にはスキルを作るスキルがある。治療するスキルを戦闘の中で作ったのだったな、と思い出す。
とんでもないスキル名だった記憶がある。
確か…俺の体を直してぇ!だっけか?
≪スキル:俺の体を治療してくれぇ!を発動します≫
そういえばそんなスキル名だったな。あと、スキル名ってうろ覚えでも伝わればいいんだな。
「ふぅー、痛みが取れたわー。サンキュー」
好きだった女性声優さんにそっくりな声は、いつ聞いても癒される。感謝をすると、どういたしまして、と少しだけ抑揚のある声で答えてくれる。AIっぽくもないし、人間味とまではいかない、中途半端な抑揚が新感覚。
「お前、回復魔法も使えるのか!?」
「回復…? よくわからないですけど、治れ!って思うと痛みは取れますね」
「おおおおお、お前…すごいな…。どうせなら私にもかけてくれ、その回復魔法を!」
そういえば、俺が扉でギルマスの頭にたんこぶを作ったんだった。
ギルマスの頭、治れぇ
≪スキル:俺の体を治療してくれぇ!は他人に用いることはできません≫
そりゃそっか。だってスキル名が俺の体を治療してくれぇ!なんだもん。
スキルを作るスキルで古今無双 東場虎太 @ToRa-28
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