番外編 もう一つの約束

 「いやー、よかったねぇ」


図書室の整理をしながら、天音が言う。


「まさか湊が想くんの中にいたとは! これで僕も、これからは湊に会い放題って感じ?」


浮かれ気味の彼に、ヴァイオレットは不服そうにため息をつく。そして、頬を膨らませると、小さな声で


「……あなたも、湊、湊、なのね」

「ふぇ?」


そんなことを呟くものだから、思わず、天音は、情けない声を漏らした。ぎこちなく彼女の方を見てみれば、彼女はふぃっと顔を逸らし、やや上目遣いで彼を覗き


「ずっと……待っているんだけどね、私は」


まるで少女のような、甘えた声でそんなことを言う。ヴァイオレットの意外な乙女の一面に、天音は胸の鼓動を速め、ごくりと息を呑んだ。一体、彼女は何を待っているのか。それは明白だった。


「ヴァ、ヴァイオレットさん? それって……」

「あなたがその気にならないのなら、私から、言っても良いのよ?」

「言わせていただきます!!」


天音は持っていた本を全て机に置くと、身なりを整え、ヴァイオレットの瞳を見つめる。


「好きです、ずっと前から。よろしければ、僕と付き合ってください」


緊張気味の天音に、ヴァイオレットはくすりと笑う。そして、花が開くように、ふわりと彼に微笑んでみせると


「えぇ、もちろんよ」


満足げに、それに応えるのであった。


 図書室には、花の飛ぶような、甘々の空気が漂っていた。

 その様子を、想とアズールは見届け、互いに笑い合う。二人はイタズラの成功した子どものように、サッと図書室を後にすると、廊下を、キャッキャと駆け抜けていった。

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何度だって愛に生く 葉月 陸公 @hazuki_riku

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