第25話 砂漠の魔物

 それは砂漠の風景を描いたキャンバスを切り裂いたように突然、葵の目の前に現れた。体全体が保護色のように茶色だった。手足が長く、6本ある指の先は切れ味鋭いナイフのように尖っていた。茜は手の動きで浮遊体を操っていることに気が付いた。

 砂漠の風景はこの化物が作り出していた。動きが速いと思っていたのは錯覚だった。葵は急接近してきた浮遊体を避けきれなかった。右上腕に鋭い痛みが走った。反応が少しでも遅れていたら、深手を追うところだった。茜は右手に朱色に輝く光槍を握っていた。葵は茜の「あなたにも出来る」という心の声を確かに聞いた。

 葵は突き上げるようなエネルギーを感じた。紫色に輝く光盾が左手に突然現れた。葵は茜には槍、自分にはなぜ盾が現れたのか分からなかったが、今は守る側にまわれということだと理解した。サンドモンスターは複数の浮遊体を茜に集中させた。

 葵は咄嗟に茜の正面に移動して、光盾で浮遊体の攻撃を防いだ。茜は葵の背後から光槍をサンドモンスターの胸に向けて突き出した。茜は手応えがあったと思ったが、その瞬間サンドモンスターの胸はバラバラに崩れた。砂漠に茶色の砂が散った。

「奴の体は砂でできている」「手応えがなかったわけだ」

「お前たちの攻撃は無力だということが分かっただろう」サンドモンスターは背景に溶け込んでいたが、憎悪に満ちた目だけが赤く光っているのが見えた。

「かたをつけてやる」浮遊体は円形のカッターに変化すると次々に襲って来た。葵は必死にその攻撃を光盾で防いだ。

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