第22話 秋生
向日葵は生まれたばかりの茜を抱き上げ、秋生に手渡そうとしていた。笑顔を浮かべていた秋生の表情が突然苦悶の表情に変わった。苦しそうに両手で喉をかきむしるような仕草の後、口と鼻から大量の鮮血が飛び散った。
向日葵は医療スタッフを呼ぼうと大声を上げようとしたが、なぜか唇が動いているのに声はまったく出なかった。秋生は床を転げ回った。向日葵の出産は難産だったため、ICU(集中治療室)にいたのだが、他に患者はいなかった。部屋の窓の向こう側にいる医療スタッフも異常に誰も気が付いていなかった。
向日葵は茜を抱えたままベットから降りようとした。新生児用のベットで寝ていた葵はこの騒ぎでも目を覚さなかった。茜は対照的に父親の瀕死の状態に目を剥いていた。向日葵と茜は秋生が床に突然現れた漆黒の穴の中に引きずり込まれていく光景に驚愕した。向日葵は茜の体から猛烈なエネルギーが発散されたことに気づいた。
その力は秋生が引き込む力と拮抗していた。向日葵は生まれてきた双子の兄妹に異常な能力がないことを願っていた。
高名な神職北島家の子孫の秋生は向日葵に生まれてくる子供には神が宿ると予言していた。そして、秋生は茜の方が葵よりも先に能力を会得して、その力を発揮するとまで言っていた。
しかし、秋生を闇の世界に引き込もうとする邪悪のものが現れるのが早かったために茜ひとりの力では秋生を救うことは出来なかった。茜に出来ることは邪悪のものがこの世界に出てくることをしばしの間おさえることだったのだ。
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