第41話 戦後処理
ひとまず勝利を収めたものの、街の姿は決して無傷ではなかった。
頑丈を誇った門は破壊され、防壁の一部は崩れ落ち、街の中も至る所で爪痕が残っている。
家屋は壊れ、瓦礫が散乱し、負傷者も数多く運び込まれていた。
だが、不幸中の幸いと呼ぶべきか。
ロジャーの奮闘によって死者は一人も出なかった。
それだけが街の人々にとって大きな救いだった。
瓦礫を片付ける人々の間を縫い、ロジャーは仲間たちと合流する。
アンナは疲労の色を浮かべながらも笑みを見せ、セレスティアは傷だらけの体を気丈に支え、アマンダは剣を杖代わりにして立っていた。
「復興作業なら俺も手伝おう。この腕力は飾りじゃない。重い瓦礫でも何でも運んでやる」
ロジャーが当然のように言った。
だが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「……いや、いい。お前は十分すぎるほど、働いてくれた。これ以上、お前に頼り過ぎると腑抜けてしまうだろう」
そう告げたのはギルドマスターだった。
傍らにいた町長も頷く。
「街の復興は我ら住人でやり遂げます。これは我々が背負うべき責務です。ロジャー殿には、もうこれ以上の無理をしてほしくない」
ロジャーは言葉を失った。
人々の顔は疲れ果ててはいたが、確かな誇りに満ちていた。
英雄に全てを任せるのではなく、自らの手で街を立て直す。
その意思が、静かに燃えている。
ロジャーはゆっくりと頷いた。
「……わかった。お前たちの気持ちは受け取った。だが、俺にできることがあれば遠慮なく言え。俺はこの子たちを連れて、すぐに駆けつける」
そう言って腕に抱いた使い魔たちを愛おしそうに撫でる。
その姿にセレスティアとアマンダは呆れ顔を浮かべつつも、どこか安心している。
アンナだけは小さく微笑みながら「……やっぱり変態さんですね」と呟くのであった。
ロジャー自身は大した怪我もなく、疲労もさほど感じていない。
一方でアンナ、アマンダ、セレスティアの三人はすっかり限界に達していた。
宿へ戻ると布団に倒れ込むようにして、三人は気絶するように眠りについた。
三人を部屋まで見送ったロジャーは静かに頷く。
「……少し散歩にでも行くか」
腕に使い魔たちを抱き寄せながら、そっと宿を出た。
夜風がまだ焼け焦げた匂いを運んでくる。
街の大通りには崩れた瓦礫が並び、破壊された門の残骸を兵士たちが必死に片付けていた。
泣きじゃくる子供を宥める母親、重傷の仲間を担いで運ぶ冒険者。
そこかしこに戦いの爪痕が刻まれている。
ロジャーは黙って歩いた。
腕の中のモモルが小さく鳴き、ミミフィーヌとシロモンが不安そうに震える。
そして、興味深そうにフェルリオットは首を動かして、周囲を見渡していた。
「大丈夫だ。お前たち。もう街は守られた」
低く落ち着いた声で告げると、使い魔たちは安心したようにロジャーの胸に顔を埋めた。
ふと、兵士の一人がロジャーに気づき、手を止めて敬礼する。
「ロジャー殿。改めて礼を。あなたがいなければ、この街は……」
「礼はいい。俺は俺の大事なものを守っただけだ」
そう言い残し、ロジャーは再び歩き出す。
英雄然とした姿でも、誰かの称賛に浸るでもなく、ただ使い魔たちの小さな命を守るために。
瓦礫を越え、門の外を見渡したロジャーは崩れた大地と血に染まった砂の匂いを胸いっぱいに吸い込み、静かに目を閉じた。
「ドラゴンが関係しているか……。さて、どうなることやら」
呟いた声は夜の静寂に溶けて消えていった。
◇◇◇◇
翌朝。
アンナとセレスティアは布団の中でしばらくぐったりしていたが、ようやく体を起こした。
全身にまだ疲労が残っており、どこか気怠そうな表情を浮かべている。
「……まだ体が重い」
「昨日の戦いのせいだな。私も腕が鉛みたいに重い……」
二人の会話に、既に身支度を終えていたアマンダが軽く笑う。
「はぁ……情けないわね。冒険者ならこれくらい一晩で回復しなきゃ」
「アマンダさんだから言えるんですよ……」
「私は大丈夫です……とか言ったら嘘になるけどな」
そんなやり取りを交わしながら三人は食堂へと向かった。
そして、扉を開けると――
「ははは! 見ろ、この食べっぷり! 最高だな!」
ロジャーが豪快に笑い、モモルやミミフィーヌ、シロモン、そしてつい最近テイムしたフェルリオットにまで果物やパンを分け与えていた。
使い魔たちはロジャーの肩や膝の上にちょこんと座り、幸せそうに食べている。
「……なんで、あの人だけあんなに元気なの?」
「……ほんと、不死身なのかもしれませんね」
セレスティアとアンナが呆れたように呟く。
ロジャーは三人に気づくと、満面の笑みで手を振った。
「おお! おはよう! 調子はどうだ? こいつらは元気満タンだぞ!」
「……あんた、ほんとに昨日あれだけ戦った人間なの?」
「もちろんだ! 俺は可愛い使い魔たちに疲れた姿なんて見せられないからな!」
誇らしげに胸を張るロジャー。
アマンダは額に手を当ててため息をつき、アンナは思わず苦笑いを漏らし、セレスティアは呆れながらも小さく笑っていた。
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