第30話 今日はひとまず準備だ
昼食を終えた一行は、再び冒険者ギルドへと足を運んだ。
石畳の街道を歩く足取りは軽い。
セレスティアは胸を張り、ロジャーとアマンダは落ち着いた表情で彼女の後ろを歩く。
アンナは使い魔たちを抱えながら、三人の後ろ姿を見守っていた。
ギルドの重たい扉を押し開けると、再び賑やかな声が耳を打つ。
依頼の受注や報告に訪れる冒険者たちで、カウンター前は人だかりができていた。
受付の女性がこちらに気づき、すぐに顔を上げる。
「先ほどはどうも。ドラゴンについて、追加でご相談でしょうか?」
「ああ、そうだ」
ロジャーが軽く顎をしゃくると、セレスティアが一歩前に出た。
「私はセレスティア・グリューネと申します。ご存じのとおり、ロジャーさんとアマンダさんには私の指名依頼を受けてもらっています。その依頼内容は――ドラゴンをテイムすることです」
周囲が一瞬、静まり返った。
ちらちらと視線が集まり、ざわつきが広がる。
「……テイム、ですか?」
受付嬢が驚いたように問い返す。
セレスティアは真剣な眼差しで頷いた。
「はい。ですから、ギルドで得たドラゴンの目撃情報をもとに、現地調査を行いたいのです」
受付嬢は記録簿をめくりながら、少し困ったように眉をひそめた。
「調査……。通常、目撃情報の調査依頼はギルド側が正式に依頼を受け付けてから行うものです。個人の冒険者が独自に動くと、後で責任問題になる恐れが……」
言いかけたところで、アマンダが口を開いた。
「問題はないはずよ。セレスティアの依頼は正式にギルドへ提出済み。依頼内容はドラゴンのテイムなんだから、目撃情報の調査はその一環として認められるはずでしょ?」
「たしかに……」
受付嬢は言葉を詰まらせ、視線を落とした。
横からロジャーが口を挟む。
「ようするにだ。俺たちが調べるって言ってんだ。ギルドは情報を渡してくれりゃいい」
乱暴な言葉に、受付嬢は苦笑しながらも頷く。
「……わかりました。ただし、あくまで自己責任になります。場所は――南の荒野、北の森、東の山岳地帯。報告があった三か所です」
地図に印をつけ、彼女はそれを差し出した。
セレスティアは深く頭を下げて受け取る。
「ありがとうございます」
ギルドを出ると、セレスティアは胸元に地図を抱きながら大きく息を吐いた。
「……通ったな」
「そりゃそうだ。俺たちが依頼中って名目を持ってるからな。こういう抜け道は大事にしとけ」
ロジャーがにやりと笑う。
セレスティアはふっと笑みを返した。
「なるほど……。やっぱり師匠は頼りになる」
「まあ、この程度はな!」
「いや、胸を張るとこはそこじゃないから……」
アマンダが頭を抱え、アンナが小さく吹き出した。
だが、確かに一行は次なる一歩を踏み出す準備を整えつつあった。
ギルドで情報を得たあと、一行はそのまま街を回り始める。
「調査は明日からにしよう。まずは準備だな」
「そうね。武具の修繕や交換もしておきたいわ」
「消耗品も補充しないといけないし、調査場所の情報収集も必要だな」
アマンダが冷静に指摘すると、ロジャーとセレスティアも頷いた。
まず向かったのは鍛冶屋。
ロジャーの短剣は、これまでの依頼で刃こぼれが増えていたし、セレスティアの剣も何度も打ち合った痕が残っていた。
店主は熟練の職人らしく、刃を見ただけでニヤリと笑った。
「ずいぶん使い込んだな。こいつら、いい相棒なんだろう?」
「いや、俺の相棒はこの子たちだ!」
そう言ってロジャーはアンナに預けている使い魔たちを抱っこして、店主にこれでもかと見せつけた。
「お、おう。そうか。でも、武器は大事だろう? 冒険者なんだからよ」
「俺は魔法も使えるし、この鍛え上げた肉体もある。短剣は解体や斬撃が有効な相手に便利で使ってるだけだ」
「そ、そうか。あんた、かなり強いんだな……」
「ふっ、当たり前だ。この子たちを守るために死ぬ気で鍛えたからな!」
セレスティアは額を押さえ、アマンダは肩をすくめ、アンナは苦笑いを浮かべていた。
「ま、まあ……武器の修繕は任せとけ。明日の朝には仕上げておく」
「助かる!」
ロジャーが力強く頷くと、店主は「変わったやつだな」と小声で呟きつつ工房へ戻っていった。
「……師匠、もう少し普通に会話できないのか?」
「何を言う。俺は真実を語っただけだ」
「はぁ……」
セレスティアが呆れたようにため息をつく横で、ロジャーは満足げに使い魔たちを抱き寄せていた。
次は道具屋。
携帯食料に水袋、ポーションや解毒薬など、必要なものを一通り揃えていく。
アンナがメイドの目で確認し、品質に問題ないかを確かめながら買い物を進めた。
「この解毒薬は品質が怪しいです。こっちにしましょう」
「さすがアンナ、目利きが助かる」
消耗品の補充はアンナに任せておけば問題ないだろう。
ロジャーやアマンダも自分たちが使う分を購入していく。
当然ながらロジャーは使い魔たちの餌や薬は最高品質で最高級のものを買っていた。
その様子を見ていた女性陣は肩を竦めるばかり。
「……ほんと、使い魔にかける情熱はどこまでも揺るがないのね」
アマンダが半眼で呟くと、セレスティアも苦笑を浮かべる。
「でも、師匠。自分の薬や携帯食料はそこそこの物でいいんですか?」
「当たり前だ。俺の体は鍛えてある。少々の毒や傷じゃ死なねぇし、飯も質素で十分だ。だが――この子たちは違う!」
ロジャーが胸を張って宣言すると、モモルとミミフィーヌ、シロモンが嬉しそうに鳴いた。
店内に小さな可愛い声が響き、客や店員たちが思わず振り返る。
「ほら見ろ。可愛いだろ?」
「……ええ、確かに可愛いけど」
「師匠、周りがドン引きしてるぞ……」
セレスティアがぼそっと呟くと、ロジャーは「気にするな」と言わんばかりに鼻を鳴らした。
その後は、地図を広げての下調べだ。
南の荒野は魔物が少なく見晴らしはいいが、昼間は暑さが厄介。
北の森は湿気が強く、魔物も多い。地形が複雑で見通しが悪い。
東の山岳地帯は険しい崖道が続き、飛行系の魔物が多いとされていた。
「どこも一筋縄ではいかないな」
「だからこそ準備が大事ってわけよ」
アマンダが腕を組んで唸る横で、セレスティアは真剣な表情で地図を見つめていた。
「……いよいよ、ドラゴンに繋がるかもしれないんだな」
「焦るなよ、セレス。調査は一歩ずつだ」
ロジャーが肩を叩くと、セレスティアは小さく頷いた。
そうして夕暮れ時、一行は宿へ戻り、それぞれ明日に備えて荷物の整理を始めた。
フォルセリアを出てから再び、新しい街での挑戦が始まろうとしていた。
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