第25話 ドラゴンをテイムできるテイマーになるんだ!

 木剣を喉元に突きつけられたまま、震える新人剣士は顔を真っ赤にした。


「お、俺が……間違ってました……!」


 その声にロジャーは木剣をすっと下ろし、にやりと笑った。


「わかりゃいい。だがな、謝るだけじゃ意味がねぇ。戦って、学んで、強くなれ。そうすりゃ今日の恥は明日の誇りになる」


 その言葉に、周囲の新人たちがざわめいた。

 普段はふざけてばかりの変態テイマー――その姿が一瞬、まぎれもない「導く師」に見えたからだ。

 新人剣士は深く頭を下げた。


「……はい! ご指導、お願いします!」


 ロジャーは満足げに頷き、背後の使い魔たちへ振り返る。


「許してやるか?」

「キュ!」

「フミュ!」

「ピッ!」


 使い魔たちが一斉に声を張り上げ、新人剣士の背を押すように応援する。

 アマンダは呆れ顔でため息をつきながらも、口元に小さな笑みを浮かべていた。


 新人剣士をはじめ、ギルドから集められた新人たちは――ロジャーの奇妙で圧倒的な指導の下、本気の訓練へと身を投じることになる。

 

 始まった新人訓練。

 最初はロジャーとアマンダが基礎から叩き込む。


「腰が高ぇ! もっと踏ん張れ! 剣を振るときは肩じゃねぇ、腰を回せ!」

「矢は的を狙うんじゃない、矢筋を通すの。姿勢を崩さず、呼吸を合わせなさい」


 ロジャーは木剣を叩きつけるように新人たちの手を直し、アマンダは的に矢を射ち込みながら正しいフォームを実演する。

 新人たちは悲鳴を上げたり額から汗を滴らせたりしながら、必死についていった。


 次は新人同士の組手。

 木剣が打ち合わされ、時折「ぎゃっ!」「いってぇ!」と悲鳴が混じる。

 だが、互いに手加減しながらも必死に食らいつき、少しずつ「戦いの形」を掴み始めていた。


「ほら、そこ! 相手を見失わない!」

「連携だ! 一人で突っ込むな!」


 アマンダが鋭く叱責し、ロジャーが笑いながらアドバイスを飛ばす。


 そして――いよいよ最後の課題。


「連携の練習」


 新人全員が一列に並び、対峙するのはロジャーただ一人。


「う、嘘だろ……!? 俺たち全員で先生を?」

「おいおい、絶対ボコられるじゃねぇか!」

「安心しろ。痛みは成長の証だ!」


 ロジャーがにかっと笑い、木剣を肩に担ぐ。

 その後ろで、アマンダとアンナは椅子に腰かけて見学していた。


「……大丈夫なのかしらね」

「ロジャーさんだから大丈夫なんです。問題はセレスお嬢様を含めた新人さんたちの心が折れないかどうか、ですね」


 アンナの不安げな言葉に、アマンダは小さく笑って返す。


「さて、新人ども! 全員でかかってこい! ただし――俺を倒せたら晩飯を奢ってやる!」


 ロジャーを前にして、新人たちはごくりと唾を飲み込んだ。

 その列の中には――セレスティアの姿もあった。


「……お嬢様も一緒にやるのか?」


 他の新人たちセレスティアに問う。


「ああ。私もまだ半人前だからな。ここで一緒に学ばないと意味がない」


 そう言って木剣を握りしめるセレスティアの瞳は真剣そのものだった。


「その通りだ、セレス! 気合を入れてかかってこい!」


 ロジャーが木剣を振り回しながら大声で笑う。


 合図と同時に、新人たちとセレスティアが一斉に突っ込む。


「はああっ!」

「ふっ!」


 セレスティアの剣筋は鋭い。

 だが、ロジャーは笑顔のまま木剣で軽々と受け流した。


 横から飛び込んできた新人剣士も、ロジャーの足払い一つで転がる。

 弓を射ようとした新人は、ロジャーの投げた小石で狙いを逸らされて尻もちをついた。


「ひとりひとりは頑張ってる! だがなぁ――連携がバラバラだ!」

「ぐっ……!」


 セレスティアは息を荒げながらも周囲を見渡した。

 確かに皆が勝手に動いていて、ロジャーに各個撃破されている。


「みんな! 私に合わせてくれ!」


 セレスティアが声を上げる。

 新人たちが顔を見合わせ、意を決して彼女の動きに合わせた。


 セレスティアが斬り込むと同時に、横から新人剣士が援護し、後方から新人弓使いが射る。

 一瞬だけ、ロジャーを囲むような連携が生まれた。


「――そうだ、それだ!」


 ロジャーが満足そうに笑みを浮かべ、次の瞬間には全員をまとめて吹き飛ばした。


 床に転がり、息も絶え絶えの新人たちとセレスティア。

 だが彼らの表情には、悔しさよりも達成感が浮かんでいた。


「……なるほど。連携とは難しいな」


 セレスティアが木剣を握り直し、悔しげに呟いた。


 新人たちとセレスティアが床に転がったまま荒い息を吐いていると、見学していたアマンダが前に出た。

 鋭い眼差しで一人ひとりを見回し、やがて口を開く。


「――よく頑張ったわね。全員、体中傷だらけだけど……最後にはちゃんと連携になっていた」


 その言葉に、転がっていた新人剣士が驚いたように顔を上げた。


「お、俺たちが……?」

「ええ。最初はバラバラで各個撃破されていた。でもセレスティアの声を聞いて動いた時、あれは立派な連携だったわ」


 セレスティアは木剣を握り締めたまま、頬を赤らめる。


「わ、私なんてまだまだ……」

「謙遜はいらない。あなたの一声がなければ、誰も動けなかったのよ」


 アマンダの言葉に、セレスティアは小さく息を呑み、こくりと頷いた。

 ロジャーが頭をかきながら笑う。


「おう、今日はここまでだ! 明日になれば体中が筋肉痛になるだろうが、それが成長の証だ!」


 アマンダが仕上げとばかりに声を張る。


「はい! ストレッチを忘れないように! 怪我を防ぐのも冒険者の技術のひとつよ!」


 全員で腕や足を伸ばし、悲鳴に似た声をあげながら体をほぐしていく。

 その様子にロジャーは満足げに腕を組み、アンナは「ふふっ」と小さく微笑んでいた。


 やがて訓練は終了となり、新人たちは感謝の言葉を残して散っていった。

 セレスティアも汗に濡れた髪をかき上げ、充実した笑みを浮かべる。


「……ありがとう、師匠、アマンダ。それにアンナも。今日の訓練で、少しは前に進めた気がする」

「よし! なら次はもっとハードにいくぞ!」

「えぇっ……!?」


 笑い声とともに、特別講義は幕を下ろした。


 それから、ロジャーたちは宿へと戻る。

 宿の食堂には、焼きたての肉と香草の匂いが漂っていた。

 訓練を終えたばかりの身体に、温かい食事は格別だった。


「ふぅ……生き返る……」


 セレスティアがスープを飲み干し、満足げに息を吐く。

 アンナがハンカチを差し出しながら、微笑んだ。


「セレスお嬢様、口元に……。今日一日、本当に頑張られましたね」

「ありがとう、アンナ。でも、まだまだだ。私……全然足りない」


 セレスティアの言葉に、ロジャーが骨付き肉をかじりながら口を開いた。


「足りねぇのは当たり前だ。今日みたいに訓練をしながら依頼をこなして、少しずつ成長していけばいい」


 アマンダも頷き、セレスティアへ視線を向ける。


「私も協力するわ。ロジャーが言う通り、依頼の中で学ぶのが一番の糧になるから」


 セレスティアは真剣な表情で二人を見た。


「……それで、ドラゴンのことは? 結局、まだ影しか見ていないんだよね」


 そこでロジャーがジョッキを置き、いつになく真剣な声で答えた。


「ああ。だから――目撃されている場所には、まず俺が一人で行く」

「師匠が……?」


 セレスティアが驚いたように眉を寄せる。


「当然だろ。強い魔物が出ても俺ならなんとかなる。だが今のお前たちじゃ無理だ」


 ロジャーは真っ直ぐにセレスティアを見据えた。


「だから、その間はアマンダがセレスの訓練相手を務める。依頼をこなしながら、基礎を叩き込んでもらえ」


 アマンダもすぐに応じる。


「任せて。冒険者としての技術を徹底的に教え込むわ」


 セレスティアは拳を握りしめ、力強く頷いた。


「わかった。依頼と訓練を頑張って……必ず、ドラゴンをテイムできるテイマーになる!」


 ロジャーは破顔し、ジョッキを掲げた。


「よし! その意気だ! お前がドラゴンに真正面から立つ日まで、俺たちが支えてやる!」


 アンナも微笑んでグラスを掲げ、アマンダも静かにそれに倣った。

 四人の器が小さくぶつかり合い、夕食の場は熱気に包まれた。


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