第15話 情報収集!
それからさらに数時間、旅路は穏やかに続いた。
青空の下、丘陵を越えた先に、それは見えてきた。
「……あれが、フォルセリアの街か」
アマンダが前を歩きながら指差したその先には、城壁に囲まれた中規模の都市が広がっていた。
遠目にも賑わいが感じられ、城門には列を成す人影と、出入りする馬車の姿が見える。
「ようやく宿にありつける……!」
「セレス様、昨晩も今朝も修行に明け暮れていましたからね……体を休めるのも大事です」
「うっ……そ、そうだな。あれは修行というより、拷問だった……」
セレスティアが腰をさすりながらぼやくと、後ろからロジャーが笑った。
「これでもまだ序の口だぞ? 俺の修行は優しさが基本だ」
「もうちょっと優しさを抑えてくれ……!」
一行はそんなやり取りを交えながら、道を下っていく。
「この街で数日滞在して、ドラゴンに関する情報を集めよう。できれば冒険者の間で噂になってるような目撃談があるといいんだがな」
「フォルセリアなら情報も集まりやすいでしょう。冒険者の集まる酒場もいくつかありますし、図書館もありましたよ」
「へえ、図書館か……。そこも行ってみたいな」
セレスティアは好奇心を膨らませながら城門を見上げた。
都市フォルセリア。
それは、様々な情報と人が行き交う、東方交易の拠点。
ドラゴンテイムへの第一歩が、今、そこから始まろうとしていた。
「まあ、行ってから考えましょう」
アマンダの言葉に頷きながら、一行は城門へと向かう。
城門前には既に行列ができていたが、ロジャーたちは冒険者と貴族ということで、優先通行の許可が下りていた。
「失礼します。こちらをご確認願います」
門番の男が真面目な顔で立ちふさがり、通行証の提示を求める。
ロジャーとアマンダは迷わず腰からギルドカードを取り出し、セレスティアとアンナは懐から家紋が刻まれた印章を差し出した。
「ギルド登録済みの冒険者ロジャーだ。こちらは指名依頼を受けて、ドラゴンをテイムするための旅に出ている最中だ」
「私も同じく、セレスティア・グリューネ。グリューネ男爵家の娘です。現在、王都発の特別依頼にて同行中」
門番は黙ってそれらを確認すると、うなずいた。
表情は一切崩れない。
まじめな性格が滲み出ていた。
「確認しました。通行は許可します。ただし……」
彼の視線が、ロジャーの傍らでふよふよと浮かぶミミフィーヌと、モモルの背に乗っているシロモンに向けられる。
「その使い魔たちについて。通行記録に記載する必要があります。名前と種別、それから危険度を」
「名前はモモル、ミミフィーヌ、シロモン。全部、俺の大切な家族だ。危険度? そんなもんゼロに決まってるだろ。見てわかるだろ、この可愛さが」
ロジャーが両手を広げて語るのに、門番は眉一つ動かさずに言った。
「見た目で判断してはいけません。念のため、外部魔物資料に照合します」
「はぁ? モモルはただの毛玉モンスター、ミミフィーヌは癒し妖精、シロモンは……あっ……いや、まあ……シロモンだけはちょっと……」
魔道端末のような道具で情報を検索していた門番が、ピクリと反応した。
「シロモンという名で登録されている種は確認できませんが……外見特徴と一致する個体は、数年前に発見された純白のスノーム種に該当する可能性があります。極めて珍しく、市場価値も高いため――盗難の恐れがあります」
「なっ……! 盗む奴がいたらぶっ飛ばすに決まってんだろ!」
ロジャーが一歩前に出て拳を握ると、門番はやや警戒するように距離を取りながら言った。
「お気持ちは理解しますが、規則です。街に入る以上、珍しい使い魔は注意喚起対象となります。リードをつける、もしくは常に目を離さないようにしてください」
「くっそ……! まったく……」
ぶつぶつと文句を言うロジャーに、門番はふと表情を曇らせた。
「ロジャー……? 変態テイマーと呼ばれている男の話を、どこかで聞いたような……」
その瞬間、アマンダとセレスティアが同時にぴくりと肩を揺らす。
アンナは「ああ……」という顔をして視線をそらした。
「……お前、その話、どこまで知ってる?」
ロジャーが目を細めて問いかけると、門番は控えめに言った。
「失礼。噂程度です。過去に街道で、愛玩用の魔物と戯れていたとか……。愛玩用の魔物しかテイムしないとかです」
「それは事実だが! 俺は変態ではなく、愛の戦士だ!」
ロジャーがぷんすかと怒る横で、門番は小さく咳払いを一つして、言葉を切り替える。
「通行を許可します。シロモンには十分ご注意を」
そのまま、一行は街の中へと入っていった。
ロジャーは最後までぶつぶつ文句を言っていたが、セレスティアたちの顔にはどこか呆れたような、楽しげな色が浮かんでいた。
城門を抜けた一行は、まず中央広場で足を止めた。
「じゃ、私たちは宿を探すわ。ロジャー、お嬢様があまり無茶しないようにちゃんと見張っておくのよ」
「言われなくてもわかってる。そっちも変な宿を取らないようにな」
「ふふ、私が騙されるとでも思ってるの? 丁度いい宿を探しておくわ」
そう言って、アマンダとアンナは東の商業地区へと歩いていった。
一方、ロジャーとセレスティアは街の中心部にある冒険者ギルドへと向かう。
「それにしても、やっぱり人が多いな。地方都市とは規模が段違いだ」
「これだけ大きな街なら、ドラゴンの情報があるかもしれない。期待できそうだな」
そんな会話を交わしながら歩いていると、突然、周囲がざわついた。
「おい見ろよ、あの美人……!」
「おお、えっらい綺麗なお嬢さんじゃねえか」
「貴族か? いや、でも服装は動きやすい……ってことは、冒険者かも?」
数人の荒くれ冒険者たちが、セレスティアの姿に目を奪われていた。
年齢は二十代半ばから三十前後。
いかにも慣れてる風の男たちだ。
「へい、お嬢さん。こんな雑踏で迷ってないかい? よかったら案内してやろうか」
「食事でもどうだ? この街なら、うまい店を知ってるぜ?」
突然、前に立ちはだかるようにして話しかけてくる男たちに、セレスティアは露骨に眉をひそめた。
ロジャーが一歩前に出ようとした、そのとき――
「……ん? その男の連れてる使い魔、なんだ? 見たことねぇな」
「ピンクの毛玉に……妖精? それに白い小動物……?」
「ちょっと待て。これ……噂で聞いたことあるぞ。まさか……」
男たちが視線をロジャーに向け、徐々に顔色を変えていく。
「おい、お前……まさか変態テイマーって呼ばれてる奴じゃねぇだろうな?」
「え? ああ、俺のことか? 俺はロジャー。愛の戦士だ!」
ドヤ顔で親指を自分に向けるロジャー。
その瞬間、冒険者たちの顔が引きつった。
「あっ……ああああ! マジで本人だった!?」
「ど、どうするっ!? 使い魔を馬鹿にした奴が再起不能にさせられたって話だぞ!」
「逃げるぞ!! これは関わっちゃいけない奴だ!!」
数秒前まで陽気に絡んできていた冒険者たちは、土煙を巻き上げて一斉に逃げ出した。
「……うわ。ものすごく警戒されてるな、師匠」
「心外だ。俺は無害だと言うのに……」
落ち込むロジャーを横目に、セレスティアはふっと笑みをこぼす。
「ふっ。そうだな。師匠は可愛い魔物に目がないだけで、基本は無害だからな」
フォルセリアの冒険者ギルドは、石造りの荘厳な建物だった。
分厚い扉を開くと、内装は思いのほか華やかで、木の温もりと活気に満ちていた。
掲示板には無数の依頼書が貼られ、奥では冒険者たちが酒を飲みながら談笑している。
そんな中、ロジャーとセレスティアは真っすぐに受付カウンターへと向かった。
「失礼、指名依頼でこの街に来た者だ」
ロジャーがギルドカードを差し出すと、隣でセレスティアも家紋入りの印章を掲げる。
受付嬢は二人の身分を確認し、小さく目を見開いた。
「確認いたしました。指名依頼ですね。内容についてお聞きしてもよろしいですか?」
「こちらのセレスティア・グリューネ様がドラゴンをテイムしたいとのことでな。俺と毒手のアマンダが指名されている」
「毒手のアマンダ様もですか!? 失礼ですが、もしや変態テイマーのロジャー様でしょうか?」
「だから、愛の戦士だ! 変態ではない!」
「使い魔は……モモル、ミミフィーヌに、増えてますね。その見た目はもしかしてシロモンですか?」
「おう! ここに来る途中で運よくテイムできたんだよ! 可愛いだろ?」
「モモル、ミミフィーヌにシロモンの三体をテイムと。特徴も一致していますし、間違いなく変態テイマーのロジャー様ですね」
「愛の戦士だと言ってるだろう! なんで変態扱いなんだ!」
「まあまあ、師匠。もう変態でいいじゃないか。今はそれよりもドラゴンの情報を貰おう」
「セレス。俺が変態呼ばわりされていると、お前は変態の弟子だと言われるようになるんだぞ?」
「すまない。師匠は変態ではなく、愛に忠実な戦士なんだ。どうか、訂正して欲しい」
二人のやり取りに苦笑しながら、受付嬢は資料棚から数枚の紙を取り出した。
「現在、確認されているドラゴンの目撃情報は三件です。いずれも近隣の山岳地帯や深部の森など、人の手が及びにくい場所です。ただ……目撃した冒険者のほとんどは命からがら逃げ帰った者ばかりで、詳細は曖昧です」
「ふむ……! そういう情報でも構わない。場所を教えてくれ」
「できれば目撃されたドラゴンの特徴や外見も分かるとありがたい」
受付嬢は頷き、手元の地図を広げながら説明を続ける。
「一つ目は、
「ふむ。ドラゴンの可能性もあるが、ワイバーンやグリフォンの見間違えかもしれん」
「二つ目は、東の霧の大渓谷。谷間に巨大な爪痕と焼け焦げた地面が発見されました。赤い鱗が落ちていたという話も……」
「赤い鱗……! レッドドラゴンかもしれん」
「レッドドラゴンか……!」
「気性は荒いが、テイムできれば間違いなく一目置かれるぞ!」
「三つ目は、北の黒石峰。山全体が煤けていて、地元では黒の主が住んでいると恐れられています。非常に大きな影だったと言われてます」
「なるほど……。ドラゴンかどうかはさておき、期待できそうだな」
ロジャーが腕を組んで唸ると、セレスティアがふっと笑みを浮かべる。
「一年しか猶予がないから、ここで終わらせたいな」
「まだ旅に出て、一か月も経ってないんだ。そう焦るな」
「しかし……」
「いいか? ドラゴンは賢い生き物だ。そういうのは見抜かれるぞ」
「わかった……。肝に銘じておく」
「おう。常に冷静にな」
「師匠を言えたことではないだろう? シロモンをテイムしようとしてた時、興奮して落ち着いてなかったじゃないか」
「言うようになったじゃねえか……!
ロジャーが肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。
するとセレスティアもいたずらっぽく笑みを返す。
「まあ、冗談はさておき、ここで手に入った情報は貴重だ。アマンダたちと合流して、作戦を立てるぞ」
「了解、師匠」
二人は再び受付に礼を告げてから、ギルドの外へと歩き出した。
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