第六話 主人公、カボチャ頭をぼてくり返す
「良かった……来て下さったのですね!」
怯えきっていた聖女様の満面の笑顔。
グランというお付は、立場など関係ない不遜な態度で不敬に応じる。
「礼は俺よりこいつに言えよ。お前を見つけたのはこいつなんだから」
「まぁ、可愛いウリ坊……」
「鼻の効くのはいないかと探して、母も兄弟も狼に食われたこいつを助けたんだ。……お前のぱんつの匂いを覚えさせて探させたら、岩肌が崩れた奥にダンジョンの壁が見えてる所に行きたがるから、壁をぶち壊したら……ビンゴだ」
「そんな匂いを覚えさせないで下さい!」
「一応こいつもオスだから、その方が必死になるだろ?」
「知りません!」
何で聖女様は、いきなりこいつと漫才を始めてるんだ?
そんな余裕など無いだろう。
だが、鎖帷子だけの軽装に、とんでもない大剣を背負ったこいつの安心感は何なんだ?
壁に空いた大穴から吹き込む海風が、邪悪な空気を一掃するような、この……。
☆★☆
おおっと。
一人称で話を進めるのは主人公の特権だ。そろそろ返してもらおうか。
まったく、どいつもこいつも、この世の終わりみたいな顔しやがって……。
「おい。
「はいっ。でも、失禁なんてしてませんよぉ!」
「本当か? 天空神に誓って言えるか? 聖衣の上着を捲って調べるぞ?」
「うぅ……ちょっとだけ……」
「他の連中がいるからと、見栄を張らんでよろしい」
「あぅ……これでも年頃の娘なんですよ?」
「安心しろ。聖女なんてやっていれば、嫁に行けなくても世間の目は優しい」
せっかく、
とりあえず、裏拳で殴り飛ばしておく。
「もう! 私をお嫁に行けない身体にしたのは誰ですか?」
「今時、処女だって言い張っちまえばこっちのものだぞ? そんな物にこだわる男は、遊び慣れてないから区別ができねえ」
「嘘をつくのは、聖職者として問題です!」
「……ついさっき、漏らしてないとか
「……さあ?」
「シラっとぼけてないで、やるべきことをやれ! 抱きまくら」
「はぁい……」
ほっぺたを膨らませて、リリアンが動き出した。
他の連中は……まあ、しゃーねえか。場数が足りてない。
俺は振り向いて、こちらの様子を窺うカボチャ頭に向き直った。
「お前か……俺の抱きまくらを虐めて、怖がらせた野郎は?」
こちらの気配を察して、ジリジリ後退りする。
魔物なんて大概そうだ。
自分より弱い奴には嵩に懸かるが、強い相手にゃビビりまくる。
「あいつはあれでも聖女なんて看板背負ってるから、他者に対するプライドだけは保たなきゃならねえんだよ。それを怖くて失禁するなんて、生き恥を晒させやがって……。覚悟はできてるんだろうな?」
「やめて下さい! それ、私へのダメージの方が大きいです! そこまで気にしてなかったのに……うぅ……」
「余計な茶々を入れるな!」
追い詰められたカボチャ頭が、飛びかかってくる。
そんなデカい鎌を振り回してんなよ。
いくらリーチが長くても、こうして柄を押さえちまえば何も出来まい?
いやに気取った正装の、胸倉を掴んで頭突きを食らわす。
勢いで鎌を取り落としたなら、そのまま左拳でフックだ。
あ~なんか、腹が立つ。
憂さ晴らしに、剣など使わずに殴り倒してやるか。
元々デカいカボチャ頭だ。面白いようにパンチが当たる。
軽い左ジャブで注意を引き付けて、見えない角度からの右の大振りのフックでダウン!
だが、悪いな。ここはリングじゃないから、レフェリーはいない。
もう一度胸倉掴んで、壁に凭れて立たせる。
テンカウント数える奴がいないから、ダウンじゃ終われないぜ?
もはや抗うことも出来ないカボチャ頭に、ボディも含めて上下にパンチを打ち分ける。
テンプルにコークスクリューのストレートを叩き込んだら、とうとうカボチャ頭がぶち壊れちまった。
「なんだよ……本当のカボチャじゃねえのか。これは食えねえな」
「そんなものを食べようとしないで下さい!」
「ウィバーンのステーキを美味そうに食っておいて、何言ってんだ?」
「あれは……美味しいんだから、しょうがないじゃないですか!」
あ、逆ギレした。
食い物のことになると、急に強気になるな……こいつは。
「嘘だろう……ジャック・オー・ランタンを素手で殴り殺しやがった……」
ようやく我に返ったらしい、神官のリットンが掠れた声を絞り出す。
ヒドラを殴り殺すよりは、楽だぞ? あいつは頭がいっぱいあるから。
「ノルドランの街に来ていたって噂は聞いていたが……あんた、ひょっとして【英雄】ディノ・グランデか?」
「英雄なんてだいそれたものじゃないが、確かに俺はディノ・グランデだ」
「じゃあ、この聖女様が噂の……喘ぎ声の大きい聖女様」
馬鹿! 気落ちした可哀想な冒険者を、本気で聖杖で殴って差し上げるな!
癒し手の聖女が、怪我人を増やしてどうするんだよ。
でも、やっぱり噂になってたか。
この手のエロい噂はすぐ広がるんだよなぁ。
「手足はくっつけ終わったな? お前らじゃ、これ以上は無理だ。帰還のスクロールを使うから、集まれ」
「待って下さい……あの……着替えたいです」
「おお……その角の向こうでいいだろう? 急げよ」
「あの……私の着替え……」
「ほらよ。下衣とぱんつ」
「みんなに見せないで下さい!」
真っ赤になって小走りで隠れる。可愛い奴だ。
一緒にミューレンちゃんも行ったけど、あの娘もお漏らし仲間か?
二人して、無理に平静を繕った顔で帰ってくる。
エンガチョぱんつは空間収納にポイだ。
「ウリちゃんも行きますよぉ……」
いつの間に名前をつけたんだ?
スクロールを仕えば、あっという間に難破船状態の俺達の船の前。
「接合部は無理に動かさないで下さい。まだ緩いので、ズレが出ちゃうと困ります」
帆布を使った急造担架で運び、連中の船室に集まる。
あのダンジョンを、放って置くのもどうかと思うしな。
連中がダンジョンの宝箱から回収した王冠を受け取る。とりあえず、聖女様に浄化してもらおう。
さすが本職。宝石の曇りが無くなった。
「聖女様としては、あのダンジョンをどう見た?」
「屍人ばかりでしたし……敵は少なめ。誰かのお墓がダンジョン化しかけているのでは?」
「……まあ、そんな所だろうな。どちらかといえば、お前の領分だ」
「鎮めに参りたいと思います。お手伝い願えますか?」
すっと立ち上がったリリアンが、俺を見つめる。
口をへの字に曲げて、俺も立つ。
「これ以上漏らされたら、収納が小便臭くなるからな……」
「せっかくカッコつけたのにぃ……台無しじゃないですか!」
「お笑い要員が何を言ってる?」
「真顔で言わないで下さい!」
「……私も連れてって!」
立ち上がったのは、ミューレンだ。
「このままじゃ、格好悪いったらありゃしないもん。仲間を傷つけられて、私は何も出来なくて、年下の聖女様に守ってもらって……」
「お前さんレベルの魔法じゃ、通用しないぜ?」
「それでも、連れてって! 聖女様だって、チビッちゃうくらい怖かったのに、立ち向かえたのは、もっと強い魔物と相対していたからでしょ? ……私も、もっともっと強くなりたい!」
「あの……失禁の件は。もうちょっと小さな声でお願いします」
「だから、話の腰を折るな、お漏らし聖女!」
「あぅ……」
ふん……怪我人二人はともかく、折れていないのは、この娘だけかよ。
まったく情けねえ奴らだ。
「リリアン、こいつも守れるか?」
「守りますよ? ウリちゃんも守ってあげるからねぇ」
「そいつも連れて行くのかよ!」
「命の恩人ですから、一蓮托生です」
チッ。言い出したら聞かないからな。
しゃあねえ、おまけが多いが暇潰しのダンジョン攻略を始めるか!
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