鳥の学校

@goudagouta

鳥の学校 First

     『鳥の学校』


冬の寒さが消え、桜が咲く季節。青い空をかける黒い翼を追いかけていた。

「お母さん、待ってよ。」

必死に飛びながら、鳴いた。

「あなたもこれぐらい飛べるようにならなきゃ大人になれないよ」

自分より太く強い鳴き声が帰ってきた。

「今日は、もう帰りましょう。」

「うん・・・」


家に帰ると父が先に帰っていた。

「おかえり」

「ただいま」

落ち込んでいる様子の僕を見て父が声をかけた。

「何かあったのか?」

「今日、お母さんと狩りに行ったけど、何もできなかったんだ」

「落ち込むことはない、オサムは学校もまだ行ってないだろ?」

「学校?」

「ああ、大人になる前にみんな狩りの仕方を学んだり、つがいを見つけたりする所さ。」

「お母さんとも学校で出会ったんだよ。」

ごはんの用意をする母親がほほえんでいた。

「僕も学校に行きたい。」

「そうか、そうだな。」

数秒の沈黙の後、父が口を開けた。

「学校に行きなさい」

母親も無言でうなずいていた。

「今日は豪華な食事にしましょう。」

母親は笑顔で言ったが、うっすら悲しそうな顔をしていた。


「いってらっしゃい!!」

父親は涙目になりながら、真っ黒な羽を大きく振りながら見送ってくれた。

「いってきます。」

僕も振り返りながらまだ幼い羽を精一杯振った。


母を追いかけ数時間飛んでいた。その日は曇天で空が低く感じた。

「ここが学校よ。」

母がそういったとき、今まで飛んだことのない長距離移動で疲れていた。

学校は数十メートルある巨木の中にあった。

「大きな木だね、こんな大きな木は見たことないよ」

「これだけ大きいとほかの動物から襲われないでしょ」

母は子どもとの一旦の別れを悲しんでいるようだった。

学校の中が見えるまで近づいたとき、僕と同じくらいの大きさの鳥たちが集まっていた。

「新入生ですか? 親御さんはここまでになります。」

母より一回り大きな鳥が話しかけてきた。

「分かりました。」

母は涙ぐみながら言った。

「頑張ってきなよ!」

「うん。」

僕は悲しみとともに新たな出会いに期待を抱いていた。

母と別れ、学校の門の前に来た。

「ここから先が学校か。」

門をくぐる前にわずかな時間があった。

「よし。」

覚悟を決め門をくぐった。


→新入生はこちら


木の板に刻まれた文字に従い矢印の方向に向かった。


「君も新入生?」

七色の光を放つ彼女の羽はまぶしく、今まで数羽の新入生らしき鳥とすれ違ったが、ほとんどが茶色や紺色の羽でこれほどまで鮮やかな色の羽は見たことがなかった。

彼女の羽に見惚れ僕は答えるのに時間がかかった。

「うん。」

「私も今日から入学するんだよね」

彼女の羽の美しさに目が行き、会話に集中できない。

「名前はなんていうの?」

「レイナだよ。君は?」

「オサムです。」

「きれいな羽だね。」

「ありがとう。みんなそういう。けど、、」

「けど?」

「自分では羽の色なんて見えないじゃない、いいことなんてないよ」

「いいじゃないか、君の個性だよ。」

「ありがとう。"個性"か。気に入ったよ。」

そんな話をしているうちに部屋に誘導された。

「新入生の方はこちらに来てください」


「教室っていうんだって」

「何が?」

「この部屋だよ。私たちはこれからここで狩りの仕方とかを学ぶんだって」

「よく知ってるね。」

「お母さんが教えてくれたのよ。」

僕は何も学校について親から教わらなかったので無知だった。


教室に入ると、数羽自分たちより早く到着している鳥たちがいた。

少しすると、母親と別れるときにいた大きな大人の鳥が入ってきた。

「もう、そろそろ始めるから待ってね」

大人の鳥はそそくさと教室を再び出ていったが、一瞬レイナの方をだが睨んだように見えた。僕は焦って彼女の顔を見たが、彼女は教室のから曇った空を見ていた


「あの人が先生かな?」

「先生?」

すこし呆れた顔で僕を見ながら言った

「私たちに色々教えてくれる人だよ」

僕は自身の無知が恥ずかしかったが、彼女が丁寧に学校に説明してくれるので嬉しかった。何より彼女としゃべる時間が楽しかった。


「お母さんもお父さんも学校のこと、あんまり教えてくれなかったんだ。」

「私は自分から聞いたわ。学校って興味深いじゃん。」

僕は、彼女の知的好奇心の強さを薄々気づいていたが、さすがだと思った。


「そろそろ始めようか」

しゃべりながらさっきの大きな鳥が入ってきた。

「自己紹介をします。このクラスの先生のヒロシです。ヒロシ先生と呼んでください。」

レイナが言う通り、私たちの先生はこの鳥らしい。

「君たちにも自己紹介をしてもらう。そうだなまず君!」

僕の方を指して言ったようだったが、自信がなかったので確認した。

「僕ですか?」

「そうだ。門の前で会った君だよ。名前と呼んでほしいあだ名を言ってね。」

不気味な笑顔で先生は言った。

「僕の名前はオサムです。オサムって呼んでください」

「拍手!!」

そのあともクラスメイト達が自己紹介していった。

隣にいたレイナをみるとどこか退屈そうにしていた。

クラスメイトの自己紹介がレイナ以外終わり最後に彼女の番が回ってきた。

「レイナって言います。あだ名は何でもいいです。」

ヒロシ先生は彼女の後だけ拍手を求めなかった。


「よし、全員終わったな。」

ヒロシ先生はそう言うと学校で何をするか説明を始めた。

「君たちが今日入学したこの学校で君たちには、狩りの仕方、大人としての心構えを学んでもらいます。君たちがこれから大きくなって親になり皆さんの両親のように立派な鳥になれるように授業していきます。」

僕は先生の話を真面目に聞いていた。多少退屈であったが、聞かない理由もなかった。

ふと、隣のレイナが目に入った。

窓から入ってくる風で羽がなびき、彼女も気持ちよさそうに風に吹かれていた。

先生の退屈な話が幾分か続いたがそれ以外にすることもないので仕方なく話を聞くことにした。

学校についての説明が終わり、今日は寮まで帰ることになった。

先生は教室を出ようとするときレイナをもう一度見た。彼が振り向いたのは一瞬だったがそれは軽蔑の目に見えた。

「レイナ、終わったよ。寮に移動だってよ」

「うん。聞いてたよ。もう少しだけ空を見たら行く。」

僕は、先生に怒られたくなかったのでレイナを待たず、教室を後にして寮に向かった。


寮に着くと、寮母さんが出迎えてくれていた。

「いらっしゃい新入生たち。オスの部屋は二階、メスは一階だよ。」

「分かりました。」

元気な鳥たちのグループたちが大きな声で答え、ほかは静かに頷いた。

階段を上がろうとしたとき、後ろから声が聞こえた。振り返ると、紺色の翼が生えた鳥が話しかけてきた。


「君は、あの派手な色の鳥と友達なのか?」

「まぁそうかな。今日会ったばっかりだけど。」

「あいつには気をつけろ。人生を狂わされるぞ。」

嫉妬で言っているのかと思ったが、彼は真剣に言っているようだった。

「なんで。彼女と何かあったのか。」

「いや、初対面どころか直接喋ったことはない。しゃべりたいとも思わない。まぁ。気をつけろよ」

彼はそう言って階段を昇っていった。

僕は、階段の前で唖然としていた。彼はなぜあんなことを言ったんだ?

そんなことを考えていると、レイナが遅れてやってきた。

「何をしてるの?」

「少し考え事をしてただけだよ」

さっきのこと、今は忘れよう。態度に出ないように。

「どうかしたの。顔色が悪いよ。」

「いや気のせいだよ。また明日。」

僕は逃げるように階段を上がり、部屋に入った。

僕は荷物を床に置き、寝床に横になった。

数分経って、夜ご飯を食堂で食べるようにと呼びかけがあったが、食事をとる気になれなかったのでそのまま寝続けることにした。


起きると、太陽が出かかってはいるが、完全に明るくはなってはいなかった。

朝食までまだ時間があったので、外に出ることにした。

部屋を出て、階段を降りると、寮母さんが朝から掃除していた。

「おはようございます。」

「おはよう。朝早いわね」

「昨日、早くに寝たので。」

「君、昨日、夜ご飯食べてなかったでしょ。」

「体調が優れなくて、でも、もう大丈夫そうです。」

「慣れない環境だろうから、最初のうちはみんな体調を崩しがちなのよ。気を付けてね」

「わかりました。」

そう言って、僕は玄関を出た。

そういえば、寮の説明の時に水飲み場が近くにあると言っていたことを思い出した。

玄関から二分ほど行くと大きな池があり、水飲み場という看板があった。

水面に近づくと、反射する自分の姿が見えた。まだ、周りは暗かったので自分が何色なのか判別できなかった。ただ、レイナのような鮮やかな羽ではないことは確かだった。羽を見ると昨日のことを思い出しざるを得ない。彼女は確かに、クラスの中に溶け込めていなかった。だから、といって彼のあそこまでの嫌悪感は理解できるものではなかった。

心の中に靄が残ったまま、部屋に帰った。

部屋につくと、ちょうど朝食の時間が始まり、僕も食堂に向かった。


食堂に着くと、長い机がいくつか並んでいて、どこに座ろうか迷っていると羽を振って僕のことを呼んでいる。

「こっち空いてるよ。」

レイナはやはり目立っていた。

席に座る前に食事を受け取り席についた。

「待っててくれたの?」

「私も今来たばっかりだったし、一緒に食べた方が楽しいでしょ。」

「ありがとう。」

僕は、卒なく答えながらも、彼女について考えていた。

「私のこと嫌い?」

レイナの顔は曇らせ言った。

「何で?なんか気に障ることしたかな?」

「いや、でも楽しくなさそうだった。」

「そんなことはないよ、でもある鳥に言われたんだ。レイナに気を付けろって。」

「黒っぽい羽根の子でしょ。」

「何で分かるの?何か言われた?」

「いや、でもあの手の鳥には嫌われてきたからさ。」

僕は、気の利いた返しを考えたが、全く出てこなかった。ただ、一言。

「僕は、君のこと大事な友達だと思ってる。」

「あって間もないのに凄い自信ね。」

レイナは半笑いで言った。

確かに、彼女の言う通り、出会って間もない。でも、彼女は僕の今後の人生に大きな影響を与えてくれる気がした。

ご飯を食べ終わり、レイナと別れ部屋に帰った。授業がすぐ始まるので、支度をして教室に向かった。


教室に着くと、昨日の彼が先について準備を終えていた。

「早いんだね。」

僕はあえて横に座ることにした。

「君か。相変わらず、彼女とつるんでるな。朝、食堂で見たよ。」

彼の挑発的な発言は無視することにした。ケンカしたくないのもあったが、今のままだとこいつに言い負かされそうな気がしたからだ。

「そういえば、名前を聞いてなかったね。僕はヒデオだ。」

「ケンタロウだ。」

「君はいかにも真面目君だな。」

少しケンカを吹っかけてみる。

「当たり前だろ。お前は何のために来ているんだ。僕はここに立派な鳥になるために来ている。早く立派になって、、、」

彼は口ごもった。

「立派になってなんなんだ?」

「お前にいう必要ないだろ。」

そういうと、何匹かクラスメイトが入ってきて、騒がしくなったので話が途切れた。

何分かすると、レイナが教室に入ってきた。僕は振り返って、目を合わせたが、彼女はヒデオの近くには行きたくなさそうで、窓に一番近い場所に行った。

さっきの話の続きをしようと話しかけた瞬間、教室に先生が入ってきた。

「おはよう。」

「おはようございます。」

ほぼ同時にほとんどの鳥が返事した。

「いい元気だ。今日は初めての授業をする。君たちには昨日も話したが、狩りの仕方、立派な成鳥になるための心構えを学んでもらう。」

そして初めての授業が始まった。まず、狩りの基本を先生が教え始めた。

「君たちには、捕まえた鳥をどう弱らせるか学んでもらう。」

長々と先生はしゃべりだしたが、くちばしで獲物を捕まえ振り回すことで戦意をそぐのが効率がいいようだ。

「この後の時間では、実際に君たちに今の授業で習ったことをやってもらう。」

どうやら、先生が教室で喋ったあと、実技の授業を行うという形式で進んでいくようだ。この形式で授業がこれからも行われた。レイナは退屈そうだったが、授業には毎日来ていた。ケンタロウは相変わらず前の方の席で授業を受け、出来が良かったので実技では見本として先生に指名された。あの日までは、全員が楽しいわけではないが平和な日常が続いた。あの日までは。


その日は、今まで習ったことを試すテストの日だった。テストの内容は獲物を上空から発見し、くちばしで突く、弱った獲物をくちばしで捕まえ振り回す。戦意が無くなったとこを捕食するというものだった。各々の項目は授業でやったが、一連の流れでやるのは初めてだった。先生が順番に指名して一羽ずつテストしていく形式で行われた。まず、ケンタロウが指名された。僕は彼のテストを見ながらイメージトレーニングをすることにした。ケンタロウは開始の合図とともに素早く飛び出し、即座に獲物を発見した。そして、まるで手本のように授業で習った通りの工程で流れるように捕食した。

「みんなケンタロウのは手本になる。あれを目指せ。」

僕は彼の後にテストを行っていくクラスメイトを見ながら緊張を押し殺して、必死に授業で習ったことを思い出していた。そして、僕の番が回ってきた。

緊張しながらも授業で習ったことを思い出し、最初に獲物を見つけるのに苦労したところ以外は卒なくこなした。みんなのところに戻ってくるとケンタロウが近づいてきた。

「悪くなかったぞ。」

「ありがとう。」

彼とそれ以上話すこともなかったので離れてほかの鳥たちのテストを見ることにした。大きなミスなくほかの鳥たちもテストをこなし、最後にレイナの番が回ってきた。彼女はゆったりと飛びながら獲物を定めた。次の瞬間、素早く獲物を目掛けて着地し、小動物を蹴り上げた。そのまま空中の動物をくちばしでキャッチし食べた。捕食までのスピードはケンタロウより速く、獲物のサイズも一番大きかった。私は感心していたが、先生は血相を変えて言った。

「帰ったら反省会をします。皆さんは先に教室に帰ってください。」

レイナの番までおだやかだった先生が急に態度が変わったのでクラスメイト達も騒然としていた。


教室に帰ると、ケンタロウが話しかけてきた。

「あいつはやりすぎた。」

僕は何の事か分からなかったので質問した。

「どういうこと?」

「学校はあくまで、教科書的な狩りのやり方を教える場所だ。授業も真面目に聞かないやつが得意げに我流を披露する場所じゃない。これは嵐になるぞ。」

僕は反論しようとしたがちょうど先生が入ってきた。教壇につき先生が話し始めた。

「今日のテスト、皆さん良かった。ただ、レイナ。君は不合格だ。君は明らかに周りの鳥たちに悪影響を与えている。君は今日のテストで授業で習ったことを何一つ使わずに捕食した。確かに見事だった。だがな、君を見たクラスメイトはどう思うか分かるか?自分も特別な誰かになれると思う。だが、現実はそんなに甘くない。そんな鳥から死んでいくのが現実なんだ。君は好き勝手して楽しいかもしれないが、はっきり言って迷惑だ。態度を改める気がないならやめてもらう。」

あまりの辛辣な言葉に僕は開いた口が塞がらなかった。僕は恐る恐る彼女の方に振り返った。彼女は口を開かなかったが、覚悟が決まった顔をしてるように見えた。彼女は、おもむろに立ち上った。

「ありがとうございました。」

彼女は今まで見たことないような笑顔で教室を出ていった。

先生も少し動揺していたが、授業を再開した。


授業が終わり、寮に帰る途中レイナが空を自由に飛んでいた。先ほど降っていた雨は完全に止み、日差しが照り付けていた。

「本当にあれでよかったの?」

僕は彼女の笑顔が本物の笑顔だったのか知りたかった。あんなにひどいことを公衆の面前で言われて笑顔だったのが気にかかっていたからだ。

「何が?」

「学校辞めるんでしょ。」

「うん。」

「今なら、まだ戻れるかもしれないよ。」

「ううん。決心がついた。」

「そっか。」

僕が上手く会話を繋げられずにいると彼女が僕の目の前に止まって言った。

「私こう見えて、先生には感謝してるの。昔から、みんなと同じことができないのに家ではユニークで良いって褒められてきた。外では煙たがれるけど、家では褒められる。そのギャップで私は自分がどう生きるべきか分からなくなっていた。でも、学校に入って教科書通りの生き方はできないことを確信したわ。」

「これからどうするの。」

「決めてない。だって、そういう人生を選んだから。」

「ありがとう今まで。僕はレイナを忘れることはないよ。」

「あなたは変ね。そんな羽の色して。」

「僕は僕だからね。」

彼女は微笑むとまた空を飛び始めた。不思議と彼女の飛んだところに虹がかかり、幻想的な空間を創り出していた。


僕が寮に帰ると、ケンタロウが話しかけてきた。

「やっぱりこうなったね。」

僕は彼のすかした態度が気に食わなかった。

「お前は、クラスメイトを憐れむ気持ちはないのか。学校を辞めさせられたんだぞ。」

「無いね、全く。君だって、あれで良かったと思っているんじゃないか?」

図星を指された僕は答えるのに躊躇した。彼は追い打ちを掛けるように話し始めた。

「あいつは子どもだった。だから追い出された。それだけだよ。」

「あいつの羽が黒くないから子どもだって言ってるのか?」

「あれは彼女の心の表れだよ。自分は特別だ他とは違う。そういう幻想に取りつかれてるんだ。今日のテストだってそうだ。」

「そういう君は大人にならなきゃいけないっていう固定観念に囚われてるんじゃないか。自分が何色なのか自分では見えない。所詮、自分の羽が何色かなんて言うのは他からの評価でしかない。僕は本当にくだらないことだと思うね。」

「綺麗事だな。君は自分で餌を取ってこないと、今日食べるものがない経験をしたことがあるのか?味のしない骨を泣きながらしゃぶったことはあるのか?」

「ないよ。」

「だからそんなことが言えるんだ。」

僕は、言い返す言葉がなかった。彼の出自について僕はよく知らなかったし、そこを突っ込んでも話は平行線だと思った。だが、最後に彼に言いたいことが一つだけあった。

「君は心まで黒くなっていないんじゃないか。ほかの鳥が君のことをどれだけ大人だと思おうと僕はそうは思わない。君の中には大きな情熱があると思う。」

「分かったようなこと言うな。」

彼はそそくさと部屋に帰っていた。僕も部屋に帰ることにした。


あの日から彼女は学校に来なくなった。先生も彼女の点呼を取らなくなった。僕は、あの日以来ケンタロウとも距離を取っていた。レイナがいなくなってからの日常は意外と今までと変わらず、何もなかったかのように日々が過ぎていった。学校の授業も真面目に受け、そこそこの成績で最後のテストを終えた。そして、卒業前日ケンタロウが話しかけてきた。

「少し、自分語りをしてもいいか。」

僕は驚いたが無言でうなづいた。

「俺は生まれたころ、派手な羽の色だった。僕は自分の羽を自慢に思っていたし、家族も僕のことを天才だともてはやしてくれた。でも、ある嵐の日、父が雷に打たれて死んだ。その日から生活は一変した。僕は長男だったから。母親が狩りに行くのを手伝って、大きくなったら一人で狩りに行くようになった。ある日、水を飲むために寄った池で自分の羽を見ると黒くなっていた。母親は僕の羽に何も言ってくれなかった。でも、僕は自分の羽の色は気にしないように気にしないように、そう自分に言い聞かせてた。でも、学校には行ってレイナに会うと、苦労もしていないやつが私は可哀そうなんですって顔でのさばっている。そんな彼女を受け入れられなかったんだ。」

彼の話を聞いて今までの彼の態度に合点がいった。

「だから、オサムが僕の心は黒くなって言われて救われたよ。ありがとう。」

彼は半泣きで詰まりながらも言葉を紡いでいた。

「僕は二人とは違う人生を歩んできた。昔から大人になることを強制されてきたわけでもないし、周りから特異な目で見られてきたわけでもない。だから、君とレイナの悩みを100%理解できるわけじゃない。ただ、二人とも自分が何色かにこだわり過ぎだと思う。水面に映る自分の色だって本来の色とは違ってる。他の鳥から見える色だって、僕の本質を表しているとは思えない。心の色はそう簡単に変わらない。僕は、外見なんてどうでもいいと思ってる。自分を構成している要素ではあるかもしれないけど、本質ではない。僕は興味がないよ。自分が何色かにもね。僕の色は僕で決める。」

ケンタロウはただうなずいた。僕たちは無言のまま沈んでいく夕日を見ていた。


そして、卒業式。周りの鳥たちは入学した時と比べ真っ黒になっていた。だが、僕は自分が何色であっても学校に来てよかったと思えた。大事なことに気づけたから。









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