第11話

「京えらいじゃん」


京は郁に靴を履かせていた。それを見ていた父は京を褒めたのだ。


「だって郁は一人でまだ靴履けないんだもん」


「えらいぞ京。お兄ちゃんになってきたな」


「まあね」


京は郁に靴を履かせ、彼女の手を取って一緒に歩き始める。

郁はいっぱい遊んだせいか、疲れ切っており、どうやら歩けないようだ。


「郁。お兄ちゃんがおんぶしてやる」


「あら、京君がおぶってるなんて初めて見た。偉い偉い」


京の母は京の頭をナデナデする。

京は恥ずかしそうに下を向き、郁を車まで運んでいく。


「お兄ちゃん。ありがとう」

郁は寝言のように京の耳元でお礼を告げる。


ダダダダダッ!!


後方から銃声が聞こえてる……!

京は即座に振り返り、銃声の方へ目をやる。

京の目に映ったのは銃に撃たれて倒れている父と母だ。


「はやく……にげ…ろ」


「あ……ああ……」

「パパ!!ママ!!」


おぶっている郁がジタバタ暴れだす!

「い……郁!!逃げるぞ!!」


京の父と母を殺した殺人鬼が銃器に銃弾を詰めながら、京たちの方へ向かってくる!


「うわあああああ!!!」


京は郁を背負いながら懸命に走っていく!!


「パパあああ!?ママあああああ!?」


郁は大声で両親を呼ぶ!!


「誰か!?誰か助けて!!」


ダアアアアアアン!!!


「!!?」


銃声が鳴り響き、上を振り向くと郁の頭から大量に血が流れていることに気づく!


郁は目を開けたまま沈黙している……。


「あははははッ!!」

後ろを振り向くと先ほどの殺人鬼が笑いながらこちらへ向かってきている!


「さあ!逃げなよ!早くさあ!!」


パンッパン!!!


殺人鬼は京の足元に銃を2,3発発砲する!

京は恐怖に駆られ、その場から再び走り出す!!


「なんで…!?なんで!!?」

「おい!!郁!!返事してくれ!!郁!!」


京は懸命に郁の名前を呼びかけるものの、

返事は帰ってこない。


「うう……ううう…誰か…誰か助け……て」


ダアアアアアアン!!!

京は足を撃たれてその場で転げ落ちる!!


「ううぐううう……」


チャキ……


殺人鬼が倒れた京の前に立ち、銃口を向けている。


「君の大切なもの。全部奪っちゃった……けひッ!!」


「あははははッ!!」

「ねね!!どんな気分!?ねええええ!?」

「君のお父さんもお母さんも妹も全部全部僕が殺しちゃったああ!!」

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」

「そして今から君の命を奪う!!」


京はあまりの恐怖と悔しさに涙を流す。

「君の未来を奪って僕は生きる!!そう!!僕は君の未来を奪い取って生き続けるんだ!!!」


「さあ!!死ねよ!!!」

ダダダダダダ!!!!

「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


愛海

「京君!!」


愛海はパニック状態になった京を抱きしめる。


愛海

「お……落ち着いて…落ち着いて京君!!」


「ああああああ……あああ…ああ……」


京は徐々に冷静さを取り戻していく。


「こ……ここは?」


愛海

「落ち着いた……?」


「ゆっ…夢か…」


愛海

「大丈夫?」


「あ…ああ…」


京は悪夢を見ていたことに気づく。

我に返って、辺りを見渡した。


「そうだ……俺はたしか崖から落ちて……」


京はメガネの男に突き落とさたことを思い出す。

そのまま下へ落ちたが、落下した先は川が流れていた。そのまま川に流され、地上へ打ち出された。


愛海が先に意識を取り戻したが、

全身が複雑骨折のため、身動きができなかった。


彼女は何とか虹色の球から万能薬を取り出し、その薬を飲み込んだ。みるみると体が完治していき、彼女は複雑骨折を治して何とか立ち上がった。


それから辺りを見渡すと、すぐ近くに京がいることに気づいた。彼女は京に万能薬を飲ませ、

彼を回復させた。しばらくして京は意識を取り戻し、今に至る。


「よかった愛海さんが無事で」


愛海

「お互い様。本当にもうダメかと思ったよ」


「ここはどこなんだろう……?」


愛海

「わからない。あのメガネの人に突き落とされてから覚えてない」


「突き落とされた?」


愛海

「うん。私が京君を引き上げようとした時、後ろから押されたの」


「マジかよあの野郎……」


愛海

「危うくやられるところだった」


「許せねぇ…今度会ったらぶっ飛ばす!」


愛海

「でも、これからどうしよう…」


愛海は京の袖をギュッと掴む。

京は辺りを見渡すが、目の前には川。後ろには洞窟がある。

京と愛海は洞窟の方へ歩き、手前で立ち止まる。


「前に進むしかないな」


愛海

「……うん」


京たちは洞穴の中へ入っていった。

そして前方は暗闇だ。

暗闇は果てしなく広がっているように見えた。

その先に一点の光さえ見えない。


「足元気を付けて」


京は前へゆっくりと進み、その後ろを愛海がついていく。愛海はグッと京の袖を握る。


途中で愛海が足を崩し倒れる…!


愛海

「わっ!?」


「大丈夫!?」


京は咄嗟に愛海を支え、転倒を防いだ。

しかし、愛海はその場で座り込み、俯く。


愛海

「……なんで私たち…こんなことになっちゃったんだろう」


「どうしたのさ急に?」


愛海

「何で一人しか生き返れないんだろう。何で皆と競わないといけないんだろう」

「私は……どうして…このゲームに……」


愛海の顔がどんどん下がっていく。


「落ち着け愛海さん」

「まだ俺たちは死んじゃいねえ。まだやるべきことがあるはずだ」


「それに俺はもしかしたらと思うんだ」


愛海

「え?」


「実はこのゲーム…一人じゃなくてもう何人か生き残れるんじゃないかと思ってる」


愛海

「…どうしてそう思うの?」


「ここに来て初めに出会った死神がこう言った」「これからの説明を行う死神は一つ嘘をつくって」


京は死神イズとの会話を振り返っていた。

ヨミガエリレイスに参加する前、イズは確かにそのようなことを言っていた。


愛海

「あ……私もそれ聞いたかも」

「私が初めて出会った死神も言っていた。ゲームの説明を行う死神は一つだけ嘘をつくって」


「そうか。俺以外のプレイヤーも死神から同じことを言われてるみたいだな」


「だから俺はその嘘が一人しか生き残れないっていうことなんじゃないかと思っているんだ」

「本当はもう何人か生き返れるんじゃないか?」


愛海

「確かに……確かにそう。その可能性はありそう…」


「だからさ愛海さん。ここから先絶対二人で生き残ろうぜ」


愛海

「そうだよね……。うん。そうだ。ありがとう京君」


「京でいいよ。皆からよく呼び捨てで呼ばれてたんだ」


愛海

「京……うんわかった」

「私も愛海でいいよ。私も下の名前で呼ばれてたんだ」


「じゃあ愛海。これからよろしくな」


愛海

「うん……!これからも先力を合わせよう」


京は手を伸ばし、愛海は京の手を取って立ち上がる。


「この先怖えけど、行ってみるか」


愛海

「うん!」


京と愛海は先の見えない暗闇の先へ進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る