九、ゆかりからの忠告

犬の散歩、と聞いて浮き足立たない訳がない。実のところ、普通の犬は散歩をしない。当然私が散歩という言葉を知ったのはこの家に来てからだ。紫が、なぜ散歩というものをするのかは謎。

「いつ、行くのですか?」

と問うても、

「私の気まぐれよ」

の一言。まあ、気まぐれと言うくらいならば、ハクにとってそこまで重要ではないのだろう。知らないけど。


 お家に着いて、ふんふんと鼻歌まじりに部屋へと向かう。すると、隣の部屋からゆかりがひょこと顔を出した。


 「葵姉あおねえ、どしたの?ご機嫌だねー!」


 「んふ~実はね、紫さんに散歩の同行を許されたのよー。だから今から着替えて行くの!」


 「え、ちょ、まっ....!」


 満面の笑みを浮かべて、部屋に飛び込む。ゆかりが何やら焦ったような声をあげているが、気にしない。私の神経は今着替えを可及的速やかに終わらせることに全集中しているのだから....!


 着替え終わって、がらりと部屋を出ると、ゆかりが強張った顔で仁王立ちをしていた。

 

「えっと....ゆかり?どうしたの....?」


 「葵姉、気をつけて。お母様の『散歩』とは、恐ろしいものよ。散歩に行くということは、酷く叱られるということよ。どうか、あくまでお母様に従順でいてね」

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富士の下で 椛風月 @chiharuochi

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