第七話 一日目の朝 そのに
「あっ、おいしい……」
ホットケーキなんて誰が作ってもそこまで変わりのない食べ物だと思っていたが、ノエルの作ったこのホットケーキはこれまで食べてきたどのホットケーキよりもフワフワとしており、このホットケーキを食べてからは誰が作ってもそこまで変わりのない食べ物だと思うことは出来なくなってしまう。
「本当ですか? ベル様のお口に合われたようでよかったです」
主であるベルの口に合い、ひと安心したのか。ノエルはホッと胸をなでおろすが、ベルは先程の言葉がノエルに聞かれたことが恥ずかしかったのか、顔が赤くなっていくが、それを隠すようにホットケーキを食べていく。
次から次へとホットケーキを食べるベルに思わず嬉しいと思ってしまうノエル。
「他にも、蜂蜜やバニラアイスなどを乗せてもおいしいですよ」
「あ、ありがとう……」
意外にもトッピングが様々あり、アイスを乗せることでアイスの甘さと冷たさがふわふわなホットケーキに加えられ、よりおいしいモノへと変化し、顔がとろけそうになる。
そのうえに蜂蜜をかけることで蜂蜜特有の甘さが加わり。より甘さが増したホットケーキへと進化する。
「ひとえにホットケーキと言っても、いろいろと楽しみ方があるのね」
優雅に食べながら呟くようにそう言うベルにニコリと微笑むノエル。
折角一緒に食事をしているのだからこの際にベルにいろいろと聞いておきたいと思ったノエルは自分の作ったホットケーキを食べながら質問をすることにた。
「あの、昨日仰られたのですが。ベル様は吸血鬼なのですよね?」
「ええ、そうよ」
間髪を入れずに肯定をするベルに思わずキョトンとしてしまうが、ノエルは続けて質問をする。
「それって、あの……伝承とか、童話でよく聞く。あの吸血鬼で間違いないのですか?」
「ええ、そうよ。他にはヴァンパイアやヴァンピーア。ラミア。なんて呼び方もあるわね」
あむりと。ナイフとフォークで、上品にホットケーキを食べながら。先程と同様にノエルの質問に肯定をする。
「なに? あたしの言葉がウソだとでも言いたいわけ?」
「いえ、決してそんなことはないのですが。吸血鬼の伝承の一つに吸血鬼は日の光を浴びたら死ぬとか、日の光の下では生きていけないとかありますよね? それなのにベル様は普通に朝起きて、日の光を浴びているなと思いまして……」
それを聞いて、ベルは心の中で納得をする。
吸血鬼の有名な弱点の一つである日光。
吸血鬼が日光を浴びると、灰になるとも言われているが、ベルは日光を浴びて弱くなるといった様子は見られず。むしろ普通の人間と同じように朝に起きている。ノエルが彼女の今の姿を見て、吸血鬼と聞いてもしっくりこないのは当たり前とも言えた。
「ああ、なるほどね。まぁ、それは王族と貴族の吸血鬼の違いとか、いろいろとあるけど……簡単に言えば、あたしが第一王族であるアステルという家の吸血鬼だからよ」
アステル。
その家名は確かに以前ベルが自分の名を名乗った時に出てきた名だ。
「第一王族ということは、その他にも王族の方がおられるのですか?」
「ええ、吸血鬼の王族は全部で十三の家が存在するわ。それで、王族の吸血鬼は他とは違って、日の光の下でも暮らしても問題ない程、多大で強力な力を持っている吸血鬼なの。だから、あたしは日の光を受けても大丈夫なのよ」
説明に一区切りを付き。ベルは再び、ホットケーキを口に運ぶ。
「なるほど……」
吸血鬼。
それはこれまでのノエルにとっては空想にしか存在しない、怪物でしかなかったが、主であるベルがウソをついている様子が無いことや、事実として、こうして目の前にいる以上。吸血鬼という存在を受け入れるが、その前に一つ。どうしても聞きたいことがあった。
「あの……ベル様は吸血鬼なのですよね?」
「ええ、そうよ。何度も言ってるじゃない」
「でしたら……ベル様は人の血を吸いになられるのですか?」
ノエルがそのように問いを投げてから、ひと時の間。静寂が訪れる。
その静寂はほんの僅かなモノであったのか、それともとても長いモノであったのか……当のノエルですら分からない程のものあったが、ベルはそのようなことを気にせず。この静寂を破壊する。
「ええ、吸うわ」
さも、当然のように。当り前のようにベルは言われ、ノエルは思わず背筋がゾクリとしてしまう。
「そう……ですか……」
「そうよ」
吸血鬼とは文字通り、血を吸う鬼のことを指す言葉だ。
彼女が吸血鬼だというのなら、それは当たり前で。自然の摂理ともいえる。
これまで何をしても、前向きで。怯むことが無かったノエルが顔を俯かせてしまっていることに面白いと思い、ベルはひとつ。ある提案をする。
「ねぇ、そういえば。あたし、ここ最近は血を飲むことが出来ていなかったのよね。あのバカ悪魔のせいで、力も随分弱まってるし。だからさ……アンタの血。飲ませてよ」
吸血鬼のお姫様はさも当たり前のように、人間のメイドにそのようなお願いをした。
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