季節の変わり目なんて。

「この季節、なんだかきらい」


そう言って黒髪を一つ括りにした少女は憂鬱そうに短く嘆息した

酷く気怠げな少女を見てまぁるい瞳をぱちくりと瞬かせる少女は『そぉ?』と口にした


「そうよ、九月に入ったっていうのに、気温は下がらないし、植物も枯れてゆく一方、ジリジリとした日照りなんか肌がうんと焼けて嫌よ」

「相変わらず偏屈な考えだねぇ」

「別にいいでしょ、そういうアンタはどうなのよ」


ん、と肩掛けのスクールバッグから取り出した交換日記を差し出しながら答えれば、目前の金色の髪を揺らした少女は『わたし?』と口にした

少女は少し考え込むような素振りを見せた後、くしゃり、とわらった


「好きだよ、高くのぼったお日様が、わたしたちを優しく照らしてくれるのも、新緑が段々黄色に変わっていって、それがうんと青空に映えるところも、夜になると生温い風が頬を撫でるのも、全部好き」

「・・・アンタってお気楽ね」

「えへへ、ありがと!」

「褒めてるんじゃ無いわよ、貶してんのよ」


そう言いながらも黒髪の少女は優しく瞳を細めて、金色の髪に手を伸ばした


「・・・まぁ、アンタの綺麗な髪が、太陽に照らされて輝いて視えるのは、きらいじゃない」

「あら、突然大胆!」

「うるっさい!蹴り入れるわよ!」


げしり、とローファーで脛付近へ蹴りを入れれば『痛いよぉ』と泣き言が返ってきた。ついでに『あ!あともうひとつ!』という閃きの声と共に


「この季節ってさ、夜、眠る前に鈴虫の音が聴こえるでしょう?」

「聴こえるけど」

「わたし、あの歌声が貴方の凛とした声に似ていて、すきなの」


やさしくって、だからこの季節がすき


そう言って笑う彼女の何と美しいことか。


「・・・勝手に言ってれば」


『ひどぉい!』と言う少女を無視して歩みを進める。真っ赤な顔を見られたくなかったからだ。


秋の生温い風がすこしだけ、頬を撫でた


END

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