第四章 ようこそ、新天地へ

第1話 奴隷から解放された日

 島に上陸した想太達はオーク達の集落とは反対側の開けた場所まで移動する。


『ソウタ、この辺りがいいでしょう』

「うん、分かったよ。『召喚』」


 アツシの言葉に想太が返事をしてから唱える。すると、そこには人族、獣人、エルフにドワーフと多種多様な種族がポツポツと現れる。


「え? ここはどこなの?」

「すみません、すみません……え?」

「やってられるか! って、ここはどこだ?」


 粗末な貫頭衣を着させられ奴隷だと一目で分かる者達がいきなり見知らぬ場所に連れて来られて右往左往している。そこに元獣王のライオが大声で呼び掛ける。


「注目!」

「「「え?」」」

「あれは確かライオ様……」

「そうだ! ライオ様だ!」

「でも、どうして?」


 突然現れた元獣王のライオの声を聞き、獣人達はその姿に見覚えがあったようで、ライオに希望を見出す。だが、他の種族にとってはそのライオに対し不安を覚える。奴隷として使役された場所からこんな身も知らない土地に連れて来られたが、現れた元獣王の姿に『仕える主人が代わるだけか』と落胆する。


 奴隷だった者達が騒つくが、ライオが想太達の前に立ち、話し出す。


「いいか、お前達! 今から、ワシが話すことをちゃんと聞くように!」

「「「ウオォォォ~!」」」

「「「……」」」


 ライオの言葉に獣人達が大声で応え、その他の種族は口を閉ざす。


「まず、一つ目だ。もう、お前達は奴隷ではない!」

「「「え?」」」

「あ、ホントだ。首輪がない……」

「奴隷紋もない……」

「じゃあ、私達は自由なの?」


 ライオの言葉にそれぞれが自分の体や側にいる者の体を確認し合い、奴隷として着けられていた隷属の首輪に奴隷紋が消えていることを確認し、涙しながら側にいる者と抱き合い号泣している。


「二つ目! お前達にはここで生活してもらう!」

「「「……」」」


「三つ目! ここでは種族間での争いを禁止する!」

「「「え?」」」

「「「どういうこと?」」」


 ライオの言葉に獣人優位と思っていた連中が唖然とし、それを聞いていた他種属の連中は不思議がる。


「何か質問はあるか?」

「ライオ様!」

「なんだ? あ、そうだ。ワシに『様』はいらん。もう、ワシは王ではない。単なる一個人として付き合ってくれ」

「いや、でも……」

「今は、立場上としてお前達の面倒を見ているに過ぎない。だから、『ライオ様』ではなく『ライオさん』でお願いする」


 そう言って、ライオが頭を下げるとそれを聞いていた獣人達が慌てる。それもそうだろう。嘗ては獣王として自分達の上に君臨していたライオが自分達の目の前で頭を下げているのだから、慌てるなというのが無理な話だろう。


「ライオ様……いや、ライオさん。分かりました。それで質問なのですが、ここはどこなのでしょうか?」

「すまんが、それはワシにも分からん。ただ、島ということしか分からん」

「そうですか。では、次ですがココで生活するというのはどういうことでしょうか?」

「それは……」


 獣人の男からの質問に対し、ライオが助けを求めるように想太の方をチラリと見る。それを見た想太はヒーロースーツから冒険者風の服装に換装するとライオの横に立つ。


「それは言葉通りの意味です。あなた方元奴隷の人達で助け合って暮らして下さい。足りない物や欲しい物はライオさんに言ってもらえれば、用意します」

「そういうことだ。他は?」


 想太の言葉を引き継ぎ、ライオが他に質問はないかと言えば、人族の男がそろりそろりと手を挙げる。


「お~人族か。なんだ、言ってみろ」

「では、ライオさんとお呼びします」

「おう、いいぞ。で、なんだ?」

「はい。見たところ、獣人だけでなくほぼ全種属の人達がここに呼ばれていると思いますが、どういった基準で呼ばれたのでしょうか?」

「それはだな……」

「それは俺から」


 先程と同じようにライオが想太に助けを求めると想太がそれを引き継ぎ説明する。そして説明が終わると質問した男だけでなく殆どの者が『なるほど』と頷く。


「他は……何かあるか?」

「「「……」」」


「ライオさん、とりあえず今はこんなとこでいいんじゃないかな。それよりもさ食事にした方がいいと思うんだけど」

「それもそうか」


 想太に言われたライオが元奴隷の様子を見ると皆一様に痩せている。誰一人として満足に食事を与えられてはいないようだ。


 想太と朝香は食事が出来る様に竈や焼き台を次々に用意すると食材と包丁や鍋などの調理器具を取り出し、料理が出来る人を募り手伝ってもらいながら食事の準備を始める。

 ある程度の段取りが終わったところで、子供やお年寄りを優先に並んでもらい食事を配る。中には横入りしようとしたり、食事の量に文句を言う輩もいたが、そこはライオの人睨みで終わらせなんとか全ての人に食事が行き渡った頃には日が暮れかけていた。


 想太は国境近くのキャンプ地へと戻る前にライオの元に行く。


「ライオさん、さっき質問してきた人覚えている?」

「ああ、まあな。それがどうした?」

「その人達を補佐として側に置いといた方がいいと思うよ。ライオさん、難しいことは苦手でしょ?」

「……イヤなこと言うな。まあ、でも事実だな。そうだな、分かったよ」

「あとね、出来れば全種族から一人ずつ代表を出してもらって」

「分かった。で、ワシはどこで寝ればいいんだ?」

「どこでって、好きな所で寝ればいいんじゃないの?」

「ん? スマン、もう一度言って貰えるか?」

「だから、どこでも好きな所で寝ればいいじゃない」

「いやいやいや、ちょっと待て! ワシ、王様だぞ?」

「うん、元ね」

「いやいやいや、でももう少しなんとかならんのか?」

「だって、自分でも特別扱いはナシって言ったじゃない。必要な物は言って貰えれば用意するからさ。家が欲しいなら、ちゃんと話し合って作ってね。あ! でも、他の人達も家が出来るまで何もないのは不便だね」

「うんうん、そうだろうそうだろう!」

「じゃあ、コレで……」

「ん?」


 想太はそこに出したのは簡易的なテントを二千組ほど用意すると、その場で一つを取り出し組み立て方を説明する。


「もしかして、これで寝ろ……と?」

「そ! 一人、二人ならこれで十分でしょ。じゃね」

「あ! ちょ……」


 組み立てられたテントを前に呆然とするライオ。


「ワシ、王様なのに……」

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