お姉ちゃんが家にいてくれてよかった。
「お姉ちゃんが家にいてくれてよかった。お墓に埋めたらもう会えないからね。」
ある日、わたしはこんなことを会社帰りの電車の中で手帳に書いた。そしてそれをお姉ちゃんが中で寝ているアクリルケースの横で読み上げた後、切り離してそこの上にそっと置いた。
お姉ちゃんが、家に帰ってきてくれて本当に良かったと思ってる。もしもあのとき、お葬式のあと、普通にお墓に埋めてしまっていたら、わたし、きっと毎日が今よりずっと寂しかったと思う。どんなにお墓にお花を持っていっても、どんなに綺麗に手を合わせても、やっぱりそこは、会話の届かない場所だったと思う。
でも、今は違う。夕方、仕事から帰ってシャワーを浴びて、夕飯を済ませたあと、わたしはお姉ちゃんの部屋に行って、ガラスのケース越しに、ただいまって言う。そして、そのまま今日あったことをぽつぽつと話す。仕事の愚痴も、街で見かけた変な人の話も、ドーナツ屋さんの新作のことも。お姉ちゃんは静かに聞いてくれてる。返事はないけれど、わたしにはちゃんと伝わっているって、わかるんだよ。
きっと、お墓の下だったら、こんなふうには話せなかったと思う。わたしがどんなに声をかけても、ただ風が吹くだけだったと思う。季節が変わっても、雨が降っても、そこにあるのは芝生の上に並んでいる冷たい石だけだったと思う。
でも、お姉ちゃんは今もここにいてくれてる。わたしのすぐそばに。あのとき、お姉ちゃん本人の後押しも合ったけど、勇気を出してあのプランを選んでよかった。あの選択がなければ、こんなふうに「日常の中にいるお姉ちゃん」と過ごすことはできなかった。だから、わたしは今日も話しかけるよ。小さな声で、でも確かに。
「お姉ちゃん、おやすみ。明日もがんばってくるね」
もしお姉ちゃんともう一度地下鉄に乗ってデートできたら 数金都夢(Hugo)Kirara3500 @kirara3500
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