第二話
「
「「はっ」」
大人しく跪く二人に、首相はイライラしたように爪を噛みながら言った。
「お前たちを投入する時間は、
「「はっ」」
“ある程度の情報”というわかりにくいニュアンス。しかし、二人がそれを質問することは許されない。首相の意図を読み取って、その期待に答えなければならない。失敗は、文字通り命を失うことを意味する時もある。
「……内部は不明だ。武器等の支給は、いつも通りない予定だ」
「はっ。ドローンの防衛のため、
「
そんな言葉を受けて、二人は頭を下げて姿を消した。
二人が消えたのを見た首相が、ふん、と鼻を鳴らし、いやらしく笑う。
「今に見てろ。橋山。お前は実力でその座についたんじゃない。この儂のおかげだからな」
そう言って首相が窓から見下ろすダンジョンの下には、少し距離をとって報道のカメラが並んでいる。二人にとって、カメラに映らないように動くことなど容易なことだ。首相は心配など一切せず、顎に生やした髭を軽く撫でたのだった。
————午前二時
闇世に紛れ、真っ黒い服を着た二人が現れた。ライブ配信している報道のカメラが定点に設置されているが、カメラマンの姿はほとんど消えた。
一瞬、カメラの前に風に吹かれた葉が落ちた。その次の瞬間には、二人はダンジョン内に侵入していたのだった。
真っ黒の壁。真っ黒の道。二人が最初に見たのは、そんな黒い世界だった。夜目の効く二人が、辺りを確認しながら、道なりに曲がったり、真っ直ぐに向かったり、奥に進む。特に何の気配もなく、ドローンを堤から取り出し、即座に作動させる。もう、地上の音は聞こえず、どんな高性能なカメラでも二人の姿を映せないと判断した二人は、ドローンの視界を確保するため、持参したライトを点灯させた。そして、空気濃度や成分、そのほか調査キットを取り出し、検査する。問題ないと判断し、ダンジョンの壁にそのデータをシールで貼り付けた。帰りに回収する予定だ。
その次の瞬間、一夜が二夜の後ろに攻撃する。気配も音もなく、二人と一定の距離をとって浮遊する球体を発見したのだ。ここまでの間、警戒していたはずの二人が一切気が付かなかった。そのことに驚いたように、二人は全力で攻撃を加えたが、壊れることはなかった。小さくカチ、と音を立てたが、爆発することもなく、静かに浮遊している。
今まで、素手で多くの物を壊してきた二人に、壊せない物があることに動揺が走る。一度、二人は視線を合わせると、瞬時に飛んで、背中を合わせて手裏剣を構える。何個か投げつけ、的確な位置にかなりの衝撃を与えたはずだが、キンキンと甲高い音が響き、たまにカチカチと音を立てるのみで、何も起こらなかった。しばらく二人は警戒したまま時を止める。球体の動きを見るためだ。
結局、二人が止まっている間には、何事も起こらず、一人ずつ順番に気を抜いて見せたり、思いつく限りの確認をしたものの、球体は二人から一定の距離をとって浮遊するのみで、何事も起こらなかった。この場で留まるわけにも戻るわけにもいかず、害はなさそうだし、対処できるだろうと判断し、二人は先に進むことを決意した。そして、視線を合わせて小さく頷き合った。
その様子を追跡機能をオンにしたドローンは写し、通信成功のライトを輝かせていた。
「おい! なんだ! 一夜も二夜も、全然ドローンの映像を送ってこないじゃないか!?」
首相が手に持った茶のみをカーペットに投げつけ、秘書が慌てて広い片付ける。
「しかし、通信は享受していて、なんの故障もないのですが、映像が流れないのです……」
ドローンの映像再生を任された職員が困ったようにいろいろと触る。しかし、うまく動かずに、ただただ黒い無音の映像が流れるだけだったのだ。
SHINOBI〜人ならざるもの〜暗殺兵器として首相官邸で飼われていましたが、突然ダンジョンが現れ、ダンジョンに実験台として投入されました。兄弟たちと配信始めます(のんびり更新) 碧井 汐桜香 @aoi-oukai
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