イチゴミルクのポップコーンを求めて
こんばんは、君は映画が好きかい?
僕は好きだよ。特に映画館で観る映画は最高だ。
これはね、僕が映画館で体験した話なんだけど、ミニシアターって知ってるかな?
大手とは違った魅力があって、有名どころの作品だけじゃなく、マイナーな映画も上映してくれるんだ。思いがけない作品に出会えることもあって楽しいよ。
僕の町の映画館では、高校生や大学生、地元の人たちが撮影した映画なんかも上映してくれるんだ。
あれは、暑い夏の夜だった。仕事で嫌なことがあって、朝まで飲むつもりで外をぶらついていたんだ。次はどこにしようかなと歩いていると、たまたま映画館の前を通り過ぎた。 いつもなら深夜に営業することはないのに、その日は特別みたいだった。
なんと、深夜営業をしていたんだ。これはいいと僕は映画館に入った。 館内には僕以外の客はいなかった。店員がカウンターにポツンと立っているだけ。外には僕と同じように出歩いている人がちらほらいたけど、映画を見ようなんて物好きはいなかったみたいだ。
僕はもしかしたら、一人貸し切り状態で映画を観られるんじゃないかと思って、一番上映時間が近い映画を選び、チケットを購入した。 その時の店員の態度といったら、冷たいものだったよ。昼間はあんなにニコニコしているのに、その日は事務的で、まるでロボットみたいな流れ作業だった。まあ、こんな時間に働かなきゃいけないのも気の毒だしと文句は言わなかったけどさ。
席表をみると思った通りガラガラだった。というか、僕以外客はいなかったね。 お腹も減っていたから、ポップコーンを買うことにした。ちょうど期間限定のイチゴミルク味があったんだ。一つ食べてみたら、甘酸っぱくておいしかったよ。
上映時間になったから、座席に着いた。場所はど真ん中。スクリーンが目の前に広がって、これを独占していると思うと、なんだかワクワクしたね。
時間になると、すぐに映画が始まった。 スクリーンに映し出されたのは、映画館の座席だった。中央にポツンと座る人が一人。ぞわっとしたね。なんたって、今の僕と同じシチュエーションだからさ。思わず横を見ちゃったよ。もちろん、誰もいなくてそんな影もなかったけど。 スクリーンの中の中央の人物も、きょろきょろしていた。
でも、僕は違和感を覚えたんだ。この景色、知ってる。というか、この映画館とそっくりじゃないか。
――まさか、ここで撮ったのか?
そんなことを思いながらスクリーンを見ていると、中央の人物が後ろを振り返った。 その顔を見て、僕は驚いたよ。だって、僕だったんだから。
スクリーンの中の僕は急に席を立ち、まるで何かに惹かれるようにスクリーンへ向かって歩き出した。そして、画面から姿を消した。 その後はずっと、誰もいない座席の映像が流れ続けるだけだった。
――いったい、僕は何を見たのだろう?
僕は好奇心を抑えきれなくなり、席を立った。普段なら立ち入ることのないステージに向かい、スクリーンをそっと触った。
すると——まるで水に手をつけ込んだように、すっと、抵抗なく沈んでいくんだ。
このまま進めば、僕は映画の中に入る。 そう思った時には、もう腕までスクリーンに飲み込まれていた。 そして、僕は映画の中へ入った。
スクリーンの中は……無人の映画館だった。しかも、スクリーンに映っているのも映画館。
僕は唖然としたね。 スクリーンの僕はポップコーンをこぼしていた。でも、そのポップコーンに違和感があったんだ。黒かったんだ。ふと手元を見ると、僕のポップコーンは茶色に変色していて、一つ食べると、口の中にキャラメル味が広がったんだ。
怖くなって僕は映画館を出ようと入口に向かったけど、ドアに手をかけたところで気づいたんだ。
――ここは元の世界じゃない。
そっくりだけど、スクリーンの世界なんだよ。 僕は落ちたポップコーンを拾い、もう一度スクリーンに手を入れた。通り抜けられる。 でも、その先も僕の世界じゃなかった。ポップコーンは黒ゴマ味になっていた。 スクリーンを見ると、そこには紫色ポップコーンを持つ僕の姿が映っていた。
――僕は…僕と入れ替わっている?
何度も何度も同じことを繰り返した。いったい何個のスクリーンを抜けたのだろう? イチゴミルクポップコーンを持つ僕に会えない、元の世界へ戻れなくなってしまったんだ。
そう、僕は違う世界から来た住人なんだよ。
今も、僕はあの映画館に通ってスクリーンを通り抜け続けている。 イチゴミルクのポップコーンを手に入れるまで、何度でもね。
もし、君が持っているものが突然変わった時は、注意してね。 もしかしたら、本当の世界とは別の世界へ行っているのかもしれないから——。
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