くしゃみおじさん
ハッ、ハッ……ハックショーン!!
ああ、すまない。この時期になると、どうもくしゃみが止まらなくてね。そうだ、ちょうどいいや。君は「くしゃみおじさん」の話を知っているかい?
夜中になると、遠くの方からくしゃみの音が聞こえてくるんだ。それも何度も。最初はただ鼻炎持ちのおじさんが深夜徘徊してるだけなんじゃないかってみんな笑ってたんだけど……いや、最後まで聞いてくれると嬉しい。
このおじさんのくしゃみなんだけどね、一定の間隔で聞こえるんだ。そして、それがだんだんと家に近づいてくる。音が大きくなってくるんだよ。僕の友人もこの「くしゃみおじさん」に会ったことがあるんだ。
友人が言うには、毎晩のように夜中の2時になると北の方から聞こえるらしい。結構すごい音でね、夜中に起こされるのが続いて、本当に困ってたんだ。とうとう我慢の限界を迎えて、ある夜こう決心したらしい。「今度家の前でくしゃみをしたら、その顔を見て文句を言ってやる!」ってね。
その日の夜、彼は寝ずに待っていたそうだ。起きていることを気取られないように、家中の電気を消して真っ暗にしてね。それで、窓から外の様子をじっと伺っていたらしい。
そして、2時ちょうどになると、いつもの方角からくしゃみが聞こえてきたんだ。
ハックション!
ハックション!!
そのくしゃみの間隔が、まるで一軒一軒家を訪ねるように響いてくるんだよ。音はだんだん近づいてきて、隣の家の前で止まった。
次は俺の家だ……
友人はそう意気込んだらしい。けれど、不思議なことに、その次のくしゃみは一向に聞こえなかったんだ。いくら待っても、玄関前を誰かが通った気配もない。
今日は来ないのか?
そう思って窓から外を確認しようとしたら、暗すぎて何も見えなかったらしい。でも、さすがに玄関を開ける勇気もなかったみたいでね、代わりにインターフォンのカメラを使うことにしたんだ。
カメラのボタンを押してモニターを見てみた。最初は何もおかしなところはなかった。ただの静かな夜の風景が映っていたらしい。
だけど、次の瞬間――画面いっぱいに目玉が映し出されたんだ。
その目玉は、ぎょろぎょろと動きながらモニター越しに友人をじっと見つめていた。慌ててカメラを消そうと何度もボタンを押したけど、どうしても消えなかったらしい。
その時だ。
ピンポン!ピンポン!ピンポン!
ピンポン!ピンポン!ピンポン!
チャイムが連打され始めたんだ。
ドンドンドン! ドンドンドン!!
ドンドンドン! ドンドンドン!!
次は玄関ドアを激しく叩く音だ。友人は怖くてたまらなくなり、警察に電話をかけようと携帯を手に取ったんだけど……携帯は圏外になっていて、全くつながらなかったらしい。
それどころか、今度は携帯の画面に勝手に数字が入力され始めたんだ。
「36363636364」って数字がね。取り消そうとしても、携帯が勝手に電話をかけ始めたらしい。
ビデオ通話に切り替わり、モニターと同じ目玉が映ったんだ。
「「開けろ! 開けろ!」」
電話からの声と、外から聞こえる声が重なって響いた時点で、友人は恐怖の限界だったそうだ。彼は布団に包まって、朝が来るのをただひたすら待った。それでも、その音は一晩中やむことがなかったらしい。
……おじさんって一体何者なのか? 僕も会ったことがないから分からないけど、友人はその話を一度したきり、もう触れたくないってさ。
もし君が気になるなら、確かめてみるといいよ。ほら、静かに耳を澄ませてごらん――遠くからくしゃみの音が聞こえないかい?
…クション
ハックション!!
ハックション!!!
――次は、この家の前みたいだね。
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