転生というか、合成?

 日本からイギリスに着くまでに掛かった時間は半日くらい。日本の午後くらいまでは優雅にディナー(パンとヨーグルトと水)を堪能していた俺だったが、四時間目に差し掛かったことであえなく撃沈。ぼさぼさヘアーでテンション爆上がりだった俺はさぞ気持ち悪かったことだろう。申し訳ない。


 しかし、起きたころには時差ボケへの憂鬱でか『おそらきれい』くらいしか伝えられる情報がなかったのも仕方がない。


 空港に着けば真夜中。柄にもなく母国に定期連絡を入れたのはそれ以外することがなかったからだ。


 そして今、俺はホームステイ先に挨拶という名の公開処刑(会員限定二名様)を執り行う。え?何をしているのかって…



 …未だ勇気が出ずに玄関の前をうろちょろしているのだ!


 すると、日本の庭園とはまた違った美しさの庭から、一人のおば様(雰囲気的にこう表現するしかない)が現れた‼


 とっさにこの家の主がこの人だと悟った俺は、素早くコメントを打つガチ恋勢が如く、手を頭の後ろで組んだ。


〈こ、こんにちは〉

〈あら、貴方が私達の家で暮らす言っていた日本の方かしら?〉

〈へ?よ、くわかりました、ね〉

〈日本人はわかりやすいわよ、顔は韓国や中国人と比べたらわからないけど。〉

〈は、い。私の名前、は、時島 若、 といいます。よろしくお願いします!〉

〈はい…中でうちの主人が待っているから、中へお上がり?〉


 そう言って俺は家の中へ上がった。庭は見渡せばわかるのだが、一軒家の中は予想以上に広く豪華であり、確かにこんな広い家の中ならうっさい外国人(本人は当然含まれている)が居ても大丈夫だわーと感心した。


 移動中にマダム(しっくりくる呼び方探し中)が話しかけてくる。


〈もっと堂々としてもいいのよ?これから一か月間、私たちは家族なんだから。まあ、その為にこれから話し合いをするわけなんだけれども。〉


 今の俺は随分と弱弱しく見えるらしい。まったく、こんなにもできる人オーラが漏れ出ているというのに…(足ガタガタ・顔下向き・心メラメラ)


 リビングに入ると随分彫りの深いオッサンがソファーに座っていた。じっとこちらを見つめてくる。どうやら、俺が部屋でだらだらするためには、このオッサンを攻略(意味深)しなければいけないようだ。BLは勘弁よ?…



 それから一週間が経ったころ、なんやかんや俺はこの国での生活にも慣れてきていた。新しい環境や、ネイティブ英語を学ぶという表向きの理由があるため、おしどり夫婦にも、語学学校のみんなとも、日本での十倍くらいは話すことが出来ていた。(彼が日本で家族以外の人と話していた時間は、同年代の平均の約二十分の一である)


 そんな俺は、学校が休日である今日、バーナードさん夫婦に誘われて森へハイキングに行くことになった。かなり深く、道から逸れて歩けば行方不明になってもおかしくないと笑われた。笑いごとやないんとちゃいます?


 その後、道沿いを進んでいた三人(ラッブラブな二人組と、イマジナリーフレンドと楽しくおしゃべりしている、冷静に考えれば一人)は、途中で食事を摂りにレストランに入ったりしたが、仲良く歩いていた。


 しかし、家を出発して四時間が過ぎたころ、バーナード夫婦の妻の方が疲れてしまったようで、二時間後に出口付近で待ち合わせることになった。二人はその場で休んでいるようだったが、俺はもう少し歩いていることにした。



 そこからまた一時間が経っただろうか、日本のコメへの思いを馳せながら、もう戻るかなと考えていると、ふと道の奥から複数の物音と草が擦る音…?そして話し声らしきものが聞こえた。


 少しだけ…ほんの少しだけ興味がわいた俺は、しゃがんで物音が聞こえる方へと近づいて行った。いや、行ってしまった。


 すると、獣の唸る威嚇?のようなものが聞こえてきた。そこで最初に目にしたのは、小さい、けれども美しい灰色の毛を持った狼だった。


 しかし、いくら近づいても狼は此方に気づかない。むしろ、もっとおぞましいものに対して注意を向けているような様子だった。


 訳が分からず、狼の威嚇している方へ草をかき分けて進む。その際に、流石に狼くんには見つかったが、後ろから嚙みつかれたり、威嚇されたりすることはなかった。随分俺は狼に懐かれやすいようだ。中二病かな?


 物音や話し声が聞こえた方を見ると、想像以上に胸糞の悪いものが見えた。まず見えるのは、二人のスコップを持った男だ。しかし、その足元には、巻かれたブルーシートがある。



・明らかにおかしい腐敗臭

・半分以上シートにかけられた砂

・ブルーシートに付いている尋常ではない黒いシミ

・二人組の片方が腰につけているブツ(拳銃)

・狼の様子


 ここから察するに、あのブルーシートの中身は何かの動物の死骸、高確率で人間のものが入っているのだろう。


 俺は夢でも見ているのだろうか?ドッキリの類か?ここらで行方不明になったという情報は、近くに住んでいるわけではないが聞いていない。


〈ど   ?こ  ま と俺た サツ  まっ  うんじ ねえか?〉

〈落ち  。 から その計  ろ?  せ見  りやしないよ。〉

〈なあ、  らでも  し 方がい  じゃ  かな? い聞  んのか⁉︎〉

〈待 、何かあ こ  え いか?〉

〈  ?〉


 少し草むらから顔を出していた俺だったが、急いで中に潜る。


 見つかった!しかし…




 …見つかったのは俺ではなく、お隣の狼さんの方らしい。


 二人組が近づいてくる。全力で息を殺す。


 ふと、狼の足元に、スマホが落ちていた、あれは俺の?ーー


 すぐさま片方が俺の方を見た。隠れられないと悟った俺は、震える足で走り出す。ちょうど、小さい狼も俺の後ろ側で素早く動き出す。


〈逃すな!お前も銃を出せ!〉

〈クソッタレの日本人が!〉


 数発の銃声、大丈夫かと思ったが、片足を撃ち抜かれていた。痛いというより、熱い。何かが足からこぼれ落ちるようなものを感じながらも、俺は木の後ろ側へと逃げようとした。




 しかし、しゃがみながら反対を見ると、先程の狼が二発ほど弾丸を受けて倒れているのを見た。


 あの灰色な毛が真っ赤に染まっている。それを見て、俺はただ止まっていた。


 続く銃声。今度は腹に一発受けた。幸運なのか、悪運なのか、即死ではないようだった。


 しかし、俺はこの狼に、あやまることさえできn


 …そこで、身体に力が入らなくなり、狼に覆い被さるようにして俺の意識は絶えた。



 目を覚ます、おはよう!地球よ!


 知らない天井だ…とかやりたかったが、青空ならば仕方がない。そう考えて起き上がると、なんという解放感なのでしょうか!これは…


 あれ?俺服着てなくない?というか、死んでない?今更幽霊にでもなって風を感じてるの?


 混乱して自分の体を見る。…と


 撃たれた傷は一つもなかった。そして…男の証も見事になかった。


 代わりに、つま先は問題なく見えるほどの胸と、灰色な尻尾、灰色で長い髪に、髪の上には猫?動物のような耳があるっぽい。


 なるほど、TSか。













 じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎



 お昼時だと思う。頑張って尻尾は隠せるようになった。耳は人間のに変えられるようになった。今助かっているのは、トイレへまだ行かなくても大丈夫だという点だ。


 見る限り、前まで居た森と同じようで、歩いていれば街へと着きそうだ。


 ワーウルフとか、人狼とか、猫耳とか、そこら辺の化け物の類に俺…げふんげふん、私はなってしまったようである。慣れてきてはいるが、まだ気を抜くと尻尾が出る。修行が足りないようだ…


 こう言ってわかる通り、今の俺?私にとってはどう考えてもあの獣人っぽいのが素の姿のようだ。


 頑張れば今の逆で完全動物形態なんかにもなれそう。


 今自分がどんな見た目なのか、正確にはわからないが、尻尾の美しい灰色からして、先程の狼の物だろう。顔は見れるわけないだろ、アホか。


 どうやら私は、狼の彼女(状況的に見てメス)から、命を貰い受けたようだ。


 とは言ったものの、自分の中にもう一つ誰かの意識があるのがわかる。うっすらと狼時の記憶がフラッシュバックしてくるのも心臓に悪い。


 そんな、色々な発見があったものの、このまま誰にも見つからずに空腹で死亡とかいう、クソダサいエンドはごめんなので、私は足を止めないのだった。


 …あ、トイレ行きたくなってきた

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