第7話 辞めたいのに

 訓練場から部屋へと戻るとスージーさんが俺達の食べた後を片付けていたところだった。


「戻ったぞ」

「あら、早かったんですね。てっきり、二時間くらい……いえ、なんでもありません」

「……」


 スージーさんの返しに「やっぱり、そうなのか」と思っているとエミリーさんが執務机の向こう側に座るなりスージーさんを呼び止める。


「私はギルドマスターを辞めるぞ」

「はいはい、そうですか。ギルドマスターを辞めるんですか……えっ! 今、なんて言いました?」


 スージーさんは持っていたお皿を落としそうになりながらも思わずエミリーさんにその真意を確認する。


「どうした?」

「どうしたって、マスターこそ正気で言っているんですか?」

「正気だぞ。まだ、そんなにボケる歳ではないからな」

「なら、余計にタチが悪いですよ。なんでそんな話になるんですか? 何かイヤなことでもあったんですか?」

「イヤなことか」

「そうですよ。イヤなことがあったのなら、職員全員で改善しますから、どうか思い直して下さい。お願いします」

「いや、そんなイヤなことがあった訳ではないんだ。むしろ、その逆だな。うん、逆だ」

「へ?」


 そこでスージーさんは思い当たることがあるのか、ここでやっと俺の方を見る。


「コータさん、何かしましたか?」

「俺は特に何もしていませんよ」

「ウソ! なら、なんでこんな話になるんですか! 訓練場に行ったと思ったら、帰って来た途端にギルドマスターを辞するなんて、何かないと説明が付かないでしょ!」

「だから、それを俺に言われてもサッパリなんだけど……」

「でも「スージー」……マスター」


 エミリーさんのいきなりの辞職発言にスージーさんは愕然としていたが、俺と訓練場に行った後にそんな爆弾発言をしたものだから、俺に原因があるのだろうと詰め寄って来たところをエミリーさんがスージーさんに声を掛けて引き留める。


「スージー、コータは……まあ、関係なくはないが」

「やっぱり……」

「いいから、聞け」

「はい」


 スージーさんが大人しくなったところで、エミリーさんがコホンと軽く咳払いをしてから話し始める。


「スージー、私がいつも私より強い男にいつかは娶ってほしいと言っていたのは知っているだろ」

「ええ、それはもう呪詛の様に繰り返していたので、職員全員が知っています」

「呪詛……そ、そうか。それが、今日ここに現れたのだ。コータが正にそのだ。これで納得か?」

「え? ウソですよね」

「いや、ウソじゃないぞ。キンバリー支部ギルドマスターのダリウスからもAランク以上だと思うから推薦状を頼むと書かれていたしな」

「ウソ……失敗した! エミリーさんでOKなら私が……」

「スージー? 心の声が漏れているぞ」

「はっ……すみません」

「と、言う訳で私はコータに着いていくつもりだ。だから「出来ませんよ」……ん?」


 スージーさんに俺との模擬戦で俺に負けたことを話して分かってもらえたと思っていたエミリーさんだったが、スージーさんにそれは出来ないと断られる。


「スージー?」

「ですから、辞めたい理由は分かりましたけど、そんなに直ぐに『はいそうですか』と辞められる訳がないでしょ」

「いや、だが……」

「まずは、ちゃんと後任を決めて下さい。そして、その後任の方が冒険者ギルドの本部から承認をもらって下さい。そして、その後は後任の方が研修が終わるまではいてもらいますからね」

「ん~そう言えば、私がギルドマスターになった時もそうだったかな」

「昔過ぎて覚えてないかも知れませんが、後任の方はマスターの様に長命種の方を選任して下さいよ」

「ん? そこは関係ないんじゃないのか?」

「いいえ、なるべく長い間、勤めていただきたいので、そこは譲れません」

「ちっ分かったよ。え~と、先ずは次を決めて、本部に承認してもらって、研修を終えれば私は自由なんだな」

「はい。そうなります」

「そうか……ちなみにだが、期間としてはどのくらいなのだろうか?」

「まあ、後任を決めるのはマスター次第なのでなんとも言えませんが、こちらから本部に承認要請を送って、本部がそれを受け取って、後任者を本部に送って面接していただき、無事に承認をもらえたら、本部での研修を終えて、ここで実地研修を受けますから、早くても一年でしょうか」

「へ?」

「何か問題でも?」

「いやいやいや、一年だぞ! 一年、そんな長い間コータに会えないのは問題だろ」

「そうなんですか、コータさん?」

「俺は特に何もないけど?」

「ほら、コータさんもこう言ってますよ」

「いやいやいや、いきなり遠距離になるのはダメだろ。ただでさえ、コータには女のパーティメンバーがいるのだから」

「いや、押し掛けて来たのはそっちだし」

「……スージー、それはどうしてもなのか?」

「はい。ちゃんと規約にもありますよ。確認しますか?」

「いや、いい。はぁ~やっとダンナが見つかったと思ったのに……」


 いきなりギルドマスターを宣言をしたが、スージーさんがそう簡単には辞められないことを告げると、エミリーさんは俺の方を見て悲しそうにするが、そっちが勝手に言っていることなので正直、俺にはどうでもいい話だ。


「じゃあ、後任が決まったら、辞任の話の続きはしましょう。それまでは今まで通りギルドマスターとしての責務を全うして下さいね。黙ってコータさんに着いて行くってのはナシですよ」

「もし、そうしたらどうなる?」

「もちろん……」

「もちろん?」

「全冒険者ギルドに賞金付きで手配しますよ。当たり前じゃないですか。うふふ」

「……怖っ!」

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