第6話 勝ったのは俺なのに

 なんだかスッキリとしない気持ちになりながらも昼食を済ませると「じゃあ、話の続きを聞く前に」とエミリーさんが立ち上がる。


「やっぱり、しないわけにはいかないんだね」

「おいおい、今更ナシとか言わないでくれよ。こっちの話を蹴っといて模擬戦これもナシとなったら、泣くぞ」

「分かったよ」


 俺もソファから立ち上がるとエミリーさんの後に続いて部屋から出ると、エミリーさんは地下の訓練場へと続く階段を下りる。


「やっぱり、ここも地下なんだ」

「そうだな。特にここは王都で広い土地を抑えることは出来ないからな」


 気持ち的に二,三階層くらいの階段を下ると大きな扉の前に立ったエミリーさんが「ここだ」と脇にある小さな通用口の扉を開け、中へと入る。


「へ~」

「どうだ。なかなかのもんだろう」


 通用口から訓練場の中へと入った俺が感嘆の声を漏らすとエミリーさんが自慢気に言う。確かに自慢するだけあってキンバリーの冒険者ギルドの訓練場よりは広く感じるが、地下で遠くの方は多少薄暗い為、ハッキリとした広さは分からない。


「とにかく広さを自慢するために来たんじゃないでしょ。するなら、さっさと済ませようよ。話もまだ途中なんだしさ」

「ほう、イヤに積極的じゃないか。そういうのは嫌いじゃないぞ」

「俺は面倒なことはさっさと済ませてしまいたい性格タチなの。で、何をすればいいの?」

「興が冷めるようなことを言うなよ。そうだな、まずは……これだろ。ん?」

「そうだね」


 エミリーさんが腰に下げていたレイピアを抜くと俺は鞘に入ったままの太刀を構える。


「鞘はいいのか?」

「だって、ケガさせちゃうと責任とれとか言われそうだし」

「あ! その手があったか……いやいやいや、それはどういう意味だ? まさか、私よりも強いつもりか?」

「ん~どうだろうね。まあ、負けることはないと思っているよ」

「ふふふ、いいぞ。ますます欲しくなってきたじゃないか。よし、お前に傷が残ったら私が責任持って引き受けようじゃないか」

「それはご心配なく。治せるので」

「ちっ、ああ言えばこう言う……しかし、それもまた楽しいじゃないか。ふん!」

「……くっ、いきなりだね」


 会話が終わる前にエミリーさんは俺に対しレイピアを振り下ろしてくるが、俺はそれに合わせることなくスッと躱すとエミリーさんは振り切る前にレイピアを横にして払ってくるが、俺はそれを後ろに跳んで躱す。


「躱してばかりだと切なくなるじゃないか。もっと楽しませてくれない……か!」

「くっ……」


 エミリーさんが横に払ったのを俺に躱されるとそのまま、その場でくるっと回り、下から上へと払ってきたのを躱しきれずに鞘で受けてしまう。


「ふふふ、やっと私の気持ちを受け取ってくれたね」

「いいえ、お返ししますから!」

「いいぞ。お前の気持ちなら、いくらでも受け取ろうじゃないか」

「それはどうも、ふん!」

「……え?」


 俺は鞘に入ったままの太刀を正眼に構えると、そのままエミリーさんに対し振り下ろそうとするが、身長差があったのでこのままじゃダメだなと左下から右上への逆袈裟を仕掛けるとエミリーさんはそれをレイピアで受け止めようとしたが、受け止めることは出来ず、レイピアを持ったまま払われてしまう。俺は、そのままエミリーさんの首筋で太刀を止めると「これで俺の勝ち……だよね」と言う。


「え? ウソ……」

「ウソってヒドくない」

「だって、私は……ギルドマスターで元はSランクに手が届くところまでいったのに……」

「そんなのはいいから。で、俺の勝ちでいいんだよね?」


 そう俺が再度問い掛けると、エミリーさんは静かに頷く。


 俺が太刀を腰に戻し「これで納得したよね」と言えば、エミリーさんは「まだよ!」と鼻息を荒くして言う。


「え~まだ何かあるの?」

「あるわよ!」

「も~何?」

「これよ!」

「うわっ危な!」


 エミリーさんもレイピアを腰に戻すと今度は短杖を手に取ると俺に向かって詠唱をしたと思ったら、『火球ファイアボール』を放ってきたので、慌ててそれを躱す。


「ふふふ、驚いた? そうよ、私は魔法が使えるのよ。さあ、いつまで避けられるかしら……ね!」


 エミリーさんは小声で何やら呟くと自身の回りに数十の火球ファイアボールを浮かべると、短杖を俺に向けて放ってくる。


「もう、面倒だし」

「え……」


 俺は向かってきた火球ファイアボールを避けるのではなく障壁を張ることで全てを防いだ。だが、俺が魔法を使うのを想像していなかったのかエミリーさんが呆けてしまう。


「うそ、なんで……」

「俺も魔法を使えるから?」

「なんでよ!」

「なんでって使えるから?」

「もう!」


 またエミリーさんが火球ファイアボールを回りに浮かべるが、今度はさっきの倍以上用意したようで訓練場全体が明るく灯される。


「もう、面倒なのに……『水球ウォーターボール』」

「へ?」


 俺は水球ウォーターボールをエミリーさんが用意した全ての火球ファイアボールを回りに当てて消失させると「もういいよね」とエミリーさんに問い掛ける。


「エミリーさん?」

「なんでなの!」


 エミリーさんは俺に負けたのに納得出来ないのか、訓練場で四つん這いになり地面に向かって叫んでいる。


 こんななりの子供に負けたのはショックだと思うけど、アラサー女子の慟哭は頂けない。怖くなった俺はソッと訓練場から抜け出そうと通用口の方へと向かうと「待ちなさい」と後ろから声を掛けられる。


 だが、ここで振り向くと碌なことにはならないだろうと無視して歩いていると「待ちなさいって言ってるでしょ」と後ろ襟を掴まれる。


「な、なんですか?」

「婿になりなさい!」

「え~」


 掴まれたからには無視することも出来ず、エミリーさんの方に振り返るとエミリーさんは俺の両肩をガシッと掴んでそんなことを言ってきた。


「ごめんなさい」

「お~でも、いい。私が決めたから! 今、この瞬間から私は『コータの嫁』だと喧伝する!」

「え~なんでだよ。俺が勝ったのに!」

「だからよ。ふふふ、私が勝てば、それをネタに婿になってもらうつもりだったが、お前は私に勝ったのだ。だから、お前には私を娶る権利がある」

「いえ、謹んで辞退させて貰います」

「辞退か……別に構わんぞ。私は勝手に喧伝するだけだ。それにお前にキズ物にされたとでも付け加えておこうかの」

「キッタネェ」

「ふふふ、老獪とでも言ってくれ」

「詰みだな……」

『肯定します』

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