第二章 動き出す何か

第1話 出港

「どういうことだ!」

「申し訳ありません」

「私が聞きたいのは謝罪じゃない! どうしてこうなったのかと聞いている!」

「申し訳ありません」

「ええい、もういい。誰かコイツをつまみ出せ!」

「お待ち下さい! もう一度、もう一度だけ機会をお与え下さい。お願いします」

「クドい! おい、いいからさっさと連れて行って始末しろ!」

「そんな……私はあなたの為に今までいろいろと……グフッ……な、なんで……」


 必死に懇願している男と懇願されている老人の間に一人の男が割って入ると懇願していた男に向かい腹部に鋭利な刃物を押し当てる。


 やがて男は絶命し刺した男は心臓が止まり返り血を浴びないように注意しながら男の身体を躱し手に持つ鋭利な刃物から血糊を拭き取ると老人に会釈をしてから部屋を出る。


 老人はその男に鷹揚に挨拶を返すと床に寝転がる男を迷惑そうに一瞥しツバを吐きかける。


「だから、お前に色々知られているからこそ私にとってお前が生きているのは都合が悪いのだ。相変わらず察しが悪いな」


 床に横たわる男が片付けられると扉から入って来た男が告げる。


「司教様、皆が司教様のお言葉をお待ちしております」

「分かった。今行く」

「お願いします」


 司教と呼ばれた男は聖堂へと続く廊下をゆっくりと進む。やがて聖堂の女神像の前に置かれた聖壇の前に立つと鷹揚に両手を上に掲げると聖堂の中で司教に集中している信徒達に向け声を掛ける。


「女神イースに祈りを!」

「「「女神イースに祈りを!」」」

「女神イースからの祝福を!」

「「「女神イースからの祝福を!」」」


 ◇◆◇◆◇


 川辺の船着き場に馬車が着き順に馬車から降りる。


「来たな」

「キュリ、今日は頼むね」

「ふふふ、任せろ。今日の俺はひと味もふた味も違うぜ」

「あ~そういうのはフラグになりがちだから、あまり口にしない方がいいよ」

「ん? どういうことだ? そのふらぐってのはなんだ?」

「いいからいいから、あまり気にしないことだよ」

「……余計気になるじゃねえか。まあいい、船はあれだろ」


 そう言ってキュリが顎でくいっと指した方向にはそれほど大きくはないと思われる十四,五人ほどの定員だろうと思われる十メートルに満たない大きさの船が船着き場に接岸していた。


「コレに乗るんだ。俺に姫さんにクリフさんでしょ。後は隊長に専属メイドのお姉さんで五人。タロを乗せると二人分として七人か」

「それに俺達の交代要員も悪いが乗せてもらうぞ。それが二人な」

「じゃあ、全部で九人が乗ることになるんだね」


 俺が用意された川船の横で乗る人を確認しているとクリフさんが横に来て「それで間違いありません」と言う。するとここへ来る時に盛大にフラグを立ててくれ護衛の騎士がショックを受けていた。


 ちょっと気になり、耳をダンボにして聞いてみる。


「そんな……俺は姫様の帰省から帰ったら結婚できるのにこんなところで足止めなんて、あんまりだ!」


 横にいる別の護衛騎士が慰めているようだが納得出来るんだろうか。まあ、盛大にフラグを立ててくれた人が同道しないのなら多少は楽が出来るのではと考える。


 そんな護衛騎士は放置して『地図マップ』を開いて確認する。


「近くに敵性反応なし。しかし長い川だな……これを下流まで辿ると……王都? あれ? なら、どうして最初っから使わないんだ?」

「ふふふ、コータ様は何故、王都まで続くこの川を利用しないのか不思議でしょうね」

「え、ええ。そう思っています」

「それはですね……」


 俺が地図を見て不思議に思っていたことがクリフさんには筒抜けだったようで川を見ていた俺に説明してくれた。


 確かに王都からクレイヴ領までは船を使えばほとんど障害もなく辿り着くことは出来る。だが川を使うのは一見簡単そうに見えて、実はそうではない。上流から下流へと向かうクレイヴ領から王都までなら確かに流れに乗るだけなので、それほど難しくはない。逆に下流から上流へと向かう為には流れに遡ることになり簡単に進むことは出来ない。帆で進む仕掛けも考えはしたものの常に風を捕まえられることがないのと、遡れる程の推力が得られるほどの風が吹かないことも多いために断念したという。また、川底に竿を刺して推力を得ることも考えたが、途中に水深が深いところもありこれも断念した。


 それと王家であり貴族という身分がそれを許してくれないともクリフさんは教えてくれた。どういうことなのかと聞けば、街道沿いの町や他領に対し宿泊や買い付けでお金を落とすこと。それに陳情などの受付もあるために日数を掛けてでも陸路を使うことの必要性を説かれた。


 だが、今はリザードマンの力を借りれば下流から上流へと遡るのも苦ではなくなるだろうから、貴族ではない平民には関係ない話だよねと思ったが利権を握っているのは貴族だから平民だからと好き勝手には出来ないだろうと言うのがクリフさんの意見だ。ちなみにだが、今回の様にリザードマンに頼った運用は冒険者ギルドを通じてリザードマンへ依頼する形を取るため貴族の横入りは心配しなくてもよさそうだとも言っていた。


「へ~でも、それだと今度はリザードマンを捕まえて奴隷として扱いそうだけど、大丈夫なんですか?」

「はい。その辺りは既に書簡にて王様の方へ送りました。『リザードマンは友好的種族である』というのとお嬢様の恩人が間に入っているとも一筆添えましたので何かあれば王家が対処致します」


 姫さんの恩人って俺のことだよなと思うが、なんにせよ。リザードマンの保護に役立つのであればうれしいというものだろう。


「おい、そろそろ出すけど心構えはいいか?」

「へ? キュリ。そこは『準備はいいか?』じゃないの?」

「あ~まあ、それもだがな。ここは心構えの方が正しいと思うぞ」


 俺は腑に落ちないものの全員が乗り込んだのを確認出来たのでキュリに出発をお願いする。


「わかった。じゃあさっき言ったように気をしっかりもって。後、ちゃんと船の縁とかちゃんと捕まっててくれよ」


 キュリの言葉を理解した姫さんや隊長は船の縁をしっかりと握る。タロは握ることが出来ないので船底に伏せてもらい、俺もキュリの言うことを聞いてしっかりと縁を掴む。


「よし、準備はいいようだな。じゃ、船を出すぞ」


 キュリと一緒に船の最後尾を掴み身体を流れに対し水平にしているリザードマンがキュリとタイミングを合わせるかのように視線で合図を交わすと一気に船が押し出される。


「うわぁ! 速いねぇ」

「その割には驚きが少ないな」


 キュリには悪いが、前世でモーターボートを体験済みだったのでそれほどの驚きはない。だが、この世界でこれだけの速さを体験することはまずないだろうと思われるので俺以外は平気ではなさそうだった。しかも船は結構揺れている。これってエチケット袋が必要になりそうだな。

『肯定します』

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