第27話 釣り針に引っ掛からないと
なんとなく見えないフラグが立ったのは感じてはいたけど、ここまで大きな釣り針が待っていたとは思わなかったよ。
でも、この釣り針に引っ掛からないと、先には進めない。
覚悟を決めてキュリに聞かせてと言えば、待ってましたとばかりに語ろうとしたが俺は待ったを掛け「五分バージョンで」と言うとイヤな顔しながらも語ってくれた内容がヒドかった。
今から数ヶ月前のこと住処でもある沼地でリザードマンの同胞達とまったりと過ごしていたら、どこからか悲鳴が聞こえてきたのでキュリも周りの者と一緒に槍を手に取り、悲鳴が聞こえた方向へと駆ける。
そこには傷付き倒れている同胞と、それに駆け寄り一生懸命に声を掛ける恋人らしき者があちらこちらにいた。
キュリは何があったのかと近くに倒れていた同胞に声を掛けると霧が立ちこめている方向を指差し何かを呟いているが、ケガのせいか吃音がヒドくて良く聞き取れない。
キュリは同胞を他の者に任せて槍を身構えて霧の向こう側を確認する為にゆっくりと近付く。
『グルルル……』
キュリは霧の向こう側から聞いたこともない唸り声を聞いてしまう。槍を持つ手に自然と力が入り槍の穂先を霧を撹拌するように振り回しながら少しずつ進むと、そこには七つの首を持つ魔物『ヒュドラ』が同胞を頭から囓っている姿が目に入る。
『コイツ、よくも仲間を……』
キュリや一緒に槍を構えている同胞もそうは思うが足が、その先に進まない。いや、正確には進めることが出来ない。頭では同胞に齧り付いている目の前のヒュドラが憎くてしょうがないのだが、体が震えてヒュドラに突進するのを拒否してしまう。
ヒュドラの頭の一つがキュリ達に気付き視線を向けるとキュリ達は一歩後ずさる。更にもう一つの頭が振り向けば、キュリ達はその場に留まることが出来ずに一人、二人と逃げ出してしまった。
長であるオジイにヒュドラが居着いていることを話し、ここから早く避難するべきだと言えば、オジイもそれに反対することなく幼い同胞、雌、若者を優先して避難させた。若者の中には血気盛んに立ち向かうべきだと避難することに反対する者もいたが、キュリが前に出て力で黙らせ避難させる。
『……と、まあここまでが我々の現状だ』
「へ~ヒュドラね~また面倒な話を持って来たもんだね」
『お前ね、そんな軽い一言で終わらせるなよ』
「じゃあ、それを退治すれば元の沼地に帰れるってことでいいんだよね」
『ああ、そうだ。俺はそれをヒトの冒険者ギルドってヤツに依頼に行こうとしていたところでお前達に会ったんだ』
「へ~でもさ、言葉も通じないのにどうするつもりだったの? それに依頼料はどうするの? お金って持ってるの?」
『あ……いや、それは……』
「それは?」
『行けばどうにかなるかと思って……』
「はい?」
『でも! お前は話が通じているじゃないか! なら、他にも話が出来るヤツがいるかもしれないだろ!』
「かもしれないけど、お金は?」
『ぐ……』
多分、俺以外には言葉は通じないよな。多分だけど小さく『ギュルル』とか『キィキィ』って聞こえてくるのはリザードマンの話す言葉なんだろうな。
『肯定します』
だよなと納得するが、なら俺の『全言語理解スキル』ってのはどうなんだろうか。誰でも出来る物なんだろうか。
『否定します』
ってことは俺専用のチートスキルなんだな。
『肯定します』
でも、タロも話せるんだしどうにか手はあるはずだよな。
『肯定します』
『おい!』
「え? 何?」
『何じゃねえよ。俺達の窮状は話しただろ』
「うん。ちゃんと聞いてるよ」
『なら、それの打開策とかないのかよ』
キュリが話したんだから何か策はないのかと無茶なことを言ってくる。確かに今までのことは聞いたけどヒュドラでしょと思いつつ一番の問題点を指摘してみる。
「ん~冒険者ギルドに一緒に行くのはいいけど、お金はないよね」
『ぐぬぬ……』
「それにヒュドラなんて退治出来る冒険者はあそこのギルドにはいないと思うよ」
『何! なら、俺達はずっとこのままなのか!』
キュリが今の困窮している現状を打破することは出来ないのかと激昂するが、今のキュリの目に前にいるのは冒険者である俺だからと話してみる。
「あ、ちなみに俺も冒険者だよ」
『あ? お前がか?』
「うん、ほら」
『いや、そんな物見せられても分からないぞ』
「あ~もう、だからまずは俺が見てから、判断するからさ」
『……出来るのか?』
「まあ、多分ね。偵察だけならタロもいるし」
『ワフ!』
ならばとキュリとオジイ、それにタロを神聖視している他のリザードマン達が俺達が何かを進展させてくれることを期待しているのが分かる。
「ま、まあ落ち着いて。もう今日は日も暮れているし、ね。動くなら明日からだよ」
『む、それもそうだな。ならば、メシを用意させよう』
『ご飯!』
明日はキュリにヒュドラが住み着いた沼地まで案内してもらうことを約束し食事を用意してもらったんだけど。
『食べないの? おいしいよ?』
「いや、生はダメだろ。生は……」
『変なの。お刺身だって食べていたじゃない』
「いや、刺身とこれを同じに扱うなよ」
『やっぱりコータの口には合わないか』
「ごめんね。火を通していないのは無理だから」
『そうはいってもな……あ、ちょっと待て』
タロが美味いと食べているのは川魚だけど、俺にもそれを『はいどうぞ』と差し出されたけど、イヤ無理でしょ。それをキュリに言えば何かを思い出したのか席を立つ。
『これならどうだ?』
「あ、大丈夫そう」
キュリが俺の目の前に出したのはマスっぽい何かだ。大きさは五十センチメートルを超えて一人じゃ到底食えそうにはない大きさだが、俺はそれをバッグから取り出したナイフで三枚に下ろすと串に刺し火であぶる。
調味料はないが、火に翳している部分から油が垂れ落ち、『ジュッ』と音がする。
「そろそろよさそう。ん?」
『……』
火に翳している串を手に取り今まさに齧り付こうとしたところで俺を……というか、俺が持つ串に注目しているいくつもの視線に気付く。
俺は手に持つ串だけは離さないようにして他のはご自由にと言えば、キュリも一緒になって串に手を伸ばす。俺はその争奪戦に巻き込まれないように離れるとタロに寄り添うように座る。
『おいしそう!』
「あげないから!」
タロに食べられない内にとまだ熱い串に刺した切り身を頬張る。
「塩って大事だね」
『肯定します』
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