第17話 魔法はイメージです

 散々、俺のことや魔法を規格外だのなんだのと言っておきながら、俺に対し「お願いします」と頭を下げている姫さんとメイドのお姉さんがいる。


「えっと、どういうことなのかな?」

「それは……」

「姫様、私から説明させて頂きます」

「あ、うん。お願いね」

「え~それでは……」


 お姉さんが姫さんに代わり説明してくれたのは、自分達メイドにさっき俺が使った魔法を教えて欲しいと言うことだった。なんでも姫さんの様に長い髪を乾かすのは大変で、ヒドい時には二、三人で一時間、二時間は掛かるそうだ。


「……と、言う訳でお願いします」

「お願い!」


 二人が言いたいことは分かったけど、確かに話を聞くだけで重労働だし乾かしてもらっている姫さんも退屈だといっていたのも分かる。だけど、俺は少しだけ疑問に思ったことを聞いてみる。


「教えるのはいいんだけどさ。まず、基本的なことなんだけど魔法は使えるんだよね?」

「「……」」

「えっと、どうなのかな?」


 二人に魔法が使えるのかなと聞いてみたが、返事が返ってこない。あれ? 普通に使えるんだよね?。

『肯定します』

 なら、使えないのはどういうことなんだろう? まさか、ここの世間一般的に伝わっている魔法の使い方が間違っているとかなんだろうか。

『肯定します』

 なんだろう、想定外と言うか想定内と言うべきか、まさかの俺の考えが当たってしまったことに困惑していると姫さんとお姉さんが上目遣いで「使えないとダメなのかな?」と聞いてくる。いや、その仕草は反則だろうと思うがまずは間違っている使い方を改めさせないことにはどうにもならない。


「あのね、多分だけど俺の使っている魔法とソフィア達が覚えている魔法とはやり方が全然違うと思うんだけど、それでもいいの?」

「え! それはどういうことなの?」

「コータ様の魔法なら私にも使えるということなのでしょうか?」


 姫さんとお姉さんの顔がグッと近付いてくる。


「ちょ、ちょっと近い! 近いから!」

「「あ……」」


 俺が近付きすぎている二人の顔を手で制すると二人はやっと俺との間にほとんど隙間がないことを理解したらしく顔を赤らめながら下がっていく。


「えっと、話を戻すけどね。俺のやり方なら間違いなく魔法は使えるようになると断言できる「「じゃあ!」」……だから、ちょっと待って! また、近いから!」

「「あ!」」

「あのね、俺が言いたいのは……」


 必ず魔法が使えるようになると聞いた二人が興奮した様子で俺に詰め寄ってくるから、また近いよと二人を離してから、俺が危惧していることを話して聞かせる。


 ズバリ、俺が危惧していることは俺が教えた方法がされるんじゃないかと言うことだ。さっき、お姉さんが説明してくれた媒体を使う、詠唱する、複数同時には出来ないという一般常識とされてきたことの全てを引っ繰り返しかねないからだ。


 そういう風に俺が心配していることを伝えるが二人はそれでも構わないと言う。だけど、姫さんは第三王女という立場から、もし異端扱いされてしまった場合は国外追放や処刑とかもあるんじゃないのかと言えば考え込んでしまう。


 さすがに自分の立場を考慮すれば構わないとは言えないだろう。

 明らかに気落ちする姫さんをメイドのお姉さんが「私が頑張りますから」と慰める。


「じゃあ、まずはお姉さんだけでいいんだね」

「……」

「お願いします!」

「えっと、ソフィア?」

「ズルい!」

「「え~」」


 先ずはメイドのお姉さんにだけ教えると言えば、姫さんが急に不機嫌になったので納得したよねと問い掛ければ「ズルい!」と返された。


 ズルいって納得したんじゃないのかと思いメイドのお姉さんと二人で困ってしまう。まあ、困ったのは事実だが、気にせずに姫さんは放っておいてお姉さんを指導する。


「じゃあ、先ずは風……微風を起こすことを覚えてね」

「微風……ですか?」

「そう、微風ね。そよ~って感じで」

「そよ~ですか?」

「そう、そよそよ~って感じでね」

「でも、どうやって?」

「だから、そよそよ~って」

「えっと、だからどうやって?」


 お姉さんに説明してみるがどうも上手くいかない。お姉さんには丁寧に教えているつもりだが、上手く伝わらないようだ。


「えっと、何がダメ?」

「だから、そよそよ~と言われても、そもそもの魔法の使い方が分からないのに無理です」

「あ!」


 お姉さんに言われ先ずはそこからだと分かったので気を取り直して最初から説明してみる。最初に魔法はイメージ次第だから想像力が大事だと話す。


「イメージですか」

「そう、イメージ。だから、そよそよ~って感じのをイメージしてみて」

「イメージ、イメージ……そよそよ~そよそよ~……あ!」


 お姉さんが「そよそよ~」と口に出しながら右手に集中していると、そこから確かに微風が生まれていた。


「コータさん!」

「あぐっ……」

「あ! ズルい!」


 魔法が発動したのが分かったのか、お姉さんは自分の右手と俺を交互に見るといきなり俺を抱きしめるもんだから変な声が出た。そして姫さんは謎の「ズルい!」宣言だ。

 俺的には「ズルい」ではなくご褒美なんだけど、それを声に出すことはない。


「申し訳ありませんでした」

「いいよ。それだけ嬉しかったんでしょ」

「はい!」

「ぶぅ~」


 しばらくして我に返ったお姉さんが俺を解放すると土下座せんばかりに頭を下げて謝っているが、俺はご褒美をもらっただけなので気にしないでと言うしかない。姫さんは面白くなさそうだが、これで魔法の発動という第一段階は出来たのだから、後はこれに熱を加えればドライヤー代わりの魔法を習得したことになる。


「じゃあ、次はその微風を温かくすることだね」

「はい、師匠!」

「え?」

「なんでしょうか師匠」

「えっと、それは俺のこと?」

「はい。そうですよ師匠。どうかしましたか師匠」

「えっと、却下で」

「どうしてですか、師匠!」


 お姉さんにいきなり「師匠」と呼ばれてしまいどうにも背中がこそばゆい。なので、その呼び方は止めて欲しいとお願いして「普通にコータでお願いします」と俺の方からお姉さんに頭を下げたものだからお姉さんも慌てて「分かりましたから」と了承してくれた。


「じゃあ、今度は熱を加える方法だけど、さっきのが出来たのだから簡単だよね。手から出している微風に『熱くなれ』ってイメージしてみてね」

「え? それはどのくらいの熱さなんでしょうか?」

「あ~そうか。元の熱さが分からないとイメージも難しいよね」

「はい。すみません」

「いいよいいよ、謝らなくても。じゃあ、ちょっとコレを触ってみてくれる」

「コレをですか? でも、いいんですか?」

「いいよ。直に触ってみないと分からないでしょ」

「それもそうですね。じゃあ、思い切って……あ、熱いです。とても熱いです」

「そう、その熱さを覚えておいてね」

「はい!」

「ちょっと!」

「なに?」

「『なに?』じゃないでしょ! 私の見えないところで何を触らせているのよ!」

「なにってそんなこと口じゃとても言えないな」

「な! コータ、私のメイドになんてことしているの!」

「「はい?」」

「いいから、答えなさい!」

「はいはい、触ってもらっていたのはコレだよ」

「へ?」

「だから、コレだって」

「えっと……ナニコレ?」


 姫さんを揶揄うつもりじゃなかったんだが、姫さんの位置からは俺達の手元がよく見えなかったようであらぬ疑いをもたせてしまったようで姫さんの口調がキツくなったので、触ってもらえば納得出来るかなと姫さんにも触ってもらうが、自分の考えていた物と違っていたようで軽くパニクっている。


「ソフィアが何を想像していたかは分からないけど、俺が触ってもらっていたのはコレだからね。ね、お姉さん」

「はい。お陰でどのくらいの熱さにすればいいのか理解出来ましたのでやってみますね」

「うん、頑張って!」

「はい!」

「……だってしょうがないじゃない」


 メイドのお姉さんが右手の微風に熱を込めている隣で姫さんがなんだか顔を赤くして呟いている。


「出来ました!」

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