第16話 俺にはご褒美です
俺の体もちゃんと拭き、もちろん頭も乾かしてから部屋に戻ると同時に部屋の扉が勢いよく開かれる。
「デジャヴ……じゃないよ。どうしたのソフィア」
「だって退屈なんだもん!」
そう言って頬をプク~と頬を膨らませているソフィアの可愛らしさに思わずドキリとするが、問題はそこじゃない。「ヒマだ!」と文句を言っているソフィアの後ろではタオルを持っているメイドさんが俺に申し訳なさそうにお辞儀する。
「えっと、髪を乾かしてもらっているんだよね?」
「そうよ! あれ?」
俺の質問にそうだと答えた姫さんが俺とタロを見て不思議そうにしている。
「コータもお風呂に入ったって聞いたけど? タロも入ったのよね?」
「ああ、入ったぞ。久々にあんな大きなお風呂に入ったよ。な、タロ」
『ワフ!』
「そうなのね。それで頭は洗わなかったの? タロも一緒に入ったのに洗ってあげなかったの?」
「ん? ちゃんと洗ったぞ。タロも洗ったから、こんなにふわふわだろ」
「え? あ、確かに……」
姫さんは俺の髪やタロがすっかり乾ききっているのを見て風呂に入っただけでちゃんと洗わなかったのかとあらぬ疑いを持ったようだが、実際にタロにさわりその手触りから洗ったのは信じてもらえたようだ。
「じゃあ、なんで乾いているの? 私の後に入ったのにタロもコータも乾いているなんておかしいわよ!」
「そう言われてもな……乾かしたからとしか言えないんだけど」
「乾かすってのは、こんな風にタオルで抑えつけるようにしないと乾かないのよ」
「へ?」
何故か俺は姫さんに嘘つきと思われているのかもしれない。一般的に髪を乾かすには髪の毛を一本ずつといってもいいくらいに丁寧にタオルで水分を拭き取るのだと俺の目の前で姫さんが力説するが、実際にしているのはメイドさんだよね。
このままだとメイドさんが可哀想だし、俺が嘘をついていると思われたままなのは納得出来ない。なので、姫さんとメイドさんに部屋に入ってもらうと姫さんを椅子に座らせる。
「じゃあ、俺が乾かすからお姉さんはソフィアの髪を整えてあげてね」
「「え?」」
「じゃあ、やるよ」
俺は右手から微風を発生させると、そこに少しずつ熱を加え左手で温度を確かめると姫さんの頭に当てる。左手は姫さんの髪をワシャワシャと持ち上げたりしながら髪の毛の根元までしっかりと乾かす。
「えっと、どうなってるの?」
「あの……コータ様が魔法で乾かしているようです」
「え? うそ!」
「姫様も髪を触って頂ければ私の言っていることが分かると思います」
「……あ、ホントだ!」
姫さんが恐る恐るといった風に自分の髪に手を伸ばし触った瞬間に驚き、そのまま俺の方に振り返ろうとするので「動かないように」と俺は頭の上から抑えつける。
「あ、姫様にそんなこと……」
「はい、終わったよ。お姉さんも確認して。もし湿ったところがあったら教えてね」
「は、はい……凄いです! ちゃんと根元まで乾いています!」
「え? ホントなの!」
「はい、姫様。確かに根元まで乾いています」
「嘘! いつもなら一時間くらいずっと拭いてもらってやっとなのに!」
姫さんとお姉さんの二人がぐるっと俺の方を振り返る。
「コータ!」
「コータ様!」
「え? 何? ちゃんと乾いたよね」
「そうじゃない!」
「そこじゃありません!」
「はい?」
「座って!」
「え?」
「いいから、座る!」
「……はい」
姫さんとお姉さんの様子から何か俺に憤っているみたいだが、俺には何が気に障ったのか全く見当がつかない。タロもゆったりとして『ふぁ~』とでっかい口を開け欠伸しているから危険性はないみたいだけど、可愛い顔の姫さんと綺麗なお姉さんに真っ直ぐに見詰められ責められるのはご褒美かもしれない。
姫さんとお姉さんは腰に手を当て俺をジッと見ている。まずは言われた通りに座るのが吉と思う。
『肯定します』
「座ったよ。それで何がダメなの? ちゃんと乾いたよね」
「だから、そうじゃないの!」
「姫様、コータ様は根本的なことを理解されていないようです」
「根本的?」
椅子に座り姫さんに乾かしたことの何がいけないのかと少し強めに言うと姫さんに一蹴され、お姉さんには大事なことが分かっていないとダメ出しされる。
あれ? 魔法が使える世界だって聞いているけどと思っているといつもの様に『肯定します』と流れる。
じゃあ、何が間違っているんだろうと考えているとお姉さんが俺をビシッと指差してから「こんなことが出来る人は聞いたことがありません!」とこれまた力強く宣言する。
「いや、でも出来たでしょ」
「だから、そこがおかしいんです」
「え~もう、何が言いたいの」
「ですから……」
俺が使った魔法はおかしい、そんなの聞いたことがないとお姉さんに真っ向から否定されたから出来たよねと言えば、それがおかしいと言う。じゃあ、どういうことなのかと問えば、お姉さんは嘆息してから、しょうがないと言いたげに話してくれた。
まず、魔法を発動させるには『詠唱』が必要で俺の様に何も言わずに魔法を使うのは有り得ないことらしい。しかも魔法の発動には杖などの媒体が必要になるから、そこも変だと言われた。それと俺が使った二つの魔法だが、これもお姉さんに言わせると有り得ないらしい。一般的な魔法使いと言われる魔道士は一つの魔法しか発動出来ないから、俺の様に複数を同時に使うのも有り得ないらしい。余程高度な魔道士なら出来るかもしれないけどと言い更に付け加えるなら、俺が使ったのは一般的に攻撃魔法に分類されるらしく、それを人に使うのも有り得ないと青筋立てて力説してくれた。
そんなお姉さんの話を俺はと言えば、綺麗な人がぶち切れ寸前になっているのもご褒美だろとニヤニヤしながら聞いていた。
「コータ様、聞いていますか?」
「コータ、分かっているの?」
「あ、ああ。聞いている。聞いていますよ。要するに俺が規格外ってことで合ってる?」
「そんなたった一言で……私のあれだけの力説を……」
「まあ、コータの言うことは当たっているわね」
「そりゃ、どうも。それで俺はどうすればいいの?」
「お願い!」
「お願いします!」
「え?」
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