デュエル

ponzi

第1話サッカー部入部

​ 四月の松戸・瀬戸キャンパス。

 千葉大学経済学部の新入生となったponziは、喧騒の中にいた。サークル勧誘のビラが舞い、希望に満ちた声が飛び交うキャンパスの熱気は、彼の肌には少しだけ浮ついて感じられた。彼がこの大学を選んだのは、都心へのアクセスの良さでも、偏差値の高さでもない。学業の傍ら、くすぶっていた自分の中の「獣」を解き放つための場所を探していたからだ。

​ ponziにとって、サッカーは単なるスポーツではなかった。それは、ピッチという名の限定された世界における「完全なる支配」を目指すゲームだった。中学、高校と指導者に恵まれず、無名のチームで泥にまみれていたが、彼には確信があった。自分には、他者には見えない「ピッチの断層」が見えるという、選ばれし者の才能が眠っていることを。

​ 彼は迷わず、サッカー部の門を叩いた。

 そこに待っていたのは、関東大学リーグの下位に沈み、負け癖のついた活気のないチームだった。先輩たちの視線はどこか冷めており、練習の強度もぬるま湯のようだった。だが、ponziがピッチに立った瞬間、すべてが凍りついた。

​ 卓越したボールコントロール。吸い付くようなトラップから繰り出される、相手の裏を正確に突くキラーパス。そして何より、相手の動きを数手先まで読み切り、まるでチェス盤を俯瞰しているかのような戦術眼。

「ボールは、奪うものではない。相手が差し出す場所に立っていればいいだけだ」

 無名の新入生が放ったその圧倒的な実力に、チームは一変した。彼に呼応するように、燻っていた他の部員たちも牙を剥き始め、グラウンドの空気は焦げつくような熱を帯びていった。

​ 練習後、オレンジ色の夕陽が差し込むキャンパスの隅。

 ponziは、いつものカフェの窓際で、一人の女性と向き合っていた。医学部に合格したばかりの才女であり、ponziの恋人であるユリエだ。

 彼女は、医学部特有の厚い専門書や資料を机いっぱいに広げ、眉間にしわを寄せながらノートにペンを走らせていた。

​「……ねえ、ponzi。今日の練習、また最後の方で足が止まってたでしょう」

 ユリエは顔を上げると、厳しい、けれど慈愛に満ちた瞳で彼を見つめた。

「あなたの課題は明白よ。その天才的な脳の回転に、筋肉の出力が追いついていない。もっと効率的にタンパク質とBCAAを摂らないとダメ。あなたはまだ、医学的に見れば成長期の真っ只中にいるんだから」

​ 彼女はそう言いながら、特製の栄養管理チャートをponziの前に滑らせた。

「医学部の講義で学んだばかりだけど、あなたの骨格筋のタイプからすると、今の負荷は乳酸が溜まりやすすぎる。このトレーニングメニューに変更して。それから、サプリメントのタイミングはこれ……」

​ 医学部で学ぶ彼女の知見は、ponziの才能をさらに鋭く研ぐための「魔法の砥石」だった。彼女はponziのフィジカル的な弱点を臨床的に分析し、食事管理から睡眠時間まで、専門家顔負けの徹底したサポートを提供した。

 

「ユリエ、君は僕の専属医になるつもりかい?」

 ponziが冗談めかして笑うと、ユリエは真剣な表情を崩さなかった。

「いいえ。私は、あなたが世界一の選手になるのを見届ける、最初の目撃者になりたいだけよ」

​ ユリエの科学的なアプローチによって、ponziの身体は急速に「兵器」へと作り替えられていった。スタミナは増し、一歩目の爆発力が加わったことで、彼の戦術眼はより確実にピッチ上で具現化されるようになった。

​ 千葉大サッカー部は、瞬く間にリーグの台風の目となった。連勝街道を突き進み、下位チームを次々と粉砕していく。メディアも「無名の天才、現る」と色めき立ち始めた。

 だが、その熱狂の影で、巨大な壁が彼らの前に立ちはだかろうとしていた。

​ 日大サッカー部。

 そこには、地球の裏側からやってきた、蹂躙することしか知らない「怪物」がいた。

 

 ponziはまだ知らない。自分の「知性」とユリエの「科学」をもってしても、抗いようのない圧倒的な「暴力」が、すぐ近くまで迫っていることを。

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