第12話:メイド服を買う

「おはようございます、お嬢様」

佳乃の声で目を冷ます。

念のため確認。着衣は乱れていない。何もされてないと思う。一応、佳乃を信用しておこう。


すでに佳乃は起きていて朝食の支度も出来ている。

顔を洗って歯を磨いて外出用の服に着替える。

ちゃぶ台がいつの間にかコタツに変わっている。

コタツには目覚めのコーヒーが用意されている。ミルクと砂糖が別添えだ。

朝は基本トーストだ。バターを塗っただけのシンプルなやつ。

あたしは一枚で佳乃は二枚。付け合せはハムとスクランブルエッグ。

これらは全て昨日のうちに伝えておいた。


爽やかな日曜の朝。今までは一人だったから新鮮だ。

今日は佳乃のメイド服を買いに行く。

昨日の夜にネットで検索した店だ。

結構遠いので車で出かけることにする。

運転は佳乃がする。募集要項にも書いておいた。

「ちょっと古い車で扱いも癖があるの」

もう10年以上も前の車だ。

数年前に中古で買ってそれなりに手を入れてある。

今でもピカピカで状態もいい。

維持費がかかりすぎるのが玉に瑕だが、デザインで一目惚れして即金で買った。

マンションの地下駐車場に停めてある。

「430ですね」

この車を見て最初の反応がそれだった。

佳乃はこの車が発売された当時は幼稚園児だよね?

「本国仕様の左ハンドルですね。V8の4300ccはいい音が聞けそうです」

この娘やっぱりちょっとズレてるよね?


100歩譲って、エンブレムからフェラーリだとわかるなら、車が好きなのかな?

で話は終わるけど、現行の車種ではない年代物のこの車の名前がなぜ即答出来る。

しかもエンジンの形式まで。あきらかに、あたしよりも詳しそうだ。

「モーターショウやオートサロンには欠かさず行っているので」

父親に連れていかれてたのかな?

「でも、本物に触れるのは初めてです。お嬢様ナイスな趣味です!」

慣れた手つきでミラーの調整をしている。

あたしに合わせてたから、座席もミラーもあってない。

そういうあたしもこの車の助手席は初めて座る。

家政婦を雇うのを決めた時点で保険は全年齢に変更済みだ。

最悪佳乃が事故っても保険は適応される。でも出来れば事故は起こさないでほしい。

「安全運転でお願いね」

別の意味でも保険をかけておく。

ナビを設定してレッツゴー。


程なくして首都高の入り口に差し掛かる。

「ETCあるから大丈夫よ」

高速に乗る。ETCに反応してゲートが開くのでそのままゲートを通る。

しばらくすると覆面パトカーに止められる。

佳乃のバカ、なんでセーラー服着てるのよ!

路肩に停車する。警官が降りてきて窓を叩く。

「こっちは助手席か」

反対側に回って窓を叩く。

「特に違反はしていないはずですが?」

制限速度も守ってるし、無理な追い越しなんかもしてない。

シートベルトだってきちんとしてる。それでも警察に停められるのさ。

「免許見せて」

佳乃が財布から免許を出してみせる。

警察が免許を照会すると、当然なんの問題もない。

「すみません。女子高生が高級車を運転してると通報が入ったもので」

年齢的には問題ない。違反もしていない。

「一応、車検証も確認させてください」

この車のせいか。

車検証を渡す。

「真白小姫さんの所有とありますが、あなたは吉野川さんですよね?」

あちゃー。話がややこしくなった。今度は盗難車疑惑か。

あたしが財布から免許を取り出す。

「顔写真と名前を確認して」

免許の顔とあたしの顔を交互に見比べて困惑顔をする。

偽造だと思ったんだろう。

免許の照会をして本人確認もする。

「気をつけて運転してください」

警官はペコペコと平謝りだった。


「この時間が面倒だから佳乃を雇ったのに・・・」

佳乃が申し訳なさそうな顔をしている。

「お嬢様って実はお姉様だったんですね」

そっちか。確かに今まで佳乃にあたしの年齢は教えてない。

免許と車がある時点でそれなりの年齢だと察して欲しい。

まあ、この見た目だから、信じられないと思うけど。

「年齢的には結構おばちゃんよ」

開き直る。32歳アラサーでお肌の曲がり角とかとっくに曲がりきっている。

なんの因果か見た目は10歳程度のお子様だけどね。お肌もぷにぷにだ。

「詳しくは今度話してあげる」

でも、中身がオッサンだと佳乃に嫌われちゃうかな?

そうなったら仕方がないよね。時間かかるかも知れないけど、新しい人を探そう。


『目的地に近づきました、案内を終了します』


高速を降りて下道を走ること15分ほど。ナビの案内が終了する。

ナビによるとこの辺らしいけど。どこだろう。

「お嬢様、あの店ではないでしょうか?」

確かにそれっぽいマネキンが展示してある。

「駐車場はなさそうね。近くのコインパーキングに停めましょう」


今度はコインパーキングを探す。

最寄りの駅の近くにしかない。結局コインパーキングから10分以上歩く羽目に。

「電車で来るべきだったかしら?」

乗換が3回もあるから面倒というのが大きな理由だった。

Endless Dreamか。いかにもって感じの店名。

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