5-4 ちっぽけなプライド
◇
『牧場編以降 簡易プロット』
「ノイン:なんだ、急に力がみなぎってくる……!」
アインスに1つ命を奪われた後、なんとか逃げるノインに追い打ちをかけようと迫るのは主任――クラウス。
ノインは窮地に立つが、かつて自分を研究材料として扱ったゲゼルシャフトへの怒りの感情から力が覚醒する。
「クラウス:なんだ、その力は! 私も知らない力だ」
「フィーア:ノインも私も、もうあなたの知ってる私たちじゃないよ! 一緒に冒険をする中で、いろんな人に出会って、いろんな気持ちを知って、戦う理由を手に入れたんだから!」
そう叫ぶフィーアにも新たな力が宿る。覚醒した2人は、アインスもクラウスも圧倒する。
研究施設を破壊したことで、研究材料にしていた人たちはみんな目を覚ます。
そして、その事態に黙っていなかったのがゲゼルシャフトの本部だった。
「ラスボス:お前たちが、ファブリックの工場を破壊し、牧場を潰したのか」
ノインとフィーアの前に現れたのはゲゼルシャフトのトップ。施設を破壊された怒りでノインたちに襲い掛かり、戦闘が始まる。
多数の兵士と戦闘になるが、覚醒した2人は難なく蹴散らし、ついにトップを撃破する。
頭を失ったことでゲゼルシャフトは衰退し、再び世界に平和が訪れる。そして、ノインもフィーアも無事に記憶を取り戻すと同時に、ミスティルに汚染された身体を治すことに成功し、平和に暮らしていくのだった。
◇
智章は文章を最後まで打ち終えると、「ふう」と息を吐く。
彩人と別れて自宅に戻ったあと、一通りの身支度を済ませてから、部屋のパソコンと向き合っていた。
こんなプロットをアップすれば、あの世界はこの通りに進んでいくのだろうか。
「つまんな……」
パソコンのWordに打ち込んだこんなプロットを見て、思わず本音が口から漏れた。我ながら、あまりにもひどいプロットだ。
面白さなんて今は求めていなくて、あのゲームの世界を終わらせられればそれでいい。現実の世界だけでも面倒ごとが多すぎるのに、夢の中のことまで気にかけていられない。
智章は机の横に置いたスマーフォンを取って、LINEの画面を開くと梨英へのメッセージを打つ。
梨英には、彩人と偶然出会ったことを報告していた。返信を考えながら、改めて今日のやり取りを見返す。
梨英『彩人、どうだった? 相変わらず生意気?』
智章『拍車がかかってた! 金にもならない、誰にも遊んでもらえないゲームを作るなんて自己満だって言われた』
梨英『まあ、あいつもプロになれて天狗になってんだろ😒』
智章は指を動かして返事を送る。
智章『そうなのかな。なんだか楽しくなさそうに見えた……。まあ、プロになれなかった人間のひがみかもしれないけど笑』
画面を閉じてしばらくすると、梨英からの返信はすぐにきた。
梨英『あたしらが何を言ってもひがみになるからね。けどまあ、やっぱり5人集まるのはもう本格的にムリそうだね』
そんな文面を見て寂しくなる。分かってはいたことだったが、それでも文字として突きつけられると、心にくるものがあった。
「5人で集まるのは、もう……」
梨英からの返事を見つめながら、言葉を考える。迷っていると、一度画面が暗くなって慌てて適当な画面をタップする。
智章『それでも俺は、梨英がメイの曲を完成させてくれて嬉しかったよ』
梨英が曲を書いてくれたから、メイはあの世界で革命の歌を歌うことができた。街を救うことができた。
たとえゲームの中の世界とはいえ、あの時の感動を否定することはできない。
(俺だって、本当はちゃんと完成させたいんだよ……)
「ちくしょう……!」
ふざけるな。
ふざけるな、ふざけるな。
固定のファンもいないようなアマチュア底辺作家にだって、最低限のプライドはあるんだ。たとえお金にならない自己満足の作品だって、ちゃんとプライドを込めて創ってるんだ。
そんな言葉を心の中で吐きながら、智章はプロットが書かれたWord文書を”×”で閉じた。『保存しますか?』というパソコンからの親切な問いには、”ノー”で答えた。
(もうどうにでもなれよ)
この苛立ちをぶつけたい相手は彩人なのか、自分自身なのか、それはよく分からなかった。
それから智章はパソコンをシャットダウンして、その勢いのままベッドに飛び込んだ。
転生したあとのことは、なにも考えていない。
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小説の続き(ゲーム世界の物語)は、こちらをプレイしてご確認ください。
6日目の物語は、再びゲーム世界から目を覚ました後にご覧ただくことを推奨します。
https://amano-holiday.com/novelproject/index.html
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